落語

【落語】『道灌』のあらすじをざっくり紹介!

今回は、『​​談志の落語』の5巻を参考に、『道灌』というネタのあらすじを紹介します。

それでは、さっそく一緒に見ていきましょう。

あらすじ

ご隠居の趣味

「ご隠居、こんにちは」

「やあ、お上がり」

例によって、話は八五郎という男が、横丁に住むご隠居を訪ねてくるところから始まります。

このご隠居は絵が好きで、部屋のそこここに飾っていました。

そのなかの1つを指差して、八五郎はこう尋ねます。

「この絵はなんです?蓑を着たお侍が、桜の木に抱きついて震えてるみたいだけど」

「これは、備後の三郎だよ」

「誰ですか、その人は?」

「後醍醐天皇の忠臣、児島高徳だ」

「ああ、児島さんね」

児島高徳のことを知りもしないのに、ずいぶん馴れ馴れしく名前を呼ぶ八五郎。

二人の問答は、まだまだ続きます。

小野小町

「こっちの絵のきれいな女性は、誰ですか?」

別の絵を指し、ご隠居に尋ねる八五郎。

「小野小町だ」

ご隠居は、「一度でいいから、この人に会ってみたい」と言う八五郎を、「昔の人だから無理だ」と諫めてから、こんな逸話を披露します。

「お前のように、かつて小野小町に惚れた男はたくさんいた」

「そのなかの一人が、深草少将というお公家さんだ」

「彼が小野小町を口説くと、彼女は、『男心とは、変わりやすいものです。もしも私を想ってくださるなら、私のところに百夜通ってください』と告げる」

「それから深草少将は、雨の日も風の日も彼女のもとを訪ねたんだが、九十九日目の晩に、大雪のためにお果てなされた」

この話を聞いた八五郎は、亡くなった自分の父親のことを思い出すという。

「お前のお父さんにも、そんな色っぽい話があったのか。どんな女の人のところに通ったんだい?」

ご隠居が尋ねると、八五郎が話し出します。

「女じゃないよ。食中毒になって、便所に通ったんだ」

「通って通って、とうとう50回目にお果てなされたよ」

これにはご隠居も、「いい加減にしなよ」と呆れた様子でした。

太田道灌公

「こっちの絵は、おもしろいね」

別の絵に目をつけた八五郎。

「椎茸が風のあおりを食らったような帽子を被って、虎の皮の股引きを履いた男が、弓を持って突っ立ってるや。その近くには、女の人が黄色いカレーライスみたいなのを差し出してますね」

見当違いの八五郎を、ご隠居は丁寧に訂正していきます。

「この人が被っているのは“騎射笠”で、履いているのは“行縢”。狩りをするための格好をしているんだ」

「そして、女の人がお盆に載せてる黄色いものは、カレーじゃなくて“山吹の花”」

さらにご隠居は、絵の解説を続けます。

「この絵に描かれているのは、かの有名な太田道灌だ」

「大きな土管?」

太田道灌を知らない八五郎に、ご隠居は詳しい話をしてあげます。

「太田左衛門太夫持資。後に出家されて、道灌と名乗ったお方だ」

「その道灌公が家来を連れて、山へ狩りに行ったときのこと。道中でにわか雨に見舞われた」

「雨具の支度がなくて、困ってしまった道灌公。近くにあった家を訪ねて、雨具を借りることにした」

「そこで出てきた女の人に、雨具を所望したところ、彼女は顔を赤らめてから、奥へと入って行く」

「しばらくして戻ってきた女性は、お盆の上に山吹の枝を載せて、『お恥ずかしゅうございます』と、道灌公に差し出したんだ」

この女性の行動の意図が、さっぱりわからない八五郎。

「お前がわからないのも無理はない。道灌公でさえ、おわかりにならなかったのだからな」と、ご隠居は解説を続けます。

「道灌公がしばし呆然としておられると、家来の一人が進み出てこう言った」

「恐れながら申し上げます。『七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき』という古い和歌がございます。彼女は、この歌になぞらえ、“実”と雨具の“蓑”をかけて、お断りをしたいのだと存じます」

「これに道灌公は納得し、『私は歌道に暗かった』と言って、自分のお城に帰っていったんだ」

この風流な話を聞いた八五郎は、わからない部分をご隠居に質問し始めます。

「道灌さんの『私は歌道に暗かった』ってセリフは、どういう意味ですか?」

「『暗い』とは、その道に明るくないこと。つまり、知識が乏しいという意味だ。道灌公は、自分の和歌の知識のなさを恥じたんだな」

「道灌さんが帰った城っていうのは?」

「おい、笑われるよ。千代田のお城があるだろう?あれは、初めは道灌公のお城だったのが、後に徳川様のお城になったんだ」

「へぇー。そしたら、徳川さんはずいぶん安く買ったんだろうね。『家、安』っていうくらいだからね」

八五郎の失敗

馬鹿なことを言ってる八五郎は、ご隠居に「さっきの和歌を紙に書いてください」とお願いします。

ご隠居が訳を聞くと、八五郎は、「雨が降るたびに知り合いが傘を借りに来て、返してもらえずに困ってるから、次はその歌で断りたい」という。

「仕方がないな」とご隠居は、八五郎も読めるように平仮名で歌を書いてあげました。

「悪いね、ご隠居。えーっと、な・な・へ・や・へ……」

平仮名を読むのさえおぼつかない八五郎に、ご隠居は丁寧に歌の読み方を教えてくれます。

そんなことをしているうちに、だんだん空の様子があやしくなってきました。

「雨が降ったら、また奴が傘を借りにくる!」と言って、慌てて自分の家に帰っていった八五郎。

そこへ、おあつらえ向きに、男が八五郎の家を訪ねてきました。

「おう、八五郎。ちょっと借り物だ」

「わかってるよ。傘だろ?」

「いや、雨具はもう合羽を着てるからいらないんだ。これから出かけるんだが、遅くなると明かりがいるから、提灯を貸してくれないか?」

しかし、さっきの和歌を使いたい八五郎は、彼に「傘を貸してくれ」と言って欲しいので、無理に頼んで言ってもらいます。

「わかったよ。傘を貸してくれ。これでいいのか?」

「待ってました」と八五郎。

裏声で女性の声を真似て、「お恥ずかしゅう……」と言いながら、例の和歌を差し出します。

しかし、相手の男も、あまり字が読めません。

「なんだこれは?な・な・へ・や・へ……?」

「これはな、『七重八重 花は咲けども 山吹の……』」と、ここまでは読めた八五郎ですが、あとの読み方を忘れてしまいました。

そこで適当に、「味噌一樽と鍋と釜敷き」と読みます。

「なんだい、それは。台所道具の都々逸か?」

「都々逸なんて言ってやがる。お前は、歌道に暗いな」

「角が暗いから、提灯を借りに来たんだ」

おわりに

今回は、『道灌』のあらすじを紹介しました。

この動画で興味を持っていただけたなら、ぜひ実際に『道灌』を聴いてみてください。