落語

【涙を誘う人情噺】落語「芝浜」のあらすじをざっくり紹介!

今回は、『​​談志の落語』の3巻を参考に、『芝浜』というネタのあらすじを紹介します。

それでは、さっそく一緒に見ていきましょう。

https://youtu.be/56rp1fMZ800

あらすじ

酒飲みの魚屋

この落語の主人公は、魚屋の魚勝。

魚屋としての腕はピカイチなのですが、お酒が好きすぎるのが玉に瑕な男です。

ここのところは、毎日のようにお酒を飲み、あまり仕事をしていません。

昨夜も浴びるように飲んでいて、奥さんに止められた魚勝は、もう少しだけ飲む代わりに、明日はちゃんと仕事に行くことを約束させられてしまいました。

そうして迎えた、次の日の朝のこと。

「お前さん、起きてくれよ!」

奥さんに、体を強く揺さぶられて起こされた魚勝。

「今日から、ちゃんと仕事に行くって約束しただろ?」

「……そうだったな。でも、仕事道具はあるのか?」

「全部揃えて、出しておきました」

用意周到な奥さん。

ここまでしてもらったら、仕事に行くしかありません。

「わかったよ!行けばいいんだろ、行けば」

魚勝は渋々、道具を持って家を出ます。

彼がこれから向かうのは、東京は芝の浜。

当時はそこに魚市場があり、魚勝のような魚屋はここで魚を仕入れ、町で売って歩いていました。

やがて魚勝は市場に到着しましたが、店が一軒も開いていません。

「おかしいな?」と思っていた、ちょうどそのとき、近くの寺から、時を告げる鐘の音が聞こえてきました。

「あいつ、起こす時間を間違えやがったな」

なんと、奥さんは、間違って2時間も早く魚勝を起こしていたのです。

「どおりで辺りが暗いと思ったよ。仕方ない、海でも見ながらタバコを吹かして、のんびり市場が開くのを待つか」

そうして、浜辺までやってきた魚勝は、白々と夜が明けていくなか、海を眺めながら、タバコを吸い始めました。

すると、波に揺れる長い紐が彼の目に入ります。

「なんだ、あれは?」

近づいて、その紐を引っ張ってみると、海の中から革の財布が現れます。

「やけに重たいな。きっと中に砂が入っちゃったんだろう」

そう思って、何気なく財布の中を覗いた魚勝は、途端に顔色を変え、急いで家に帰っていきました。

財布の中身

「おい、早く開けてくれ!」

狼狽した様子で、家の戸を叩く魚勝。

奥さんに開けてもらうと、慌てて中へ飛び込みました。

「どうしたんだい?そんなに血相を変えて」

「この財布の中を見てくれ!」

魚勝は震える手で、先ほど拾った財布を奥さんに渡します。

「なんだい、これは。ものすごい大金じゃないか」

「お前、いくらあるか数えてみてくれ!」

そう言われた奥さんは、お金を数え始めますが、気が動転して、上手く数えられません。

「何やってんだ。ちょっと貸してみろ!」

魚勝が金を数えると、なんと総額、四十二両。

「これだけあったら、もう仕事なんかする必要ないじゃないか!よーし、祝い酒だ!」

そう言って、昨日の残りの酒を飲み始めた魚勝。

今日は早起きしたこともあって、すぐに酔いが回り、やがてグウグウ寝入ってしまいました。

魚勝の夢

「お前さん、起きてくれよ」

奥さんに、体を揺さぶられて起こされた魚勝。

「今日から、仕事に行くって約束しただろ?」

「なに、仕事?そんなの、昨日の四十二両があるんだから、行く必要ないじゃないか」

「……四十二両?何のことを言ってるんだい?」

奥さんのその言葉に、困惑し始める魚勝。

「いや、昨日、俺が芝の浜で拾ってきた……」

「何を夢みたいなこと言ってるんだよ。昨日の朝は、私が起こしても、お前さんは起きやしなかったじゃないか」

「わかった。そんな夢を見たから、昨日はあんなに騒いでたんだね」

奥さんの話によれば、昨日は昼過ぎに起きて、銭湯に行ったと思ったら、大勢の友達を連れて帰ってきた魚勝。

そして、「めでたい、めでたい」と言いながら、お酒に鰻に天ぷらに、飲んで食べてのどんちゃん騒ぎ。

奥さんは、何がめでたいのか知らないが、友達の前で主人に恥をかかせては悪いと、近所に借金までして、お酒と食べ物を用意したとのことでした。

「じゃあ、金を拾ったのは夢だったのか……」

あまりの自分の不甲斐なさに、肩を落とす魚勝。

「情けないやつだ、俺は。金が欲しい、金が欲しいとばかり思ってるから、そんな夢を見るんだ」

「……こんな俺に生きてく価値なんかないや」

「そんなことないよ。お前さん、働こう。働けば、きっとどうにかなるよ」

「……本当か?よし、わかった。俺、これからは一生懸命働くよ。酒も今日から、すっぱりやめてやる」

大晦日

心を入れ替え、仕事に精を出し始めた魚勝。

もともと魚屋としての腕はピカイチでしたから、きちんと働いていれば結果も出ます。

3年も経った頃には、いっぱしの店を構える、立派な魚屋の主人となりました。

そして迎えた、大晦日。

「今、帰ったよ」

穏やかな顔で、銭湯から帰ってきた魚勝。

彼が帰ってきた部屋の中は、畳が新しくなっていて、い草の良い匂いがしています。

「おい、火鉢の火を強くしておきなさいよ。外は寒いから、これからツケ払いの取り立てに来る方が、少しでも温まれるようにしといてやろう」

「いや、もう借金はないんだよ。こっちから取り立てないといけないところはあるんだけど……向こうさんにも、事情があるだろうからね。春になってからでも、構わないと思ってるんだけど、いいだろ?」

「ああ、いいさ。こっちだって、待ってもらったことがあるからね」

そう話す夫婦の間には、穏やかな空気が流れています。

外からは、風で門松の笹の葉が触れ合って、サラサラと雪が降るような音が聞こえてきました。

ここで奥さんは、急に思い詰めたような顔になって、口を開きます。

「ちょっと、お前さんに見て欲しいものがあるんだけど……」

そして、奥から何かを取り出してきました。

「このお財布に、見覚えはない?」

「これは……3年ほど前に俺が夢で見た、四十二両入った財布じゃないか!どうしてここに……?」

奥さんは涙を流しながら、ことの顛末を説明し始めます。

「実は、あれは夢じゃなかったんだよ」

「お前さんがこのお金を拾ってきたとき、私はとっても嬉しかった。これで、やっと普通の生活ができる!って」

「でも、少し経ってから、恐ろしくなってきちゃったんだよ。だって、こんな大金を盗んだとなったら、あなたの首が飛んでしまうかもしれないからね」

「だから、お前さんが酔って寝ている間に、大家さんのところに相談に行ったの」

「そしたら大家さんは、財布はきちんと無くし物として届け出て、主人には夢だったことにしてしまえって、言うんだよ」

「私は心苦しかったんだけど、お前さんが捕まるのはもっと嫌だから、『夢だった』って嘘を吐くことにしたんだ」

「本当にごめんなさい……」

妻からの告白に、言葉を失う魚勝。

さらに奥さんの話は続きます。

「この財布はね、本当はずいぶん前に、『落とし主不明』ってことで、私のところに返ってきてたんだよ」

「でも私、お前さんが一生懸命に働いてくれてるのが、嬉しくて……」

「もし、この財布が夢じゃなかったとわかったら、また前の酒飲みに戻ってしまうのが怖くて、言い出せなかったんだ……」

「お前さん、私のことを許せないよね……?堪忍しておくれよ……」

妻の話を黙って最後まで聞いた魚勝は、ここでゆっくりと口を開きます。

「……ありがとう。お前が俺のことを思って、行動してくれたのは、よくわかった。3年間、嘘を守り続けるのも、辛かっただろう?」

夫からの優しい言葉に、涙が止まらない奥さん。

「ねえ、お前さん。お酒、飲まない?」

実は奥さんは、彼へのお詫びの気持ちから、特上のお酒を用意していたのでした。

「飲んでもいいのかい?」

「いいよ。今日は、たくさん飲んじゃいなよ」

「そうかい?それじゃあ、お言葉に甘えて……」

魚勝は奥さんのお酌で、お酒を盃になみなみ注いでもらいました。

「おう、久しぶりだな。元気にしてたか?」

そうお酒に語りかけ、盃を口元まで運びます。

しかし、そのまま飲まずに手を止めて、盃を置いてしまった魚勝。

それから彼は、呟くようにこう言いました。

「よそう。また夢になるといけねえ」

おわりに

今回は、『芝浜』のあらすじを紹介しました。

この動画で興味を持っていただけたなら、ぜひ実際に『芝浜』を聴いてみてください。