「鞍馬山より牛若丸が出でまして、その名を九郎判官……」
「青菜」のあらすじ

話は、植木屋がお客さんの庭で作業をしているところから始まります。
植木屋さん。精が出ますなぁ。
ああ、どうも。旦那ですか。
植木屋さんは、酒をおあがりかな?
よかったら、こっちで休みになさらんか。
いいんですかい?
そしたら、お言葉に甘えて……。
さあさあ、こちらへどうぞ。
おーい、奥や。
お酒を持ってきてあげてください。
旦那がそう声をかけると、奥さんは酒を持ってきてくれました。
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これは、大阪の友人から届いた「柳影(やなぎかげ)」です。
みりんと焼酎を1:1で割った、甘口の酒。江戸では「直し」と呼んだ。
ほう。
それでは、さっそく……。

これは、美味いですなぁ。
そう言ってもらえると嬉しいよ。
この「鯉のあらい」も、どうぞ。

ええ、いただきます。
……これも、よく冷えてて美味いなぁ。
そうかい、そうかい。
ときに、植木屋さんは、菜をおあがりかな?
菜っ葉ですか?
実は、大好物なんで。
それでは、ご馳走しよう。
奥や。菜を出してあげてください。
……旦那さま。
ん、なんだ?
鞍馬山より牛若丸が出でまして、その名を九郎判官……。
では、義経にしておきなさい。
……?
いやぁ、植木屋さん。
すまないが、菜はもう食べてしまって無いそうだ。
誠に失礼したな。
ええ、それは全然構わないんですが……。
さっきお二人が言ってた、「鞍馬山」とか「義経」って、何のことです?
ああ、あれは私と家内で使ってる、隠し言葉だよ。
菜はもう食ってしまったから、家内は「名は九郎」、「菜は食ろう」と教えてくれた。
だから、私は「よしとけ」という意味で、「義経にしなさい」と応えたってわけだ。
……なるほどねぇ。
あ、旦那。あっしの柳影も「義経」になりましたんで、このへんで失礼しますね。
おや、そうかい?
どうも、ご苦労さまでした。
こうして植木屋は、自分の長屋に帰ってきます。

おう、帰ったよ。
おかえりなさい。
今日の晩飯は、なんだい?
イワシだよ。
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イワシかぁ。
さっき旦那の家でご馳走になったのとは、えらい違いだな……。
なに、お客さんのとこで、何かいただいたの?
ああ、それがよ……。

ここで植木屋は妻に、先ほどご馳走になったことと、例の隠し言葉のことを話します。
へぇー。
名を食ったから「名を九郎」、よしときなさいで「義経にしなさい」ねぇ。
お前には、そんな芸当できないだろ?
あたしだって、それくらいはできるさ。
本当かよ?
……お、向こうから熊の野郎が来やがった!

あいつに酒を飲まして、さっきの隠し言葉をやろうぜ。
よしときなよ。
お酒は高いんだから……。
ケチケチすんなよ。
いいか?お前は俺が呼ぶまで、次の間にいるんだぞ。
この長屋は、ひと部屋なんだから、「次の間」なんてないじゃないか。
うーん……そしたら、押入れに入ってろ!
いやだよ。
こんなに暑いのに……。
いいから早くしろ!
熊が来ちまうだろ?
ええ?
こうして、妻を無理やり、押入れに入らせた植木屋は、友達の熊五郎に声をかけます。
やあ、植木屋さん。
精が出ますなぁ。
植木屋ぁ?
植木屋は、お前じゃねえか!
俺は大工だ。
そうでした、そうでした。
なんだよ、その喋り方は?
まぁ、とにかく、精が出ますなぁ。
いや実は、精なんか出てないんだよ。
さっきまで昼寝してたんだ。
そ、そうですか……。
ときに熊さんは、お酒をおあがりかな?
なんだよ、あらたまって。
俺が酒好きなのは、お前も知ってるだろ?
これは、大阪の友人から届いた「柳影」です。
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どうぞ、おあがり。
えっ、いいのかい?
「柳影」って、こっちで言うところの「直し」だろ?
じゃあ、遠慮なく……って、これは普通の酒じゃねえか!
まあまあ。
この「鯉のあらい」も、どうぞ。
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鯉のあらい?
どこからどう見ても、イワシの塩焼きじゃねえか!
まあまあ。
ときに、熊さんは、菜をおあがりかな?
俺は菜は嫌いだ。
えっ?
子どもの頃から、菜は大嫌いなんだよ。
それは、ひでえじゃねえか。
酒飲んで、イワシを食って、いまさら菜は嫌いだなんて……。
嘘でも、好きだと言ってくれよ!
なんだよ、それ?
……わかったよ。菜は好きだ。
それでは、ご馳走しよう。
奥や。菜を出してあげてください。
奥?
そういや、今日は奥さんは留守なんだな?
おーい、奥や!
植木屋に呼ばれた妻は、満を持して押入れから出てきます。
……旦那さま。

びっくりした……。
そんなとこに入って、何してんだい?
汗びっしょりじゃねえか!
鞍馬山より牛若丸が出でまして、その名を九郎判官、義経。
え、義経⁉︎
あの、えーと……そしたら……。
「弁慶にしておけ」
ー完ー
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「青菜」のオチ(サゲ)
オチのセリフに出てくる「弁慶」は、上方の言葉では「人からご馳走されること」を意味しました。
その由来は、奢ってくれる大尽を「義経」に見立て、その近くにいる取り巻きを「弁慶」と呼んだことだそうです。
「青菜」の豆知識
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