「てめっちに頭下げるお兄さんとは、お兄さんのできがちいとばかり違うんだい!」
「大工調べ」のあらすじ

話は、大工の与太郎の家に、棟梁の政五郎がやってくるところから始まります。
おう、与太郎。
ここのところ仕事に来ないが、どうした?
実は、家賃を滞らせてたら、道具箱を大家さんに取られちゃったんだよ。
おうおう、何やってんだ!
道具箱は、俺たち大工の大切な商売道具じゃねえか!
家賃はいくら滞ってんだ?
1両と800文。
それなら、ここに1両ある。
これをやるから、大家のとこ行って、早く道具箱を返してもらってこい!
いや、棟梁。
これじゃあ、あと800文足りないよ。
あたぼうよ!
言いようによっちゃあ、タダでも道具箱を取り返せるんだ!
大家は1両も貰えて、御の字じゃねえか!
そういうもんかねぇ?
そういうもんだ!
さあさあ!早く行った行った!
というわけで、与太郎は渋々、大家の家に向かいます。

こんちは。
おう、与太郎か。
俺の道具箱、返してよ。
それはいいが、家賃は持ってきたのか?
持ってきたよ。ほら。

おい、銭を投げるんじゃない。
……おや? 一両しかないぞ?
あと800文、足りないよ。
あたぼうよ。
言いようによっちゃあ、タダでも道具箱を取り返せるんだ。
大家は1両も貰えて、御の字じゃねえか。
なんてことを言うんだ!
残りの800文を持って来ないかぎり、道具箱は返さんぞ!
こうして、与太郎は手ぶらで自分の家に帰ります。

ただいま。
おう、どうだった?
800文足りないからダメだって。
なにぃ?
ここで与太郎は、さっきの出来事を話します。

そりゃあ、大家は怒って当然だ!
まぁ、お前を一人で行かせた俺も悪かった。
今度は俺も一緒に行ってやる!
ということで、棟梁と与太郎の二人で、再び大家の家を訪ねます。

ごめんください。
おや、棟梁さんじゃないか。

……それに、また与太郎か。
実は、与太郎に道具箱を返してやって欲しくて、あっしもお願いに上がったんです。
こいつはバカですが、こう見えて大工としての腕は悪くない。
仕事さえすれば、すぐに家賃を払えると思うんです。
だから、こいつに道具箱を返してやってもらえませんか?

まぁ、棟梁さんがそこまで言うなら……。
道具箱なら、そこにありますので、持っていって結構です。
ありがとうございます。
聞けば、滞ってるのは、先ほど届けさせた1両を引けば、残りはたかが800文。
何かのついでがあれば、こちらに届けさせますんで。
……たかが800文?
それは聞き捨てならないね。

あなた方にとっては、たかが800文でも、私にとっては大金だ。
しかも、ついでがあれば届けさせるって……。
ついでがなければ、それっきりかい?
あ、いや、そういうわけじゃ……。
よし、決めた。
やっぱり、残りの800文をここに並べてもらうまで、道具箱は預かっておく。
大家さん、そうヘソを曲げないでくださいよ。
あっしは職人なもんで、口が悪くていけねぇ。
気を悪くさせたことは、すまなかった。

ただ、棟梁のあっしが、こうやって頭を下げてるんだ。
それに免じて、今日のところは道具箱を返してくださいよ。
たかが大工の棟梁が頭を下げたところで、何になるんだ。
ダメだ。道具箱は返せません。
そうですか……。
あっしがここまで頼んでも、返さないとおっしゃるんですね?
そのとおりだ。
わかったら、さっさと帰ってくれ。
この丸太ん棒!

へ?
てめえなんぞ、血も涙もねえ、目も鼻も口もねえ、のっぺらぼうだから丸太ん棒ってんだ!
てめっちに頭下げるお兄(あに)さんとは、お兄さんのできがちいとばかり違うんだい!
てめえの昔のことを知らねぇとでも思ってやがんのか!
どこの馬の骨だか知らねぇ野郎が、北風に吹かれて、この町内に転がり込んできやがった!
寒空の下、汚ねえ浴衣一枚でガタガタガタガタ震えてやがったろ!
幸いこの町内には、優しいお方ばかりだ!
可哀想だから何とかしてやりましょうってんで、てめえに雑用を頼んでやった!
それで小銭を貰って、何とか食いつないできたんじゃねえか!
そんなてめえに運が向いたのは、六兵衛さんが死んだからだ!
人手が足りなくなったところにつけ込んで、てめえはこの家に転がり込んだ!
それで六兵衛さんの元妻とくっついて、飲まず食わずで銭貯めて、その金で大家になったんじゃねえか!
棟梁、もうやめなよ。
なんだか、喧嘩みたいだ。
喧嘩してるんだよ!
お前も何か言ってやれ!
何かって?
俺がさっきやったみたいに、啖呵を切るんだよ!
わかったよぉ。
えーっと……やい、大家さん!
「さん」はいらねぇ!
やい、大家!
大家のくせに、家賃を取りやがる!
当たり前だろ!
俺はお前の昔のことを知ってるぞ!
どっかの牛の骨?豚の骨?
馬の骨!
そうそう、その馬の骨のお前に運が向いたのは、六兵衛さんが死んだからだ!
六兵衛さんの元妻とくっついて、頑張って金貯めて、今じゃこんなに立派な大家になっちゃって……。
どうも、おめでとうございます。
ダメだこりゃ。
おいおい、黙って聞いてたら、勝手なことをペラペラと……。
私は、昔からこの町内にいましたよ。
この野郎、ほら吹いてやがる!
そんなの嘘八百だ!
棟梁さん、道具箱を返して欲しいなら……
「嘘でもいいから、ここに800文並べてよ」
ー完ー
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「大工調べ」のオチ(サゲ)
このネタには、下記のような続きもあります。
—
大家に啖呵を切った棟梁は、大工箱を取られたことを、町奉行に訴え出ることにしました。
「でも、棟梁。俺たちの喧嘩なんか、お奉行様が裁いてくれるの?」
「大丈夫だ。細工は流々、仕上げをご覧(ろう)じろ」
「細工は流々?」
「工夫すればなんとかなるから、まぁ見とけってことだ!」
その後、棟梁が願書を書き、与太郎が何度か駆け込み願いをした末に、やっと町奉行が裁いてくれることに。
奉行所には、与太郎・棟梁・大家の3人が召集されます。
ここでの町奉行の裁定は、以下のとおり。
- 家賃の滞納は、借金と同じ
- 借金のカタに、人の物を預かるのは、質屋の商売である
- 質屋の営業の許可を受けていない大家が、与太郎から道具箱を取ったのは、けしからん
- それゆえ大家は、道具箱を預かっている間に、与太郎が稼げたであろう金額を支払うこと
町奉行から大工の給料の目安を尋ねられた棟梁は、だいぶ多めに見積もって、「与太郎なら、道具箱がない間に、3両は稼げました」と答えます。
「それでは、大家。すぐに与太郎に、3両を支払え」ということで、一件落着になりました。
与太郎たちがゾロゾロと退出するなか、棟梁にこっそりと声をかけた町奉行。
「もともとは1両ちょっとの滞りで、3両をせしめるとは、ちと儲かったな。さすが、大工は棟梁」
「へい。調べをご覧じろ」
—
最後の棟梁のセリフにある「調べ」とは、「奉行所での裁定(=取り調べの結果)」のこと。
「細工は流々、仕上げをご覧じろ」と「大工は棟梁、調べをご覧じろ」が、駄洒落になっているというオチでした。
「大工調べ」の豆知識
- このネタは、大岡忠相の裁判をモチーフにした「大岡政談」という講談を落語化したもの。
落語に興味をお持ちのすべての方にオススメしたいのが、『昭和元禄落語心中』というアニメです。
この作品は、雲田はるこさん原作のマンガをアニメ化したものなのですが、落語の魅力が「これでもか!」というほど、たっぷり詰まっています。
まず注目すべきは、声優陣の豪華さ。
- 関智一:スネ夫(ドラえもん)etc.
- 石田彰:渚カヲル(エヴァンゲリオン)etc.
- 山寺宏一:ジーニー(アラジン)etc.
- 林原めぐみ:灰原哀(名探偵コナン)etc.
- 山口勝平:ウソップ(ONE PIECE)etc.
そして、高座のシーンの演出は、まるで寄席の中にいるような気分になってきます。
落語に少しでも興味があれば、ハマること間違いなしですので、ぜひ観てみてください!
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