「このお香は、反魂香と言って、生前に高尾から頂戴したものでな。毎晩、回向の折に焚くと、彼女の姿が目の前に現れるのだ」
「反魂香(はんごんこう)」のあらすじ

夜、八五郎が寝ていると、向かいの家から鉦(かね)の音が聞こえてきます。
念仏を唱えるときに鳴らす、下記のような金属製の楽器。

また、向かいの浪人だよ……。
この間越してきたと思ったら、毎晩毎晩、カンカンカンカン鳴らしやがって!
そう言って、八五郎は起き上がり、浪人の部屋を訪ねます。
ちょっとちょっと!
おやおや、八五郎さんですか。
こんばんは。
「こんばんは」じゃないよ!
毎晩、そうやってカンカンやってたら、長屋のみんなが寝られねえじゃねえか!
いやはや、面目ない。
ただ、この香を焚き終えるわずかの間、しばしご辛抱願いたい。
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ん?そのお香が、何だってんだい?
これは話すと長くなるが……。
実は某(それがし)、今では「道哲」と名乗っておるが、元は因州鳥取の藩士「島田重三郎」と申す者。
朋友に誘われて吉原に通ううち、三浦屋の高尾と深い仲になり、末は夫婦になろうと言い交わしていた。
おいおい、三浦屋の高尾太夫って言ったら、絶世の美女って噂の花魁じゃねえか!
ただ、高尾は仙台の大名に身請けされたと聞いたが……。
大金を払って、遊女を遊郭から引き取ること。
いかにも。
しかし高尾は、某との約束を忘れず、仙台候には身を許さなかった。
それが原因で、彼女は刃にかかり、鬼籍に入ってしまったのだ。
それは、ご愁傷様です……。
このお香は「反魂香」と言って、生前に高尾から頂戴したものでな。
毎晩、回向(えこう)の折に焚くと、彼女の姿が目の前に現れるのだ。
お経をあげるなどして、故人の供養をすること。
死んだ花魁が出てくるって!?
ちょっと、やってみせてくれよ!
仕方あるまい……。
浪人は八五郎の頼みを聞き、新しい反魂香を出して焚き始めます。
すると、煙の中から、高尾太夫の姿が現れました。

島田重三郎さん。
取り交せし反魂香、あまり焚いてくださるな。
もう焚くまいとは思えども、ひと目あなたに会いたさに……。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……。

浪人が念仏を唱えると、高尾太夫の姿はスッと消えました。
おお!これは、すごいものを見せてもらったよ!
なぁ、そのお香、俺にも少し分けてくれよ。
それは……。
いいじゃねえか!
実は、俺も3年前にかかあに死なれてな。
久しぶりに会いたいんだよ!
すまぬが、この反魂香も残りわずかゆえ……。
なんだい、分けてくれないのかい!
このシミッタレめ!!
八五郎は、捨て台詞を吐くと、浪人の家を飛び出しました。

なんとか、あのお香が手に入らないかな?
……もしかしたら、薬屋に行ったら、置いてるかもしれないぞ。
そこで八五郎は、夜中なのにも関わらず薬屋まで走り、戸をドンドンと叩きます。

おい、開けてくれ!
はいはい、どうしました?
急病人ですか?
まぁ、そんなようなもんだ!
薬を売ってもらいたくてな。
はあ、何の薬でしょう?
えーと、たしか……ハンゴ……ハンゴ……。
ああ。越中富山の「反魂丹(はんごんたん)」ですか?
それだ、それ!
富山で作られる、胃痛や胸やけに効く薬。
こうして、「反魂香」と間違えて「反魂丹」を買って、家に帰ってきた八五郎。
さっそく火鉢の中に反魂丹を入れて、火をつけます。

やがて煙が上がってきましたが、もちろん奥さんの姿は現れません。
そうだ、鉦を忘れてたよ。

八五郎は慌てて鉦を取り出して、カンカン鳴らしてみましたが、やっぱり奥さんは現れません。
おかしいな……。
煙が足りないのか?
そう呟いて、手に持っていた反魂丹を火鉢に追加した八五郎。
それでも奥さんの姿は現れないので、ついには買ってきた袋ごと、火鉢に突っ込みました。
このため、家は煙でいっぱいになってしまいます。

こりゃ、苦しい……。
かかあの奴、早く出てきてくれねえかな……。
すると、外から八五郎の家の戸を叩く人がいます。
八さん、八さん!
なんだ、かかあの奴、表から来たのか。
はいはい、今開けるからな!
しかし、八五郎が戸を開けると、そこに立っていたのは、隣に住む奥さんでした。
ちょっと、さっきからきな臭いけど……。
「火事じゃないかい?」
ー完ー
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「反魂香」の豆知識
- 別題は、「高尾名香」「高尾の亡霊」。
- 上方落語では、「高尾」という題で演じられる。
- 高尾の幽霊が出る場面では、大どろと三味線の演出が入る。
- 浪人の島田重三郎は、白井権八と並ぶ色男と称せられる。
- 八代目 三笑亭可楽が得意とした。
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