「あれは火焔太鼓と申してな。世に二つとない名器だそうだ」
「火焔太鼓」のあらすじ

この話の主人公は、商売下手な道具屋の「甚兵衛」。
物語は、彼が朝市で商品を仕入れて帰ってくるところから始まります。
ただいま。
お帰りなさい。
何か、良い物あった?
ああ、太鼓を仕入れてきたよ。

なんだい、これは。
ずいぶん汚い太鼓だねぇ……。
いくらしたの?
一分ニ朱。
今の価値に換算すると、3万8,000円くらい。
ええっ⁉︎
一分ニ朱もしたのかい?
こんな太鼓、店に出したって売れやしないよ!
売れるよ!
俺が売ってみせるよ!

おい、定吉ー!
これを表に持ってって、埃を落としておいてくれ。
そう頼まれた小僧の定吉は、はたきで太鼓を叩きはじめます。
すると、軽く叩いただけなのに、ドンドンと大きな音が響きました。
その音を聞いて、武士が訪ねてきます。
ご免。
はい、いらっしゃいませ。
今、太鼓を叩いておったのは、この店か?
ええ。
実は今、わが殿が駕籠の中で音を聴き、どのような太鼓か見たいと仰せである。
悪いが、太鼓を屋敷まで持参してもらいたい。
へい、かしこまりました。
武士は屋敷の場所を伝えると、足早に立ち去っていきました。
おい、聞いたか?
もしかしたら、殿様が買ってくれるかもしれねえぞ?
バカ言ってんじゃないよ。
こんな汚い太鼓を殿様に見せたら、「無礼者!」って怒られて、松の木に縛られちまうよ。
ええっ⁉︎
それなら、行くのをよそうかな……。
「行く」って言っちゃったんだから、行かなくても怒られるよ!
まぁ、お怒りを買わないように、なるべく頭を低くして、「売ってやろう」なんて気持ちは少しも出さないようにすることだね。
……わかった。
じゃあ、行ってくるよ。
こうして、とぼとぼと大名屋敷へと向かった甚兵衛。

門番に要件と名前を告げると、先ほど店に来た武士のところに案内されました。
おお、最前の道具屋か。
こちらに上がれ。
いえ、私はもう帰ろうと思ってるんで……。
何を言っておるのだ。
早く部屋に入って、太鼓を見せてくれ。
あの……太鼓を見ても、怒らないでくださいね?
無論だ。
これです。

これは、ずいぶんと年季が入った品だな。
ええ。
年季に関しては、どんな太鼓にも負けません。
妙なことを自慢するな。
では、ちと拝借するぞ。
そう言って、武士は甚兵衛の太鼓を持って、殿様に見せに行き、しばらく経ってから戻ってきました。
殿に見せて来たぞ。
……怒ってませんでした?
たいそう御意に召された。
よかったな、お求めくださるそうだぞ。
ええっ⁉︎
売ってくれるな?
も、もちろんです!
それでは、いくらならば、あの太鼓を手放すか?
えーっと……いくらぐらいなんでしょう?
それをお主に聞いておる。
遠慮せず、手一杯に申してみよ。
えーっと……じゃあ、10万両!
それは高すぎる。
ですよね。
でも、あなたが負けろって言えば、いくらでも負けますよ!
そんな商売があるか。
……ふむ。
それでは、300両でどうだ?
さ、300両⁉︎
今の価値に換算すると、3,000万円くらい。
ああ。不足か?
300両って、1両の小判が300枚ってことですよね?
何を当たり前のことを申しておる。
どうだ、300両で売るか?
売ります、売ります!
でも、どうして、あんな汚い太鼓に300両も出していただけるんです?
なんだ、その方は知らぬのか。
あれは「火焔太鼓」と申してな。

世に二つとない名器だそうだ。
そ、そうだったんですね。
こうして、武士から300両を受け取った甚兵衛は、あまりの出来事にふわふわした気持ちで家に帰ってきます。

た、ただいま……。
おかえり。
木に縛られなかったかい?
あ、ああ。
あの太鼓、売れたよ。
へぇー、それは良かったね。
いくらになったんだい?
300両。
へ?
300両になったよ!
300両って、1両の小判が300枚の?
何を当たり前のことを言ってんだ!
ほら、これを見てみろ!!

まぁー!
よく、あんなに汚いものが、そんなに高く売れたね?
ああ。やっぱり、音のするものに限るな!
そうだね!
だから今度は、半鐘を仕入れてこようと思ってんだ!
いや、半鐘はいけないよ。
「おじゃんになるから」
ー完ー
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「火焔太鼓」のオチ(サゲ)
最後のセリフの「おじゃんになる」は、「物事や計画がダメになってしまう」という意味。
この言葉の由来は、火事が鎮火したときに、やぐらに取り付けられている半鐘を「ジャンジャン」と2回鳴らしたことだと言われています。
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「火焔太鼓」の最後は、次は半鐘を仕入れてきて儲けようとしている甚兵衛に対し、奥さんが「それは上手くいかないよ」とたしなめる、というオチでした。
「火焔太鼓」の豆知識
- このネタは、五代目 古今亭志ん生の十八番だった。
 
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