「私は、金玉ほど、マヌケなものは無いと思ってましてねぇ」
「金玉医者」のあらすじ

話の舞台は、とある大きな商家。
そこの一人娘が、長いこと患って、床に伏せていました。
これまで何人もの医者に診てもらったものの、病の原因は不明。
そうして、困り果てた商家の旦那のところに、八五郎がやってきます。
こんちは。
八つぁんか。いらっしゃい。
どうしたんです、旦那?
なんだか、浮かない顔をしてますね。
娘の体調が、まだ良くならないんだよ。
そうなんですか……。
実は、私の田舎に、どんな病気でも治す名医がいるんです。
試しに、その人を呼んでみましょうか?
そんな凄腕の医者がいるのか!
ぜひ、呼んでくれ!
それから5日後、八五郎が医者を連れて商家にやってきます。

旦那、連れてきましたよ!
この方です!

遠路はるばる、よくお越しくださいました。
どうぞ、お上がりください。
はいはい。ほいほい。
今、お茶を淹れさせますんで。
いやいや、お茶は結構。
さっそく診ましょう。
お嬢さんは、どちらに?
この部屋です。
ふむ。
ここからは、お嬢さんと二人きりにさせてください。
診察中は、中を覗いてはいけませんよ。
そう言って、医者は娘の部屋に入っていきました。
◆
「覗くな」と言われたものの、中の様子が気になって仕方がない旦那。

ふすまに耳を当てて、盗み聞きしてみると、部屋では医者が、
人生は素晴らしいものですぞ。ワッハッハ。
とか、
親には孝行、友達には親切。正しく生きねばなりません。ワッハッハ。
とか言っています。
それを聞いた娘は、クスクスと笑っているようです。
◆
しばらくすると、部屋から医者が出てきました。
今日のところは、この辺にしておきましょう。
あの……娘は治りますか?
治ります、治ります。
次は、5日後くらいに、また来ますよ。
この日から医者は、5日ごとにやって来て、娘を笑わせては帰っていきます。

そうして1ヶ月ほど経つと、娘は起き上がって、三味線を弾けるまでに回復しました。
さぁ、もう治りましたよ。
ありがとうございました。
それで、娘はどこが悪かったのでしょうか?
そんなこと、どうだっていいでしょう。
こうして、すっかり良くなったんですから。
でも、また悪くなったりしたら……。
その時は、その時です。
また治したらいいでしょう。
まぁ……そうか……。
旦那、お嬢さんの病が治って良かったですね!
あ、ああ。
八つぁんが、先生を連れて来てくれたおかげだよ。
じゃあ、これで失礼しますね!
なんだ、ゆっくりしていきなよ。
実は、次の約束があるんです。
私が色んなとこで先生の話をしてたら、引っ張りダコになっちゃって。
先生は今、私の隣の長屋に泊まって、そこらじゅうの病人を治して回ってるんですよ。
へぇー、そうなのかい。
じゃあ、失礼します!
そう言って、八五郎は医者を連れて、商家を後にしました。
ただ、旦那としては、娘をどうやって治したのか、やっぱり気になります。
そこで、次の日、医者のいる長屋を訪ねることにしました。

ごめんください。
おやおや、まあまあ。
昨日は、ありがとうございました。
いえいえ。
あの……先生が、どうやって娘を治したのか、どうしても気になって。
とうとう、ここを訪ねてしまいました。
まあまあ。
どうにか教えてもらえませんか?
ハッハッハッ、いいでしょう。
実はね、お嬢さんは、どこが悪いってわけじゃなかったんですよ。
へ?
ただ、「自分は体が悪い」と、自分で決めちゃってただけなんです。
そういう人は、結構多いんですよ。
はぁ……。
そうなってしまったら、薬も効かない。
「薬なんかじゃ治らない」って、思い込んでますからね。
では、どうやって治したんですか?
なに、大したことはしていません。
着物の前をちょっとはだけさせましてね、私はふんどしを緩めに締めてるものですから……。
アレがチラチラ見えるんです。
アレ?
包み隠さずに言うと、金玉です。
私は、金玉ほど、マヌケなものは無いと思ってましてねぇ。
「人生は素晴らしい!」とか、立派なことを言ってる人の金玉がチラチラ見えてたら、笑えるでしょう?
そうやって笑わせてるうちに、患者は気分が明るくなって、「自分は体が悪い」って思い込みも、どこかへ消えてしまうんですよ。
そ、そうなんですね……。
まぁ、これが私の治療法なんです。
……教えてくださり、ありがとうございました。
さて、少し時が進んで、季節は梅雨。

一度は良くなった娘の体調も、この頃、少し悪くなってきてしまいました。
ねぇ、あなた。どうしましょう?
また、あの先生を呼びますか?
なに、それには及ばない。
今度は、俺が治してやる。
そう言って、娘の部屋に入って行った旦那でしたが、次の瞬間……

娘の叫び声が、家中に響きました。
あなた、どうしたの!?
やっぱり、先生を呼んでくる!
旦那は急いで、医者の長屋を訪ねます。

先生、大変です!
どうしました?
娘の体調が、また悪くなったんです。
だから、先生から教わった治療法を試したら、娘がひっくり返っちゃって……。
一体、何をしたんです?
あの……アソコを出したんです。
アソコって……金玉を?
いや、まるまる全部……。
それはいけません。
「薬の効きすぎです」
ー完ー
おすすめの音源
この音源はAmazonの「Audible」というサブスクに登録すれば、ほかの落語も含めて聴き放題になります。
無料体験の期間もありますので、ご興味のある方は下記からサービスの内容をチェックしてみてください。
遷移したページの上部にある検索窓に「落語」と入力すると、Audibleで聴けるネタを調べられます。
「金玉医者」の豆知識
- 別題に「顔の医者」「すが目」「頓知の医者」「皺め」「藪医者」がある。
落語に興味をお持ちのすべての方にオススメしたいのが、『昭和元禄落語心中』というアニメです。
この作品は、雲田はるこさん原作のマンガをアニメ化したものなのですが、落語の魅力が「これでもか!」というほど、たっぷり詰まっています。
まず注目すべきは、声優陣の豪華さ。
- 関智一:スネ夫(ドラえもん)etc.
- 石田彰:渚カヲル(エヴァンゲリオン)etc.
- 山寺宏一:ジーニー(アラジン)etc.
- 林原めぐみ:灰原哀(名探偵コナン)etc.
- 山口勝平:ウソップ(ONE PIECE)etc.
そして、高座のシーンの演出は、まるで寄席の中にいるような気分になってきます。
落語に少しでも興味があれば、ハマること間違いなしですので、ぜひ観てみてください!
なお、『落語心中』は各種サブスクで配信されていますが、一番オススメなのは「dアニメストア」を利用することです。
dアニメストアは、月額550円(税込)とほかのアニメ系サブスクよりも安く、31日間は無料で視聴できます。
dアニメストアに入れば、『落語心中』以外のアニメも見放題ですので、まずは無料で体験してみてください!
—
※初回は31日間無料ですが、31日経過後は自動継続となり、その月から月額料金の全額がかかります。
※月額は契約日・解約日に関わらず、毎月1日~末日までの1か月分の料金が発生し、別途通信料・その他レンタル料金など、使うサービスによっては別料金が発生します。
※見放題対象外のコンテンツもあります。




















