「俺のもんじゃねえ!」「お前のもんだろ!」
「三方一両損」のあらすじ

話は、左官屋の金太郎が、道を歩いているところから始まります。
ん?
何か蹴飛ばしたと思ったら、財布じゃねぇか。

中を確認すると、入っていたのは3両と「神田竪大工町 吉五郎」という書き付け。
金太郎は、この財布を持ち主の吉五郎へ届けてやることにしました。
そうして、近所の人に尋ねながら、ついに吉五郎の家にたどり着きます。

おう。勝負しろい。
なんだ、てめえは?
俺は左官の金太郎だ。
お前、財布を落としやがったろ?
拾ってやったから、受け取りな。
余計なことをしやがって。
なんだと?
こちとら、金が無くなって、サッパリしてたとこなんだ。
財布だけは受け取ってやるが、中の金は全部お前にくれてやる。
ふざけんな!
こっちは、金が欲しくて届けてやったんじゃねぇんだ!
お前の金なんだから、おとなしく受け取りやがれ!
俺のもんじゃねえ!
お前のもんだろ!
違うね!
俺の懐を嫌って飛び出しちまうような不実な金は、俺のもんじゃねえんだ!
なにをグズグス言ってやがる!
しまいには、ぶん殴るぞ!
おうおうおう!
やれるもんなら、やってみやがれ!
よーし!

こうして大喧嘩を始めた、金太郎と吉五郎。
騒ぎを聞きつけた長屋の大家が、仲裁に入ります。
おいおい、やめないか!
誰だ、お前は?
ここの大家だよ!
おい、吉公。一体、何があった?
ここで吉五郎は、喧嘩になった経緯を大家に話します。

それは、吉公が悪いぞ。
なんだと?
受け取りにくい気持ちはわかるが、一度は貰って、明日にでも手土産を持って礼に行くのが人の道ってもんだ。
何を言ってやがるんだ、このクソッタレ大家!
世の中に、糞を垂れない大家がどこにいるんだい?
金太郎さん。見てのとおり、こいつはバカな男なんです。
後日、私も一緒に謝りに伺いますので、今日のところはお引き取りいただけませんか?
……わかりました。
おう、お前!覚えてやがれよ!
何言ってやがる!
さあさあ、早く帰っとくれ!

こうして渋々、自分の長屋に帰ってきた金太郎。
おう、金太郎じゃねえか。
なんだ、大家か。
髪と着物がボロボロだが、何があった?喧嘩か?
喧嘩だよ。
いいねえ!俺は喧嘩が大好きだ!
何があったか、詳しく聞かしてくれ!
仕方がないので、金太郎は、さっきの出来事を大家に話します。

それでお前、「帰れ」と言われて、大人しく帰ってきたのか?
情けない奴だな!
なんだと?
謝りに来るのを黙って待ってないで、こっちからお奉行様に訴えてやれ!
俺が願書を書いてやる!
こうして、金太郎と吉五郎の喧嘩は、奉行所で裁かれることに。
このときの奉行は、かの有名な大岡越前。
金太郎と吉五郎の2人は、さっそく奉行所に招集されました。

吉五郎。
過日、取り落とした財布を、これなる金太郎が親切にも届け遣わしたにも関わらず、それを受け取らぬのみならず、乱暴にも打擲(ちょうちゃく)に及んだというのは誠か?
ええ、間違いありません。
金が無くなってサッパリしてたら、この馬鹿がお節介にも、財布を拾って持ってきやがったんです。
「中に入ってる3両は、お前にやる」と言ってるのに、無理に押し付けてきやがったんで、それがきっかけで喧嘩になりました。
面白いな。
では、金太郎。
なぜ、吉五郎より3両を貰い置かなかった?
大将、冗談言っちゃいけません。
あっしは、3両なんて金を黙って貰って、のうのうと帰るような了見は、これっぽっちもねぇんです。
そんな了見なら、俺はとうの昔に立派な親方になってらぁ。
こちとら、「なんとかして親方にはなりたくねぇ」「人間、出世するような災難に遭いたくねぇ」と思って、毎日、金比羅様を拝んでるんだい!
両名、金子(きんす)は要らんと申すか。
しからば、この越前守が預かりおくが、それでよいか?
ああ、そのほうが有難いや。
ぜひ、そうしてください。
良き了見である。
ついては、両名に改めて、褒美として、2両ずつ下げ渡す。
よって、この度の裁きは、「三方一両損」とする。
三方一両損?
吉五郎が持っていたのが3両。
金太郎が拾ったのが3両。
そして今、奉行が預かったのが3両。
これに、この越前守が1両を加え、両名に2両ずつ褒美を遣わせば、三方が一両ずつの損となるであろう。
なるほど。
これにて、一件落着。
早朝からの調べで、空腹であろう?
両名に膳部を取らせる。
奉行の指示によって、金太郎と吉五郎の前には、豪華なお膳が並びました。

ありがてえ!ご馳走だ!
腹が裂けるほど食ってやろう!
こらこら。
いくら空腹だからとて、一時に食すと、体に毒だぞ。
大丈夫だよ、お奉行様。
多かぁ(大岡)食わねぇ。
おうよ。
「たった一膳(越前)」
ー完ー
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「三方一両損」の豆知識
- このような大岡越前の裁判をモチーフにした噺は、「大岡政談」と呼ばれる。
- ただし、大岡政談の大半は史実とは異なる、フィクションとされる。
- このネタは、八代目 三笑亭可楽が得意としていた。
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