「やあ、留さんじゃないか。何してるんだい?」
「浮世床」のあらすじ

江戸時代の床屋は、若者のたまり場でもありました。
待合室には、将棋盤や本が置かれていて、順番を待つ男たちは、思い思いの過ごし方をしています。
やあ、留さんじゃないか。
お、八つぁんか。
何してるんだい?
本を読んでるんだよ。

なんて本?
「姉さまの合戦」の本。
姉さまの合戦?
それを言うなら、「姉川の合戦」じゃねえか?
そうそう。それそれ。
そしたら、本多平八郎って人が出てくるだろ?
うん。
あと、もう一人、まから……まから……。
真柄十郎左衛門(まがら じゅうろう ざえもん)か?
そうそう。
その二人が、ちょうど決闘してるところだ。
面白いところだな。
ちょっと読んでみせてくれよ。
まぁ、いいけど……。
俺が読み始めると、立て板に水だぞ?
言葉に詰まらず、水が流れるようにすらすらと文章を読むこと。
そりゃいいや。ぜひ頼むよ。
えー……まから……まから……。
真柄十郎左衛門。
そいつが、敵に向かって、まつこう……
ん?なんだ?
いや、“松公”を呼んだんじゃないんだ。
“真っ向”から、一尺八寸の刀を……。
55cmくらいの長さ。
一尺八寸?
ずいぶん短い刀だね?
いや、これには但し書きがあって、一尺八寸は横幅らしい。
横幅にしては、分厚すぎるだろ!
そうかね?
もういいよ。
バカバカしくって、聞いてらんねぇや。
◆
おい、松公!
ん?なんだ?
将棋でも指そうか。
いいよ。
よし。さっそく駒を並べよう。

じゃあ、お先にどうぞ。
ん?一緒に並べたらいいじゃねえか。
いや、先に並べると失礼だから……。
変な奴だな。

……よし、俺は並べられたぞ。
その瞬間、松公は将棋盤をぐるりと180度回転させました。
おい、何するんだよ!
俺はこの並んでる駒を使うから、八つぁんは、また並べてくれよ。
横着するな!
いいじゃねぇか。
ちっ、仕方ねぇなぁ……。
……よし。じゃあ、先手と後手は、この「歩」の駒を振って決めるぞ。
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表の「歩」と裏の「と金」、どっちを選ぶ?
じゃあ、「歩」と「と金」。
両方はダメだよ!
さあ、表か裏か選びな!
うーん……そしたら、「と金」の方にしようかな。
じゃあ、俺は「歩」だ。
それ!

……よし、「歩」だ。
俺が先手をもらうぞ。
はぁ……もうダメだ……。
参りました。
まだ、先手と後手が決まっただけじゃねえか!
こうして、やっと将棋を指し始めた八つぁんと松公。
しばらく経ってから、八つぁんはあることに気が付きます。
あれ?ちょっと待ってくれ。
お前の王将はどこに行った?
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バレたか。
実は、取られたら大変だから、懐に隠しといたんだ。
そんなことしてんじゃねえ!
もう、やめだやめだ!
◆
おい、そこで寝てるのは、半公だな?

……うーん。
半公!起きろよ!
なんだよ、俺は眠いんだよ……。
ほう。仕事でも忙しいのか?
いや、女に惚れられてな。
そいつが、なかなか寝かしてくれなかったんだよ。
なんだい、面白そうな話だね。
ちょっと詳しく聞かしてくれよ。
仕方ねえなぁ……。
昨日、ふらっと芝居小屋に入ってみたら、案内された席の隣に、綺麗な女が座ってたんだ。
ほう。
それで芝居が始まって、音羽屋の乙な場面がきたんで、俺は「よっ、音羽屋!」って大きな声で褒めた。
歌舞伎役者の屋号。ほかに有名な屋号としては、市川團十郎の「成田屋」などがある。
すると、隣の女が「音羽屋がご贔屓でいらっしゃいますか?よろしければ、私の分まで褒めてください」と声をかけてきたんだよ。
だから、俺は何回も「音羽屋!」「音羽屋!」って褒めてやった。
いいことしたね。
それで芝居が終わったら、「お礼に酒を飲ましてくれる」ってことになって、その人の家に招かれたんだよ。
で、二人で酒を飲んでたら、だんだん俺はまぶたが重くなってきてな。
眠そうにしてるのに気付いた彼女は、気を利かせて布団を用意してくれた。
お、面白くなってきたね。
「じゃあ、遠慮なく」って、俺が布団に入ってしばらくしたら、彼女は近くに寄ってきて……。
それから、それから?
女が俺の布団に入ったところで、八つぁんに起こされた。
なんだ、夢の話かよ!
このように、男たちが待合室で大騒ぎしていたので、床屋の親方も仕事をしながら、そちらの方をチラチラ見ていました。
すると、その隙を狙って、一人の客が料金を払わずに走って逃げてしまいます。
ああっ!
おう、親方。どうしたんだ?
あいつ、銭も払わず逃げちまった。
あの後ろ姿は……畳屋の職人が着てる半纏だな。
なんだ、畳屋か。
「だから、床を踏みにきたのか」
ー完ー
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「浮世床」のオチ(サゲ)
畳屋は、部屋に畳を敷き詰め終わったら、仕上げに自分の足で「踏み慣らし」をするそうです。
このネタの最後の「床を踏みにきたのか」というセリフには、この畳屋の仕草と「床屋の料金を踏み倒しにきた」という2つの意味がかかっています。
「浮世床」の豆知識
- 原話は、『芳野山』という本の「髪結床」。
- もともとは上方落語で、初代 柳家小せんが東京に移したとされる。
- 六代目 三遊亭圓生が得意とした。
- 複数の噺が組み合わさったオムニバス形式のネタなので、落語家は持ち時間によって、演じる部分を変えて調整する。
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