「いやぁ、花魁は口では起きろと言うのですが……布団の中では、太ももで私の腰のあたりを挟んで離さないんです」

「明烏」のあらすじ

背景(大通り・夕方)

話は、大きな商家の倅(せがれ)の時次郎が、散歩から帰ってくるところから始まります。

時次郎

ただいま帰りました。

時次郎の父

おかえり。

時次郎の父

頭が痛いんだって?大丈夫か?

時次郎

はい。散歩に行って、少し体を動かしましたら、だいぶ良くなりました。

時次郎

きっと、本の読みすぎでしょう。

時次郎の父

時次郎、そのことなんだがね……。

時次郎の父

お前はいずれ、この店を継ぐんだ。

時次郎の父

本ばかり読んでいないで、友達と遊びにでも行って、もっと世間のことを知らないといけないよ?

時次郎

それでは、ちょうどいいと言ったら、なんですが……。

時次郎

先ほど、源兵衛さんと太助さんにお会いして、浅草の観音様の裏にある、お稲荷さんへお参りに行こうと誘われたんです。

時次郎

今から行ってきてもよろしいでしょうか?

ここで時次郎の父は、ピンときます。

実は先日、この父親は、源兵衛たちに「息子を遊郭にでも連れて行って、遊びを教えてやってくれ」とお願いしていたのでした。

浅草の観音様の裏といえば、そこにあるのは吉原。

源兵衛たちは、時次郎にお稲荷さんだと偽って、遊郭に連れ出そうとしていたのです。

時次郎の父

ああ、行っておいで。

時次郎の父

ただね、あそこのお稲荷さんは、服装が良くないとご利益が薄い。

時次郎の父

小洒落た着物に着替えてから出かけなさい。

時次郎

わかりました。

時次郎の父

あと、お賽銭が少なくてもご利益が薄いから、お小遣いをたくさんやろう。

時次郎の父

今日は初めてのお参りだからね。泊まりがけでお籠もりして、ご祈願しておいで。

父親に見送られて家を出た時次郎は、源兵衛・太助と待ち合わせた場所までやってきます。

時次郎

お待たせしました。

源兵衛

お、来た来た。

源兵衛

それじゃあ、さっそく行きましょうか。

歩き出した三人が、吉原の近くまで来ると、柳の木が見えてきます。

この木は人呼んで、見返り柳。

吉原帰りの男たちが名残惜しくて、よくこのあたりで振り返ることから、そう名付けられました。

時次郎

あそこに柳の木が立ってますね!

源兵衛

あれは……ここの御神木です。

そう聞いて、見返り柳に駆け寄り、手を合わせ始めた時次郎。

恥ずかしいので、源兵衛と太助は、時次郎の腕を引っ張って先に進みました。

さて、続いて見えてくるのは、吉原の唯一の出入り口である「大門」。

源兵衛

坊っちゃん。これは、このお稲荷さんの鳥居です。

時次郎

へぇー。鳥居はすべて赤いものだと思っていましたが、ここのは黒いんですね!

源兵衛

えーっと……ここだけは、特別なんです。

だんだんと嘘が苦しくなってきた源兵衛たち。

吉原の中に入ったら、バレる前に、時次郎を花魁のいる店まで連れて行くことにしました。

こうして、妓楼に引っ張り込まれた時次郎。

大きな階段を登って二階に上がると、艶やかな格好をした花魁が歩いています。

ここにきて、やっと時次郎は異変に気付きました。

時次郎

あれは……花魁?

時次郎

もしかしてここは、吉原というところではありませんか?

源兵衛

ついにバレたか……。

源兵衛

そうです、ここは吉原です。

時次郎

よくも私を騙しましたね!!

時次郎

こんなところに来たと父に知れたら、何と言われるか……!

妓楼の廊下で駄々をこね始めた時次郎。

源兵衛は必死に説得をしますが、時次郎は聞く耳を持ちません。

ここで、今まで黙っていた太助が、おもむろに口を開きます。

太助

源兵衛よぉ、情けねえなぁ。

太助

そんなにペコペコすんな。

太助

こいつの親父に頼まれたから、わざわざ連れてきてやったんじゃねえか!

それから太助は、時次郎の方に向き直って言葉を続けます。

太助

……坊っちゃんよぉ。帰りたかったら帰りな!

太助

ただし、吉原から出るときには気を付けなよ?

太助

入り口にあった鳥居は、本当は「大門」ってんだ。

太助

あそこでは、どの顔が何人連れで入ったのか、逐一記録してる。

太助

今から一人で帰ってみろ。

太助

「あいつは三人で来てたのに、一人だけで帰ってきやがった。怪しい奴だ、捕まえろ!」ってなことになって、縛られちまうよ?

この話は太助のでっちあげですが、時次郎の顔は真っ青に。

時次郎

それじゃあ、私を門まで送ってください!

太助

嫌だね。

太助

せっかく吉原まで来たんだ。酒も飲まずに帰れるか。

時次郎

そしたら、早く飲んじゃってくださいよぉ!

こうして、しぶしぶ座敷に上がり、源兵衛と太助に付き合うことにした時次郎。

しかし、相変わらずメソメソしながら、端っこでしょぼくれています。

これを見かねた店の女将さんは、時次郎を花魁の部屋に案内しようとしますが、時次郎は断固拒否。

それでも、無理やり引っ張って行かれてしまいました。

そして、「烏カァ」で夜が明けます。

昨晩、遊女にフラれた源兵衛と太助は、朝っぱらから立ち話。

源兵衛

おい、何を食べてるんだ?

太助

甘納豆。

太助

その辺からかっぱらってきたんだ。

太助

お前も食うか?

源兵衛

いらねぇよ。

源兵衛

そんなことより、あの坊っちゃん、結局ここに泊まったんだってよ。

源兵衛

しかも、相手は絶世の美女と噂の「浦里」ときた。

太助

あの堅物が、花魁と泊まったのか。

太助

まぁどうせ、指一本触れられちゃいないだろ。

源兵衛

違いねえ。

源兵衛

ちょっと冷やかしに行ってやろうぜ。

そうして、時次郎が泊まった部屋の前までやってきた源兵衛と太助。

声をかけてから襖を開けると、時次郎は恥ずかしいのか、布団の中に潜り込んでしまいました。

源兵衛

どうです?お籠もりの具合は?

時次郎

はい。結構なお籠もりで……。

源兵衛

花魁、可愛いでしょ?

源兵衛

また連れてきてあげますからね。

源兵衛

さあ、早く起きてください。もう帰りますよ!

しかし、時次郎は動こうとしません。

浦里

若旦那、起きなさいよ。

源兵衛

ほら、花魁もこう言ってるじゃないですか。

源兵衛

何で起きないの?

時次郎

いやぁ、花魁は口では起きろと言うのですが……。

時次郎

布団の中では、太ももで私の腰のあたりを挟んで離さないんです。

太助

冗談じゃねぇや!

源兵衛

俺たちは仕事があるから、先に帰りますよ!

時次郎

先に帰れるものなら、帰ってみなさい。

「大門で縛られらぁ」

ー完ー

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「明烏」という題名について

「明烏」の題は、浄瑠璃の一流派である「新内節(しんないぶし)」の代表曲、「明烏夢泡雪」からきています。

この「明烏夢泡雪」には、遊女の浦里と春日屋時次郎という人物が登場し、落語ではこの二人の名が借りられました。

ちなみに、「明烏夢泡雪」の最後は、両思いの末に引き裂かれた時次郎と浦里が心中してしまいます。

「明烏」の豆知識

  • このネタは、八代目 桂文楽が得意としていた。
  • 文楽師匠が寄席で甘納豆を食べるシーンをやったところ、あまりに美味しそうで、その後に甘納豆がよく売れたらしい。
  • 三代目 古今亭志ん朝は、甘納豆ではなく、梅干しの砂糖漬けで演じた。
  • まくらでは、よく「弁慶と小町は馬鹿だなぁ嬶ぁ」という狂歌が紹介される。これは、武蔵坊弁慶と小野小町が、童貞・処女だったと言われることから、男女のことを知らない人を皮肉った歌。
  • 太平洋戦争中は、内容が低俗だという理由で「禁演落語」に指定された。
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  • 関智一:スネ夫(ドラえもん)etc.
  • 石田彰:渚カヲル(エヴァンゲリオン)etc.
  • 山寺宏一:ジーニー(アラジン)etc.
  • 林原めぐみ:灰原哀(名探偵コナン)etc.
  • 山口勝平:ウソップ(ONE PIECE)etc.

 

そして、高座のシーンの演出は、まるで寄席の中にいるような気分になってきます。

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