「あた……あたた……当たった!当たったよ!!」

「富久(とみきゅう)」のあらすじ

話の主人公は、幇間(たいこもち)の久蔵。

彼は、酒でしくじったことが原因で、最近は座敷に呼ばれず、生活のために借金までする始末でした。

年の瀬も迫った頃、そんな久蔵が町をぶらぶら歩いているところから物語は始まります。

久蔵の知人

おい、久さん!

久蔵

おや、旦那。

久蔵

お久しぶりです……。

久蔵の知人

なんだい、元気がないね?

久蔵

実はこの前、酒でしくじりまして。

久蔵

お得意様の旦那に、出入り禁止をくらったんです。

久蔵の知人

なにをやってるんだい。

久蔵

旦那は、こんなところで何をしてるんです?

久蔵の知人

富札を売ってたところなんだ。

富札とは?

今でいう「宝くじ」のようなもので、神社や寺が主催していた。

久蔵

富札って、あの1000両が当たる?

久蔵の知人

そうそう。

久蔵

1枚いくらなんですか?

久蔵の知人

1分だよ。

1分とは?

1両の1/4の価値のお金。現在の価値でいうと、「2万5,000円」くらい。

久蔵

そうですか。

久蔵

あっしは今、ちょうど1分持ってるんですがね……。

久蔵

当たりそうな番号があったらくださいよ。

久蔵の知人

そう言われても、残り1枚なんだ。

久蔵の知人

ただ、番号が面白くてね。

久蔵の知人

「鶴の1500番」。キリが良くて、当たりそうだろ?

久蔵

じゃあ、それください。

久蔵の知人

いいのかい?

久蔵の知人

1分っていっても、お前にとっては大金じゃないか。

久蔵

いいんですよ。

久蔵

どうせ有っても、いつの間にか無くなってるんだ。

久蔵

だったら、楽しいことに使ったほうがいいです。

こうして、知り合いの旦那から富札を買った久蔵。

家に帰ると、その札を大神宮様(神棚)に隠してから、一生懸命に拝みました。

さて、その晩のこと。

久蔵が寝ていると、遠くのほうで火事を告げる半鐘が鳴り響きます。

近くに住んでいる大工の棟梁は、その音を聞いて、久蔵の家を訪ねてきました。

棟梁

おい、久さん!

久蔵

うーん……はいはい。

棟梁

火事だよ!

久蔵

いいですよ。

棟梁

「いいですよ」ってことはねえだろ!

久蔵

だって、燃えて困るようなもんは、うちにありませんもん。

久蔵

もう少し火が迫って、温かくなってきてから逃げます。

棟梁

いや、火事はこの近所じゃなくて、芝の久保町なんだ。

棟梁

お前、久保町に馴染みの旦那が住んでるって言ってたろ?

久蔵

ああ。

久蔵

でもね……その旦那のとこで、この前しくじって、出入り禁止になってるんですよ。

棟梁

だったら、今すぐ見舞いに行きなよ。

棟梁

「火事の詫びは勘弁してもらえる」って言うよ?

久蔵

……たしかに。

久蔵

ちょっと、行ってきます!

こうして、火事が起きている久保町へと飛んで行った久蔵。

到着すると、お得意様の旦那の店までは、まだ火は燃え広がっていませんでした。

馴染みの旦那

さあさあ、慌てずに運び出すんだよ。

馴染みの旦那

危なくなったら、荷物を捨てて、自分だけ逃げなさいね。

久蔵

旦那!

馴染みの旦那

おや、久蔵か。

馴染みの旦那

お前たしか、ここからは、ずいぶん遠いところに住んでたろ?

久蔵

ええ。浅草の三間町から、飛んできました!

馴染みの旦那

よく来てくれたなぁ。

馴染みの旦那

……よし、今までのことは水に流そう。

馴染みの旦那

これに免じて、出入りを許してやるぞ。

久蔵

ありがとうございます!

そんなことを話しているうちに、風向きが変わり、この店が燃える心配はなくなりました。

馴染みの旦那

ふう……これで、いったんは安心だね。

久蔵

おめでとうございます。

馴染みの旦那

ああ。よかったよ。

久蔵

旦那。きっとこれから、方々からお見舞いが来るでしょう?

久蔵

あっしが受付をして、いらっしゃった方のお名前を帳簿につけておきましょうか?

馴染みの旦那

それは助かる。頼むよ。

こうして久蔵が受付を始めると、続々とお見舞いがやってきます。

そのなかには、お酒を持ってきてくれる方もいました。

久蔵

旦那。お酒をいただきました。

馴染みの旦那

ああ。そっちへ置いといてくれ。

久蔵

でも、お燗がついてまして……。

久蔵

冷えると「燗冷まし」になって、不味くなりますよ?

馴染みの旦那

いいよ。

久蔵

あの、実は……あっしは浅草から駆けてきたもので、喉が渇いてて……。

馴染みの旦那

わかったよ。ここまで来てくれたお礼だ。

馴染みの旦那

部屋に入って飲んでなよ。

馴染みの旦那

あとで、沢庵くらい持っていってあげるから。

そう言われて、店の中で酒を飲み始めた久蔵。

飲んでいるうちに眠くなり、ぐうぐうイビキをかき始めます。

すると、また火事を告げる半鐘が鳴り響きました。

馴染みの旦那

おい、久蔵!

久蔵

うーん……なんです?

馴染みの旦那

浅草の三間町で火事だって!

久蔵

ん?あっしの住んでるところで?

馴染みの旦那

そうだよ!

久蔵

まぁ、いいですよ。

久蔵

燃えて困るもんもないですし。

馴染みの旦那

なに言ってんだよ!

馴染みの旦那

提灯を持たせてやるから、早く帰って様子を見てきな。

馴染みの旦那

そんなことはないと思うけど、もしものことがあったら、うちに戻ってきなよ。

久蔵が自分の家に戻ってみると、見事なまでに真っ黒焦げ。

「こりゃダメだ」と、すぐに引き返し、旦那の店で厄介になることにしました。

さて、それから数日後。

久蔵が町をぶらぶら歩いていると、神社のところに人だかりができています。

久蔵

これは、何の集まりです?

富札だよ。

久蔵

あっ!そういや、俺も買ってたんだ!

人混みを分けて入っていった久蔵。

そのうちに、当選番号の読み上げが始まります。

しかし、久蔵が買った「鶴の1500番」は呼ばれず、ついに「1等1000両」の番号が呼ばれる段になりました。

神社の人

本日の突き止めー!

神社の人

鶴の1500番ー!!

久蔵

あた……あたた……

久蔵

当たった!当たったよ!!

あんた、当たったのかい⁉︎

久蔵

当たったよ!1000両だ!!

周りの人たちに担がれて、富札を取り仕切る人のところまで運ばれた久蔵。

神社の人

あなたが「鶴の1500番」を?

久蔵

は、はい!

久蔵の知人

おーい、久さーん!

久蔵

あっ!旦那!

久蔵

1000両、当たりました!

久蔵の知人

まさか、本当に当たるとはなぁ……。

久蔵の知人

おめでとう。

久蔵

ありがとうございます!!

久蔵の知人

でね、1000両なんだが、今すぐ受け取ると、神社側に3割近く引かれてしまう。

久蔵の知人

だから、来年の春まで待ちなさい。

久蔵

いや、すぐに貰います!

久蔵

3割くらい、いいですよ!

久蔵の知人

ええっ⁉︎

久蔵の知人

1000両の3割っていったら、300両だよ?

久蔵

いいです、いいです。

久蔵の知人

まぁ、お前がそう言うなら、いいけどさ。

久蔵の知人

じゃあ、札を出しな。

久蔵

札?

久蔵

……ああっ!!!

久蔵の知人

どうした?

久蔵

札、燃えちゃった……。

久蔵の知人

え?

久蔵

この間の火事で燃えちゃったんです!!

久蔵の知人

何やってんだよ!

久蔵の知人

それじゃ、1000両は貰えないよ!

久蔵

でも、旦那。覚えてるでしょ?

久蔵

あなたが持ってた「鶴の1500番」を、あっしが買ったの。

久蔵の知人

そりゃ覚えてるけどね……。

久蔵の知人

「お金は札と引き換え」っていう決まりなんだよ。

久蔵

そんなぁ……。

久蔵

じゃあ、半分の500両だけでいいんで、くださいよ!

久蔵の知人

それでも、札がなけりゃダメだよ。

久蔵

そしたら、100両は?

久蔵

なんなら、10両でもいいです!

久蔵の知人

久さん。気持ちはわかるがね……。

久蔵の知人

ダメなもんは、ダメなんだよ。

久蔵

……なんだい!

久蔵

わかったよ!要らねえよ!

久蔵

ちくしょー!!

そう叫んで、泣きながら居候先へと戻っていく久蔵。

そこへ、燃えた長屋でご近所だった大工の棟梁と、ばったり出くわします。

棟梁

おい、久蔵。どうした?

棟梁

泣いてるのか?

久蔵

うう……棟梁……。

棟梁

銭でも落としたのか?

久蔵

落とす銭がありゃ、泣かねえや。

棟梁

……?

棟梁

そういや、お前。

棟梁

火事があったとき、留守だったろ?

久蔵

ええ。慌てて戻ってきたら、うちがすっかり焦げちゃってたから……。

久蔵

すぐに諦めて、今は久保町の旦那の店で世話になってるんです。

棟梁

そうだったのか。

棟梁

実はね、お前の家の中で焼け残ったものを、うちで預かってるんだよ。

棟梁

布団と鍋と釜と大神宮様と……。

久蔵

大神宮様⁉︎

久蔵

大神宮様は、燃えてなかったの⁉︎

棟梁

ああ。

棟梁

今から、うちまで取りに来るか?

こうして、棟梁の家まで付いて行った久蔵。

預かってもらっていた大神宮様の中には、隠してあった富札がきちんと入っていました。

久蔵

あった!あった!!

久蔵

棟梁、本当にありがとう……。

久蔵

棟梁のおかげで、1000両を受け取れます。

棟梁

えっ⁉︎

棟梁

まさか、その富札、当たってるのか⁉︎

久蔵

はい!

久蔵

これで1000両を貰えたら……。

「やっと、おはらいができます」

ー完ー

おすすめの音源

この音源はAmazonの「Audible」というサブスクに登録すれば、ほかの落語も含めて聴き放題になります。

無料体験の期間もありますので、ご興味のある方は下記からサービスの内容をチェックしてみてください。

遷移したページの上部にある検索窓に「落語」と入力すると、Audibleで聴けるネタを調べられます。

「富久」のオチ(サゲ)

最後の久蔵のセリフ「おはらいができます」には、「お払い」と「お祓い」の2つの意味がかかっています。

まず、「お払い」は、久蔵が借金をしていた人たちに、お金を返せる(払える)ということ。

そしてもう1つの「お祓い」は、神棚の中のお札を取り替えることを意味します。

江戸時代には、年の暮れになると、神社の方が家を回って、神棚のお札を取り替えてくれたそうです。

そこで回収した古いお札を入れておく箱が「お祓い箱」で、「会社をおはらい箱になった」などと言うときの慣用句の語源になっています。

「富久」の豆知識

  • 別題は「富の久蔵」。
  • 三遊亭圓朝が実話をもとに創作したと言われる。
  • 八代目 桂文楽五代目 古今亭志ん生が十八番にした。
  • 桂文楽は、この「富久」を演じると予告しながらも、なかなか高座にかけなかったことから、「富“休”」と揶揄されたことがあった。
  • 久蔵が住んでいた長屋の場所を「浅草阿倍川町」、火事のあった旦那の店を「日本橋横山町」など、演者によって場所は変わる。
▼おすすめの落語アニメ▼


落語に興味をお持ちのすべての方にオススメしたいのが、『昭和元禄落語心中』というアニメです。

\昭和元禄落語心中が観られる/

dアニメストアを無料で体験する

この作品は、雲田はるこさん原作のマンガをアニメ化したものなのですが、落語の魅力が「これでもか!」というほど、たっぷり詰まっています。

まず注目すべきは、声優陣の豪華さ。

  • 関智一:スネ夫(ドラえもん)etc.
  • 石田彰:渚カヲル(エヴァンゲリオン)etc.
  • 山寺宏一:ジーニー(アラジン)etc.
  • 林原めぐみ:灰原哀(名探偵コナン)etc.
  • 山口勝平:ウソップ(ONE PIECE)etc.

 

そして、高座のシーンの演出は、まるで寄席の中にいるような気分になってきます。

落語に少しでも興味があれば、ハマること間違いなしですので、ぜひ観てみてください!

なお、『落語心中』は各種サブスクで配信されていますが、一番オススメなのは「dアニメストア」を利用することです。

dアニメストアは、月額550円(税込)とほかのアニメ系サブスクよりも安く、31日間は無料で視聴できます。

\5,000作品以上が見放題/

dアニメストアを無料体験する

dアニメストアに入れば、『落語心中』以外のアニメも見放題ですので、まずは無料で体験してみてください!


※初回は31日間無料ですが、31日経過後は自動継続となり、その月から月額料金の全額がかかります。
※月額は契約日・解約日に関わらず、毎月1日~末日までの1か月分の料金が発生し、別途通信料・その他レンタル料金など、使うサービスによっては別料金が発生します。
※見放題対象外のコンテンツもあります。