「ああ!!間違えて、がま口ごと放っちまったよ……。」
「堀の内」のあらすじ

話は、熊五郎が奥さんに起こされるところから始まります。
お前さん、起きとくれよ。
うーん……えっ?
どちら様ですか?
あたしだよ!
妻の顔も忘れちまったのかい?
そうか。
どこかで見た顔だと思ったんだ。
寝ぼけてないで、早く準備しな。
なんの?
今日は、堀の内のお祖師様のところに行くんだろ?
現在の東京都杉並区にある「妙法寺」を指す。
「お祖師様」は、日蓮宗の開祖である「日蓮」のこと。
「そそっかしいのを治してもらいに、ご祈願に行く」って、昨晩、言ってたじゃないか。
そうだった、そうだった。
じゃあ、行ってきます。

待った、待った!
着物も着ないで、外に出るんじゃないよ!
ああ、そうか。
お弁当とがま口財布が、そこに準備してあるから、風呂敷に包んで持っていきな。

あいよ。
あと、お題目を唱えながら向かうと、ご利益があるっていうからね。
「南無妙法蓮華経」って、呟きながら歩くんだよ。
わかったよ。
じゃあ、行ってくる!

こうして、堀の内の妙法寺へ向けて出発した熊五郎。
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。
……あれ、俺はどこに向かってるんだっけ?
ちょっと、すみません。
はい、なんでしょう?
私は、どこに行くのでしょうか?
ええっ⁉︎
そんなに驚かないでくださいよ。
私の行き先を聞いてるだけなんですから。
そんなこと尋ねられたのは、初めてだよ。
でも、あんたはさっき、「南無妙法蓮華経」って唱えてたね。
そしたら、堀の内に向かってたんじゃないのかい?
あー。そうでした、そうでした。
どうも、ありがとうございました。
そんなことがありながら、熊五郎は、なんとか堀の内に辿り着きます。

やっと着いたよ。
まずは、お賽銭だな。
そらっ!

ああ!!
間違えて、がま口ごと放っちまったよ……。

まぁ、いいや。
お祖師様ー!
今のは、今後のお賽銭の前払いなんで、ちゃんと俺の顔を覚えといてくださーい!
お願いしまーす!

こうして祈願を終えた熊五郎は、腹が減っていることに気が付きました。
そういや、朝から何も食べてねえな。
おっかぁ!ご飯!

なんだ、あいつ。
俺に付いて来てないのか。
まったく、そそっかしい奴だよ。

そんなことより、なんだか肩が重いなぁ。
あっ!俺、風呂敷を背負ってるよ!!

……そうだ、弁当を持たされてたんだった。
ありがてえなぁ。さっそく、ご利益だ。

うわっ!
弁当かと思ったら、枕じゃねえか!
おっかぁの奴、間違えやがったんだ!
腹を立てた熊五郎は、急いで自分の家に帰ります。

おい、おっかぁ!!
弁当と枕を間違えただろ?

……なに、笑ってやがるんだ?
あなたの家は、この隣ですよ。
ああ、これは失礼しました。
◆
おい、帰ったよ。
おかえり。
今、隣で大声をあげてなかったかい?
ああ、ちょっと間違えただけだ。
それよりお前、俺に弁当と枕を間違えて渡しただろう?
違うよ。
お前さんが勝手に、枕を風呂敷に包んで持ってったんじゃないか。
あれ? そうだったっけ?
そうだよ。
今、お茶を淹れてあげるから、そこの弁当を食べちゃいな。
ありがとう。
食べ終わったら、金坊(子ども)をお風呂に連れて行ってね。
あいよ。
金ちゃーん。お父つぁんと、お風呂へ行っといで。
いやだよ。
お父つぁんと風呂に行くくらいなら、死んだほうがいいや!
なんてこと言いやがるんだ!
だって、お父つぁん、あたいのことを湯船に逆さに入れるんだもん。
それは……たまにじゃねえか。
たまにでも、いやだい!
今日はちゃんと入れてやるから、ついて来い!
そう言って、子どもを連れて銭湯へ出かけた熊五郎。

よーし。着いた。
金坊、着物を脱がしてやるぞ。
ちょっと、うちの子の着物を脱がさないでよ!
今、着せたばっかなんだ!
これは失礼。
おい、金坊。脱いだか?
うん。
さぁ、入るぞ。
お父つぁんは、まだ着たままだよ?
ああ、忘れてた。
……よーし。入ろう。
湯船に入る前に、体を洗うんだぞ?
うん。
お父つぁんが、背中を流してやる。
……おや?

お前、ずいぶん背中が広くなったな!
お父つぁんが洗ってるのは、壁の羽目板だよ。
……なぁに。
「ちょっと、羽目を外しただけだ」
ー完ー
「堀の内」のサゲ(オチ)について
サゲにつながる「羽目板」とは、下の写真のように、細長い木材をつなぎ合わせた板のことです。

下記の浮世絵のように、江戸時代の湯屋の壁には、この羽目板が使われていました。
画像出典:国立国会図書館ウェブサイト
「堀の内」の豆知識
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