「鐘がボンと鳴りゃさ〜上げ潮ぉ南さ〜♪ カラスがパッと出りゃ、コラサノサ〜♪」

「野ざらし」のあらすじ

話は、八五郎が、隣に住む年寄りの浪人、尾形清十郎の部屋を訪ねるところから始まります。

浪人とは?

お家の不祥事や脱藩などにより、主のいなくなった武士のこと。

八五郎

おーい、先生。

尾形清十郎

おや、八つぁんかい。

尾形清十郎

朝から、どうした?

八五郎

いやぁ、先生も隅に置けないねぇ。

八五郎

いつもは、「女は好かん」とか言いながら、昨夜の若い女は誰だい?

尾形清十郎

昨夜の女?

八五郎

おっと、とぼけても無駄だよ。

八五郎

そこの壁の穴から、全部見てたんだから。

尾形清十郎

ああっ!

尾形清十郎

この穴、お前があけたのか?

八五郎

あけたくもなるよ!

八五郎

夜中に小便がしたくなって目が覚めたら、隣から男女のヒソヒソ声が聞こえるんだもの。

八五郎

気になったんで、商売道具のノミを取り出して、穴をあけて覗いたんだ。

ノミとは?

下の写真のような、木材に穴や溝を掘るための大工道具。

八五郎

いい女だったねぇ。

尾形清十郎

……見られてしまったなら、仕方ない。

尾形清十郎

事の顛末を話してやろう。

八五郎

よっ、そうこなくっちゃ。

尾形清十郎

昨日は向島まで釣りに行ったんだが、あいにく一匹も釣れなくてな。

尾形清十郎

「今日は駄目だ」と諦めて、早々に帰ろうとしたところ、暮れ六つ(午後6時)の鐘が「ボーン」と鳴った。

尾形清十郎

上げ潮時のようで、あたりにはザブリザブリという波音も不気味に響いていたな。

上げ潮とは?

潮の満ち引きのうち、海面が上昇しつつある状態のこと。干潮から満潮までの間。

尾形清十郎

そのとき、草むらから、一匹のカラスが飛び立った。

尾形清十郎

そちらへ目をやると、転がっていたのは、野ざらしの髑髏(どくろ)。

尾形清十郎

こんなところに屍を晒していては、成仏できないだろうと思い、「南無阿弥陀仏」とお経を唱え、持っていた酒をかけてやったのだ。

八五郎

それは、いいことをしたね。

尾形清十郎

それから家に帰り、床に入ろうしたところ、「向島より参りました」と訪ねてくる者がある。

尾形清十郎

ガラリと戸を開けると、立っていたのが、昨夜の女だ。

尾形清十郎

聞けば、「私は向島で屍を晒していた者です。あなたの手向けのおかげで、やっと成仏できましたので、お礼のために参じました」とのこと。

尾形清十郎

こういうわけで、あの女は、この世の者ではないのだ。

八五郎

へー、そうだったのかい。

八五郎

でも、あんだけいい女なら、幽霊でもいいから、一晩付き合ってもらいてぇよ。

八五郎

なぁ、先生。向島には、ほかにも骨が転がってるかな?

尾形清十郎

まぁ、広い河原だから、骨の一つや二つはあるかもな。

八五郎

よし、さっそく俺も行ってみよう!

八五郎

この竿、借りていくよ!

尾形清十郎

あ、待て!

尾形清十郎

その竿は、わしが一番大切にしてる……

清十郎の制止も聞かず、向島へと駆け出した八五郎。

八五郎

着いた、着いた。

八五郎

なんだ、もうこんなに人がいるよ。

八五郎

さては、みんな、骨狙いだな?

八五郎

おーい、骨は釣れたかー?

釣り人

骨? 魚なら、釣れてますよー!

八五郎

なんだい、とぼけやがって。

八五郎

ちょっと隣に失礼するよ。

釣り人

どうぞ。

八五郎

さっそく釣り始めるとしますか。

八五郎

あらよっと!

釣り人

あの……針にエサが付いてませんよ?

八五郎

ああ。大丈夫、大丈夫。

八五郎

こうやってるうちに、鐘がゴーンと鳴って、カラスがパッと飛べば、こっちのもんなんで。

釣り人

はぁ。

八五郎

鐘がボンと鳴りゃさ〜上げ潮ぉ南さ〜♪

カラスがパッと出りゃ、コラサノサ〜♪

骨(こつ)があると〜サイサイサイ〜♪

そのまた骨にサ、酒をかけりゃサ♪

骨が着物(べべ)着て、コラサノサ〜♪

礼に来る〜サイサイサイ〜♪

そら、チャチャンカチャン♪

釣り人

あのー。上機嫌のところ、すみません。

釣り人

魚が逃げるんで、あんまり竿で水をかき回さないでくれませんか?

八五郎

なにぃ?

八五郎

俺はかき回したりなんかしてねぇよ!

八五郎

かき回すってのは、こうやってやるんだ!!

釣り人

あーあー、やっちゃったよ。

釣り人

こうなったら、魚なんて釣れないね。

釣り人

釣りはもうやめて、この人を見てたほうが面白そうだ。

八五郎

それにしても、昨夜の女は、ちょっと若すぎたな。

八五郎

女はやっぱり、二十七、八、三十でこぼこ。

八五郎

乙な年増に限るよぉ〜♪

釣り人

あの人、一人でブツブツ、何言ってるんだ?

八五郎

下駄をカランコロン鳴らして、うちに来て、「私、向島から来たの。上がってよくって?」なんてな。

八五郎

それから、俺の隣にスッと座るんだ。

釣り人

んん? あの人、水たまりに座っちゃったよ?

八五郎

それから、女の手を引いたら、崩れるように、俺の膝の上に倒れるよ。

八五郎

「今日から俺とお前は夫婦」なんて口説くと、「上手いこと言って……そうやって女を騙してきたんだろ?」って、俺の鼻をつまむんだ。

八五郎

…いてててて!

釣り人

今度は、自分の鼻を釣り上げた!

八五郎

なんだ。痛いと思ったら、釣り針が俺の鼻を刺してやがる!

八五郎

こんなの、要らねえよ!!

釣り人

あーっ!釣り針を捨てちゃった!

釣り人

おーい。さすがに、針なしでは釣れませんよー?

八五郎

なぁに、女を釣るんだ。

「竿さえあれば大丈夫」

ー完ー

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「野ざらし」のオチ(サゲ)

多くの落語家は、本記事で紹介したシーンで終わらせますが、「野ざらし」には、この続きもあります。

その後、八五郎は無事に(?)、骨を発見。

清十郎から聞いたとおりに、酒をかけてから、お経を唱えます。

それから、丁寧に自分の長屋の場所を伝えて、「待ってるよ」と言い残して立ち去ったのですが、これをたまたま、近くで幇間(たいこもち)が聞いていました。

この幇間は、八五郎が女と密会すると勘違い。

現場に行って、お世辞を言い、ご祝儀をもらおうと企てます。

そうして迎えた、その日の夜。

「向島から来ました」と、幇間が八五郎の長屋を訪ねてきます。

「誰だ、お前は?」

「“新朝”と申す、たいこもちです」

「“新町”の太鼓?」

「しまった、あれは馬の骨だったか!」

「馬の骨」のサゲの解説をすると、まず、和太鼓には、「馬の皮」が張られていることがあります。

そして、浅草の新町には、その和太鼓を扱う店がたくさんありました。

最後のセリフには、そのことと「どこの誰だか素性のわからない人」を意味する、「馬の骨」が掛かっています。

「野ざらし」の豆知識

  • 「野晒し」と表記されることもあり、別題は「手向の酒」。上方落語では、「骨釣り(こつつり)」と呼ばれる。
  • 2代目 林屋正藏が作った話を、初代 三遊亭圓遊が今の形にしたと伝えられる。
  • 3代目 春風亭柳好は、「野ざらしの柳好」と呼ばれるほど、このネタに定評があった。
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  • 石田彰:渚カヲル(エヴァンゲリオン)etc.
  • 山寺宏一:ジーニー(アラジン)etc.
  • 林原めぐみ:灰原哀(名探偵コナン)etc.
  • 山口勝平:ウソップ(ONE PIECE)etc.

 

そして、高座のシーンの演出は、まるで寄席の中にいるような気分になってきます。

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