「もう飲めないよ!」「飲める!」
「代わり目」のあらすじ

話は、酔っ払った留五郎が道を歩いているところから始まります。
イチでな〜し♪
ニでなし、サンでなし、シでもな〜し♪
ゴでもなけりゃ〜ロクでなし〜♪
大将!
ん?
誰だい、俺を大将と呼ぶのは?
あっしです。大将。
お前、俥屋か?
へえ。
人力車の車夫のこと。

大将、大将って……。
俺がいつ、戦に行ったっていうんだよ?
いや、家の中で一番偉いから、大将で。
なるほどな。
車はいかがですか?
車なんかもらってもなぁ……。
俺に俥屋になれってか?
いえ、あっしの車に乗ってもらいたいんで。
いや、俺はいいよ。
そう言わずに!
大将を男と見込んでお願いしてるんです!
なに?俺を男と見込んでるのか。
それなら、乗らねえわけにはいかねえな。
ありがとうございます!
さあ、どうぞどうぞ。
……よし。乗ったぞ。
どこに行くんだ?
へ?
あ、いや、大将はどこに行きたいんです?
どこにも行きたくねえよ。
俺は、お前に頼まれたから乗っただけだ。
えーっと……。
そしたら、とりあえず、真っ直ぐ走りましょうか?
そうしよう。
じゃあ、行きますよ!
あ、ちょっと待ってくれ。
なんです?
行く前に、そこの家の戸を叩いてくれ。
へ?知ってる家なんですか?
ああ。
……わかりました。
ちょっと待っててくださいね。
◆
ごめんくださーい!
はいはい。
どちらさまですか?
あの、あそこで車に乗ってる旦那に、この家を訪ねろと言われたもので……。
あっ!
あれは、うちの主人ですよ!
ええっ⁉︎
すみませんねぇ。
酔っ払って、ご迷惑をかけたでしょう?
どこから車に乗ったの?お代はいくら?
いや、実は……ここで乗ったばかりなんです。
あらあら、仕方ないねえ。
じゃあ、少ないけど、これで勘弁しておくれ。
いや、そんな!いただけませんよ!
いいからいいから。
取っておいてください。
……へえ。
ありがとうございます。

こうして、自分の家に帰ってきた留五郎。
ちょっと!
どうして、家の目の前で車に乗るのよ?
男と見込まれたからだよ。
どういうこと?
もう、飲み過ぎだよ。
早く寝ちまいなさい。
いや、もう一杯飲んでから寝る!
もう飲めないよ!
飲める!
飲めない!
……。
飲めない!
お前は俺か⁉︎
俺が飲めるって言ってるんだから、飲めるんだよ。
もう飲めやしないよ。
だいたいなぁ、そんなに「飲めない、飲めない」言われたら、こっちだって意地になって「飲める、飲める」と言いたくなるもんだ。
反対に「私のお酌じゃ美味しくないでしょうが、一杯いかが?」とでも言ってくれりゃあ、「いや、もう十分飲んできたからいいよ」ってなことになるんだよ。
……わかりましたよ。
私のお酌じゃ美味しくないでしょうが、一杯いかが?
それなら飲もう。
話が違うじゃないの!
それから奥さんは、文句を言いながらも、お酒を出してくれます。
ほら。

おい、酒だけか?
なにか、つまみはないのか?
鼻でもつまんどけば?
なに言ってやがんだ!
きゅうりの漬け物があっただろ?
持ってきてくれよ。
あれは、私が食べちゃった。
……。
そしたら、昨日の納豆の残りが35粒ほど……。
それも食べちゃった。
……。
じゃあ、ナスがあっただろ?
それならあるけど、生だよ?
いいよ。生で食う。
で、塩を舐めて、ぬかを食って、頭に重しを載っけとくよ。
まったく、何を言ってるんだい……。
わかったよ。
おでんでも買ってきてあげる。
偉い!
さすがは、俺の女房だ!
じゃあ、行ってくるね。
ちょっと待て!
こういうときはな、「おでんの具は何にします?」って聞いてから出かけるんだよ。
どうせ、大根と卵とこんにゃくでしょ?
今日の気分は、違うかもしれないだろ!
じゃあ、何が食べたいんだい?
大根と卵とこんにゃく。
ほら、言ったとおりじゃないか!
行ってくるからね!
ああ、頼むよ。
◆
……。
行っちまったか……。
こんな夜中に、おでんを買ってきてくれるなんて、ありがたいね。

本当にいい女房だよ。
なのに、俺ときたら……家の中では威張ってばっかり。
申し訳ねえなぁ……。
でも俺は、心の中では毎日、「ありがとう」って、あいつに手を合わせてるんだ。

……んん?
おい、まだそこに居たのか!
こっちの元帳を見られちまったよ!
商売の収支を記録した帳簿のこと。ここでは、「心の内」と同じ意味。
さあさあ、早く行った行った!
そうして妻を見送ってから、留五郎が酒に手をつけると、お燗がついていないことに気がつきます。
そこへ、鍋焼きうどんの屋台が通りかかりました。
鍋焼きうどーん!
おい、うどん屋ぁ!
へい。ありがとうございます。
湯が沸いてるだろ?
すまないけど、この酒を湯に突っ込んで、熱燗にしてくれ。
……へい。
◆
温まりましたよ。
ありがとよ。
じゃっ!
え?うどんは?
うどん?いらねえよ!
今から酒を飲むんだ。
そしたら、いなり寿司なんかは……。
いらない!
用が済んだら、さっさと行きな!
ええっ!?
とんでもない人に捕まっちまったよ……。
それからすぐに、奥さんがおでんを手に帰ってきます。
ただいま。
おう、ありがとう。
お前も一緒に飲まないか?
じゃあ、ちょっとだけ、いただこうかしら……。
あれ?このお酒、お燗がついてるじゃない。
さっき、うどん屋にやってもらった。
あら、うどんは嫌いじゃなかった?
うん。だから、食べてない。
え?
じゃあ、お酒のお燗だけさせたの⁉︎
うん。
そんなことしたら、うどん屋さんが可哀想じゃない!
その人は、どこに行ったの?
まだ、その辺にいるんじゃないか?
じゃあ、私が追いかけて、何か食べてあげてくるよ。
◆
ちょっとー!うどん屋さーん!
おい、うどん屋。
あそこの家で、お前を呼んでるよ。
え?
……ああ、あの家はダメです。
ん?なんで?
今ごろちょうど……
「お銚子の代わり目です」
ー完ー
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「代わり目」のオチ(サゲ)
今回は、「お銚子の代わり目です=おかわりを温めさせられるから嫌だ」という、うどん屋のセリフをオチとしました。
寄席の持ち時間などによっては、留五郎が奥さんへの感謝を一人でつぶやくシーンの「元帳を見られちまった」でサゲることもあります。
「代わり目」の豆知識
- 別題は「銚子の替わり目」「元帳」。
- 原話は『福三笑(ふくさんしょう)』という本の「枇杷葉湯(びわようとう)」という話だとされる。
- このネタは、五代目 古今亭志ん生が得意とした。
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この作品は、雲田はるこさん原作のマンガをアニメ化したものなのですが、落語の魅力が「これでもか!」というほど、たっぷり詰まっています。
まず注目すべきは、声優陣の豪華さ。
- 関智一:スネ夫(ドラえもん)etc.
- 石田彰:渚カヲル(エヴァンゲリオン)etc.
- 山寺宏一:ジーニー(アラジン)etc.
- 林原めぐみ:灰原哀(名探偵コナン)etc.
- 山口勝平:ウソップ(ONE PIECE)etc.
そして、高座のシーンの演出は、まるで寄席の中にいるような気分になってきます。
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