「あいつ、金を残して死ぬのが惜しいんだ!どこまで、しみったれなんだよ!」
「黄金餅(こがねもち)」のあらすじ

この話に出てくるのは、下谷(今の鶯谷の東あたり)の山崎町に住んでる、「西念」というケチな乞食坊主。
物語は、病で伏せている彼のところに、隣人の金兵衛が訪ねてくるところから始まります。
おう、西念さん。
体の具合はどうだい?
相変わらず、あまり良くないね。
そうか……。
医者には、診てもらったの?
いや。金がかかるから、診てもらってない。
ええ?
じゃあ、薬は?
金がかかるから、飲んでない。
それじゃあ、良くなりゃしないよ。
たくさん水を飲んだら、病が下るんじゃないかと思ったんだけど……ダメだね。
バカなことしてるなよ。
うーん……そしたら、好きなものでも食べて、体に精をつけたらどうだい?
俺が買ってきてやるよ。
いいのか?
ああ。
じゃあ、あんころ餅を頼む。

わかった。どれくらい食べる?
1貫(3.75kg)くらい……。
そんなに食べるの?
まぁ、いいや。
すぐに行ってきてやるから、銭を出しなよ。
へ?
見舞いに来たんだから、金さんが出してよ。
俺が金を出すの?
仕方ねえなぁ……。
それからしばらくして、金兵衛はあんころ餅を手に戻ってきます。
ほら、買ってきてやったよ。
ありがとう。
疲れただろうから、もう家に帰って休みなよ。
いや、せっかく買ってきたんだから、俺の見てる前で、一つくらい食べてくれよ。
私は、人に見られてる前では、食べられないタチでね。
そうなの?
……じゃあ、もう帰るよ。
こうして、せっかく、あんころ餅を買ってきてやったのに邪険に扱われた金兵衛。
「人前で食べられない」という西念が、どうやって食べるのか気になったので、壁の穴から覗くことにしました。
すると、部屋に一人になった西念は、あんころ餅の「あんこの部分」だけを先に食べ始めます。
変な食べ方をしてるねぇ……。
そんなに、あんこが好きなのか?
あんこを食べ終えた西念は、おもむろに懐から、薄汚れた袋を取り出します。
それをひっくり返すと、なんと中から大量の「二分金」と「一分銀」が出てきました。

あの野郎!あんなに金を持ってやがったのか⁉︎
きっと、ケチケチして、食うもんも食わないで貯めたんだ!
それから西念は、取り出した金と銀を餅に詰めて、次々に飲み込み始めます。

ええっ⁉︎何やってんだ⁉︎
……そうか!
あいつ、金を残して死ぬのが惜しいんだ!
どこまで、しみったれなんだよ!
そうして最後の餅を飲み込んだ西念は、突然、胸を押さえて苦しみだしました。

それを見た金兵衛は、急いで西念のもとに駆け寄ります。
おい!西念さん!
大丈夫か?
き、金兵衛さん……。
気持ち悪いんだろ?
吐いちまいなよ!
い、嫌だ……。
そう言いながら、ついに西念は息絶えます。

死んじまった……。

なんとか腹の中の金を取り出せないかな?
そうだ!焼き場に持ってって、骨揚げのときに拾っちまおう。
作戦を実施するべく、金兵衛はまず、大家のところに向かいます。

大家さん!
やあ、金兵衛か。
どうした?
西念さんが、死んじゃったよ。
そうか……。
ずっと体調が良くなさそうだったが、ついに……。
でね、俺が最期を看取ったんだけど、そのときに「自分は身寄りがないから、死んだ後のことを頼む」って言われちゃったんだよ。
頼まれたもんは仕方ないから、うちの檀那寺で弔ってやろうと思うんだが……いいかね?
ああ、よろしく頼むよ。
長屋のみんなには、私から話をしておこう。
こうして、大家に手伝ってもらいながら、西念のお通夜をした金兵衛。
遺体は夜のうちに寺で弔ってもらい、火葬場へ持ち込むことになりました。

遺体の入った桶を担いで、長屋のみんなが向かったのは、麻布絶口釜無村にある木蓮寺。
そこでお経をあげてもらったら、ここからは金兵衛が一人で桶を担いで、火葬場にやってきます。
おい、開けてくれ!
おう、どこから来たんだい?
木蓮寺だよ。
早くこいつを焼いてやってくれ。
そう言われても、そんなにすぐ焼けるもんじゃねえんだよ。
なんだと?
俺は急いでるんだ!
すぐに焼けないってんなら、お前のことを焼いちまうぞ!
何てこと言いやがるんだ!
……わかったよ。焼いてやるよ。
でも、今から焼き始めても、夜明けまではかかるぞ?
そうか……。
なら、近くで飲みながら待ってるよ。
おう。
そうだ!
お腹のあたりは、あんまり焼かないでくれないか?
ええっ⁉︎どうして?
こいつの遺言なんだ。
そこんとこ、頼むよ!
そう言い残して、立ち去った金兵衛。
飲み屋で夜明けを待ってから、再び火葬場にやってきます。

おう!焼けたかい?
芋みたいに言うなよ!
ちゃんと焼けてるよ。
どこにある?
そこの小屋の中だ。
わかった!ありがとな。
あんた、骨壷は持ってきたのか?
ないけど、骨なら袂(たもと)に入れるよ!
ええっ⁉︎
◆
おいおい、ずいぶんこんがり焼いちまったな!
腹のあたりは、あんまし焼くなって言ったろ?
やってみたけど、難しかったんだよ。
仕方ねえなぁ。
おい、火箸をこっちに貸して、お前は後ろを向いてな。
ええっ⁉︎どうして?
こいつの遺言なんだよ!
やけに遺言の多い人だねぇ……。
火葬場の人が後ろを向いている隙に、金兵衛は隠し持っていた包丁を取り出し、遺体の腹のあたりを捌きます。
すると、狙い通り、金と銀が出てきました。
よし!これだ、これだ!
急いで金銀を袂に入れた金兵衛は、回収が終わると、すぐに立ち去ろうとします。
ちょっと!待ちなよ!
ここに残ってる骨はどうするの?
犬にでもやっちまえ!
その後、金兵衛はこの金を元手にして、目黒で餅屋を開き、大変に繁盛したそうで。
「黄金餅の由来」の一席でした。
ー完ー
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「黄金餅」に登場する地名
「黄金餅」の見どころのひとつは、金兵衛が長屋の人たちと桶を担いで、寺に向かうシーン。
ここで落語家は、道中の地名を次々に言い立てます。
五代目 古今亭志ん生は、その地名を下記の順番で言い立てました。
みんなでワイワイワイワイ言いながら……
上野の山下→三枚橋→上野広小路→御成街道→五軒町→堀様と鳥居様のお屋敷の前→筋違御門→神田須田町→新石町→鍛冶町→今川橋→本白銀町→石町→本町→室町→日本橋→通四丁目→中橋→南伝馬町→京橋→新橋→土橋→久保町→あたらし橋→愛宕下→天徳寺→神谷町→飯倉六丁目→飯倉片町→おかめ団子の前→麻布の永坂→十番→大黒坂→一本松→
「麻布絶江釜無村木蓮寺」へ来た頃には、みんな、ずいぶんくたびれた。
志ん生は地名を言い終えた後に、「あたしもくたびれた」と呟いて、笑いを誘うのが定番でした。
「黄金餅」の豆知識
- このネタは、三遊亭圓朝が創作したとされる。
- 五代目 古今亭志ん生が得意とした。
- 金兵衛と西念の住む、当時の「下谷山崎町」は、貧民窟として知られた。
- 金兵衛の商売は、「金山寺味噌」売り。金山寺味噌とは、夏野菜の入った味噌のこと。
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この作品は、雲田はるこさん原作のマンガをアニメ化したものなのですが、落語の魅力が「これでもか!」というほど、たっぷり詰まっています。
まず注目すべきは、声優陣の豪華さ。
- 関智一:スネ夫(ドラえもん)etc.
- 石田彰:渚カヲル(エヴァンゲリオン)etc.
- 山寺宏一:ジーニー(アラジン)etc.
- 林原めぐみ:灰原哀(名探偵コナン)etc.
- 山口勝平:ウソップ(ONE PIECE)etc.
そして、高座のシーンの演出は、まるで寄席の中にいるような気分になってきます。
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