「和尚さんは、錦のふんどしを持ってるの?」「ふんどしはどうか知らないけど、錦の袈裟ならあるはずさ」

「錦の袈裟」のあらすじ

背景(室内・昼)

話は、若い男が集まってお喋りをしているところから始まります。

兄貴

おう、みんな集まったか?

兄貴。話ってのは、一体なんだい?

兄貴

それが、この間の晩のことなんだがな……。

兄貴

隣町の連中が、吉原に遊びに行ったみたいなんだよ。

ほう。

兄貴

そこで奴ら、揃いの赤い長襦袢になって、踊りを踊ったらしいんだ。

長襦袢とは?

着物の下に着る下着のこと。

兄貴

それから吉原では、隣町の連中が「面白い奴らだ」って評判になっててよ。

兄貴

俺は悔しいんだ。

たしかに、隣町の奴らにデカい顔をされるのは癪だな。

兄貴

だろ?

兄貴

だから、俺たちもいっちょ、吉原で目立つことをしねえか?

いいねぇ!

兄貴に、何か考えがあるのか?

兄貴

ああ。

兄貴

隣町が「赤い長襦袢」なら、俺たちは「錦のふんどし」で踊るのは、どうかと思ってな。

そりゃいいや!

みんなで何とか錦のふんどしを都合して、揃いで着ていこうじゃねえか!

兄貴

よし。決まりだな。

兄貴

さっそく、今晩繰り込もう!

兄貴

おい、与太郎も行くだろ?

与太郎

うーん……吉原かぁ……。

与太郎

行ってもいいか、かかあに聞いてみないと……。

兄貴

そんなこと、奥さんに相談するもんじゃねえよ!

与太郎

でも、黙って行って、後でバレたらどうなるか……。

兄貴

わかった、わかった!

兄貴

じゃあ、すぐに帰って、奥さんに聞いてみろ。

与太郎

うん。

兄貴

錦のふんどしも忘れるなよ!

さっそく与太郎は自分の家に帰り、奥さんにお伺いを立てます。

与太郎

ただいま。

与太郎の妻

はい、おかえり。

与太郎

今夜、吉原に行ってもいい?

与太郎の妻

ああ、いいよ。

与太郎

え、いいの?

与太郎の妻

どうせ、今日集まった連中みんなで行くことになったんだろ?

与太郎の妻

人付き合いなら仕方ないから、一晩くらい行っておいでよ。

与太郎

ありがとう。

与太郎

それでさ、みんなで錦のふんどしを着ていくことになったんだけど、うちにある?

与太郎の妻

あるわけないだろ!

与太郎の妻

そもそも、錦なんて高級な布を、ふんどしする人はいないよ!

与太郎

そうなの?

与太郎

でも、みんなで揃いで着て行って、吉原で目立ちたいんだよ。

与太郎の妻

まったく……バカな男たちだねぇ……。

与太郎の妻

それなら、お寺の和尚さんから借りてきたら?

与太郎

え?

与太郎

和尚さんは、錦のふんどしを持ってるの?

与太郎の妻

ふんどしはどうか知らないけど、「錦の袈裟」ならあるはずさ。

袈裟とは?

僧侶が着る衣装のこと。

ちなみに、禅宗の袈裟は、下記のように肩紐のところに輪っかがある。

与太郎の妻

それを、ふんどし代わりに腰に巻いていけばいいよ。

与太郎

なるほどね!

与太郎

じゃあ、行ってくる!

与太郎の妻

ちょっと、お待ち。

与太郎の妻

ただ「錦の袈裟を貸してください」って頼んでも、貸してくれないかもしれないからね。

与太郎の妻

「親戚の娘にキツネが憑いたのですが、ありがたい和尚の錦の袈裟をかけてやると祓えるそうなので、貸していただけないでしょうか?」って頼んでみなよ。

与太郎

わかった。そうする。

与太郎

じゃあ、行ってくるよ。

こうして、今度はお寺にやってきた与太郎。

与太郎

和尚さん、こんちは。

和尚

やあ、与太郎さんかい。

和尚

何か用かな?

与太郎

実は、親戚の娘にキツネが憑きまして……。

和尚

それは大変だな。

与太郎

ええ、そうなんです。

与太郎

それで、「ありがたい和尚の錦の袈裟をかけてやると祓える」と聞いたので、貸してもらえないかと思って。

和尚

そうか、そうか。

和尚

「ありがたい和尚」とは恐縮だが、錦の袈裟ならあるよ。

そう言って、和尚は奥から袈裟を持ってきてくれます。

和尚

ほら、これだ。

与太郎

うーん……なんだか年季が入ってますね。

与太郎

そっちにある袈裟は、新しそうじゃないですか。

和尚

ああ、あれは貸せないんだ。

和尚

明日の法事で着るからな。

与太郎

なら、明日の朝までに返しますよ!

与太郎

だから、そっちの新しい方を貸してください。

和尚

仕方ないなぁ……。

こうして、無事に錦の袈裟を借りることに成功した与太郎。

それを奥さんに上手いこと腰に巻いてもらい、仲間たちと吉原に向かいました。

さて、吉原の妓楼に着いた彼らは、芸者を呼んでどんちゃん騒ぎを始めます。

そして、盛り上がってきたところで、計画どおり、みんな錦のふんどし一丁になって踊りました。

座敷にいた花魁たちは、その様子を見ながら内緒話をしています。

花魁A

あら、あれを見てごらんなさい。

花魁B

ええ。おもしろい方々ね。

花魁A

みなさんが履いてるのは、「錦のふんどし」よ。

花魁A

錦なんて布をふんどしにするくらいだから、相当お金を持ってらっしゃるのよ。

花魁A

きっと、どこかのお殿様とその家来たちに違いないわ。

花魁B

どの方が、お殿様なのかしら?

ここで花魁は、与太郎のことを指差します。

花魁A

あの方よ。

花魁A

あの方のふんどしだけ、輪っかが付いてるもの。

花魁B

たしかに、輪っかが付いてるわね。

花魁B

でも、どうして、ふんどしに輪っかなんか付けてるの?

花魁A

小用を足すとき、あの輪に竿を通すのよ。

花魁A

高貴な人は、自分で自分のあそこを持たないの。

花魁B

へぇー。

花魁A

あの輪っかのことは、「ちん輪」と呼ぶそうよ。

こうして、花魁たちから殿様だと勘違いされた与太郎。

その晩は、相方になった花魁から、丁寧なもてなしを受けました。

烏カァで夜が明けます。

殿様の家来だと思われた与太郎の仲間たちは、あまり花魁から相手にされず、朝っぱらから廊下で立ち話をしていました。

兄貴

おはよう。

あ、兄貴。

昨晩はどうだった?

兄貴

からっきしだな。

俺もだよ。

兄貴

つまらねえから、早く帰ろうか。

ああ。そうしよう。

兄貴

ところで、与太郎は?

さあ?

兄貴

ちょっと探してみよう。

花魁に与太郎の居場所を聞き、男たちは部屋までやってきます。

なんだ、与太郎のやつ。

こんな立派な部屋に泊まったのか。

兄貴

おい、与太郎。

兄貴

そろそろ帰るぞ。

与太郎

うーん……。

兄貴

早く布団から出てこいよ。

与太郎

それがね、花魁が太ももで俺の腰あたりを挟んで、離さないんだよ。

兄貴

ええっ!?

兄貴

お前だけモテてずるいぞ!

与太郎

そう言われても……。

与太郎

ねえ、花魁。

花魁A

なぁに?

与太郎

俺、そろそろ帰りたいんだけど……。

花魁A

だめ。

花魁A

今朝(けさ)は返しませんよ?

与太郎

え⁉︎袈裟(けさ)は返さない⁉︎

与太郎

そりゃあ困るよ。

「和尚に怒られる」

ー完ー

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「錦の袈裟」の豆知識

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