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落語「死神」のあらすじ・オチ・豆知識を紹介!

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「アジャラカモクレン、テケレッツのパー」

「死神」のあらすじ

この話の主人公の熊五郎は、うだつの上がらない男。

妻からは、稼ぎが少ないだのなんだの、文句を言われっぱなしの毎日を送っています。

二人の子どもも、揃って妻の味方なので、家には居場所がありません。

物語は、そんな熊五郎が、町をふらふらと歩いているところから始まります。

熊五郎

あーあ、もう死んじゃおうかな。

熊五郎

俺なんか、いなくなったほうがいいんだ。

熊五郎

首でも吊ってやろうかな……。

手伝ってやろうか?

熊五郎

誰だっ!?

熊五郎が振り返ると、ねずみ色の着物を着た、痩せた老人が立っています。

熊五郎

あんたは……?

死神

死神だよ。

熊五郎

死神?

熊五郎

気味が悪いから、近づかないでくれよ。

死神

まぁ、そう邪険に扱うな。

死神

お前、金儲けをしたくないか?

熊五郎

え? まぁ、金は欲しいけど……。

死神

それなら、医者になれ。

熊五郎

医者ったって、どうやって?

死神

お前に、この杖をやる。

死神

これを手にしてる間、お前は俺以外の死神も見えるようになるんだ。

熊五郎

死神が見えるようになってもなぁ……。

死神

話は最後まで聞け。

死神

重い病で床に伏せている人の近くには、必ず一人、死神が憑いている。

死神

その死神が、病人の枕元に座っていたのなら、もう助からない。その人は寿命だ。

死神

ただ、足元にいた場合には、まだ助かる余地がある。

熊五郎

なるほど。

熊五郎

死神が見えると、病人の寿命がわかるようになるんだね?

死神

そういうことだ。

死神

しかも、足元にいる死神は、ある呪文を唱えれば、追っ払える。

死神

死神がいなくなりゃあ、病人の体調は、たちどころに回復するな。

死神

そうやって、病気を治して回れば、お前はいくらか金を稼げるだろう。

熊五郎

おお!そりゃあ、いい話だね!

熊五郎

で、その死神を追っ払う呪文ってのは?

死神

アジャラカモクレン、テケレッツのパー

死神

こう唱えてから、パンパンと2回柏手を打てば、すぐに死神は消えるよ。

熊五郎

へぇー。

熊五郎

いいことを教えてくれて、ありがとな!

熊五郎

じゃあ、この杖は、ありがたく貰っていくよ!

家に戻った熊五郎は、さっそく医者の看板をこしらえて、家の前に掲げます。

それからしばらくすると、依頼人がやってきました。

依頼人

ごめんください。

依頼人

こちらは、お医者様のお宅でしょうか?

熊五郎

ああ、そうだよ。

依頼人

実は、うちの店の主人が患っていまして……。

依頼人

どのお医者様に診ていただいても、一向に良くなりません。

依頼人

それで、占い師に相談したところ、こちらの方角に住む、お医者を訪ねろと言われたものですから。

熊五郎

そうかい、そうかい。よく来たね。

熊五郎

さっそく診てあげよう。

死神からもらった杖を片手に、病人の家を訪ねた熊五郎。

話に聞いたとおり、寝ている病人の足元に、死神が座っているのが見えます。

熊五郎

ああ、この人は助かるよ。

依頼人

本当ですか!?

熊五郎

うん。

熊五郎

アジャラカモクレン、テケレッツのパー!

熊五郎が柏手を打ち終わった途端、死神はいなくなり、病人は元気に起き上がりました。

依頼人

ありがとうございます!

依頼人

こんなに早く治していただけるなんて……。

依頼人

こちら、お礼の50両です。

熊五郎

そんなに貰っていいのかい!?

その後、「重病の患者を一瞬で治した名医がいる」と噂になり、熊五郎は方々から引っ張りだこに。

死神が足元にいた病人は、呪文を唱えて治してやり、枕元にいた場合には「もう助かりません」と言って、すぐに帰ってしまいます。

その後、家を出た瞬間に、病人が息を引き取るものだから、「あの人は本物だ」と、さらに噂は広がりました。

こうして、医者として大成功を収め、ちょっとした金持ちになった熊五郎。

憎い奥さんには、金を渡して離縁し、愛人を囲って大豪遊を始めます。

しかし、ろくに仕事もせずに遊んでばかりいたので、しばらくすると無一文になってしまいました。

熊五郎

まぁ、いいさ。

熊五郎

また医者をやれば、金なんか簡単に稼げる。

しかし、どうしたわけか、今回はどこに行っても、死神が病人の枕元に座っています。

それでは病人を治せず、報酬ももらえないので、熊五郎だんだん焦ってきました。

そんなところへ、大きな商家からの依頼が舞い込みます。

熊五郎

今度こそは、足元に座っていてくれよ……!

そう願いながら、病人のもとに駆けつけたものの、やっぱり死神が座っていたのは枕元。

熊五郎は、諦めて帰ろうとしましたが、店の番頭から引き止められます。

番頭

待ってください!!

番頭

このまま主人が亡くなってしまうと、店の財産のことが、まったく分からなくなってしまうんです……。

熊五郎

そんなことを言われても……。

番頭

そこをどうにか、お願いします!!

番頭

せめて1日だけでも、主人を話ができる状態にしていただけたなら……。

番頭

お礼に千両差し上げても構いません!!

熊五郎

せ、千両ですか!?

大金に目が眩んだ熊五郎は、ここで名案を思い付きます。

熊五郎

店から、若い男を4人連れて来られますか?

番頭

もちろんです!

熊五郎

集まったら、布団の四隅で待機させてください。

熊五郎

その後、頃合いを見て、私が合図を出します。

熊五郎

そしたら、病人の頭と足の位置が入れ替わるように、ぐるっと布団を回してほしいんです。

作戦を実行するべく、すぐに4人の男が布団の四隅に配置されました。

夜が更けてくると、死神はウトウトと居眠りを始めました。

そのタイミングで、「今だ!」と合図を出した熊五郎。

男たちは一斉に布団を持ち上げ、病人をぐるっと180度回転させました。

死神の位置が、病人の「枕元」から「足元」に替わった瞬間、熊五郎は早口で呪文を唱えます。

熊五郎

アジャラカモクレン、テケレッツのパー!!

この呪文を聞いた死神は、驚いた顔をしてスッと消え、それと同時に病人の体調は、一気に回復しました。

番頭

ありがとうございます!!

番頭

お礼の千両は後ほど、すぐにお宅までお届けします!

こうして、大金を手にすることになった熊五郎。

意気揚々と家に引き上げていると、後ろから声をかけられました。

死神

おい。

熊五郎

あ、いつかの死神さん!

死神

お前、えらいことをしてくれたな。

死神

さっき、お前が追い払った死神は、俺だ。

熊五郎

ええっ!?

熊五郎

それは、すみませんでした。

熊五郎

みなさん、同じような格好だから、気付かなくて……。

熊五郎

さっき稼いだお金から、いくらか差し上げるんで、勘弁してください。

死神

金はいらねえが……その代わりに、ちょっと付いてこい。

そう言われて、熊五郎が連れて来られたのは、真っ暗な洞窟。

死神に案内されるまま、奥へ進んで行くと、見渡す限り、ロウソクが置かれている部屋に着きました。

熊五郎

これは……?

死神

ここにあるロウソクはな……全部、人間の寿命なんだ。

熊五郎

へぇー。

熊五郎

この2本のロウソクは、どっちもすごい勢いで燃えてるな。

死神

それは、お前の子どもたちの寿命だ。

熊五郎

そうか。あいつら、まだまだ元気に生きられんだ!

熊五郎

じゃあ、その隣でよく燃えてる、半分くらいのロウソクは?

死神

お前の元妻の寿命だな。

熊五郎

どこにいるのか知らないが、あいつも、まだまだ死にそうにないね!

熊五郎

……んん?

熊五郎

こっちのロウソクは、今にも消えそうじゃないか。

熊五郎

きっと、もうすぐ死んじゃう奴のだね?

死神

そのロウソクは、お前のだ。

熊五郎

……え?

死神

お前は、とんでもないことをしたんだよ。

死神

あっちのほうで、勢いよく燃えてるロウソクがあるだろう?

死神

ちょっと前までは、あれがお前の寿命だったんだ。

死神

でもな、お前は金に目が眩んで、死にそうな病人と、ロウソクを取り替えちまったんだよ。

熊五郎

そ、そんな……。

熊五郎

何とかならないんですか?

死神

ならねぇな。

熊五郎

助けてください!お願いします!

死神

ダメだ。

熊五郎

もう医者はやめて、これからは真面目に働きます!

熊五郎

どんなに貧乏でもいいです!

熊五郎

元の女房のとこ行って謝って、子どもたちの面倒も見ます!

熊五郎

だから、どうか……命だけは……!

死神

しつこい奴だな。

死神

なら、試しにやってみるか?

熊五郎

なにか、手があるんですか!?

死神

ここに新しいロウソクがある。

死神

これに、そこの消えそうなロウソクから火を移せたら、こっちが新しい寿命になるよ。

死神

ただ、やってる途中で火が消えたら……わかるね?

熊五郎

は、はい。

熊五郎

ありがとうございます……!

死神からロウソクを受け取った熊五郎は、さっそく火を移そうとしますが、手が震えて、なかなか上手くいきません。

死神

そんなに震えてると、火が消えちゃうよ?

熊五郎

あ、あっ……。

死神

消えると、死ぬよ?

熊五郎

わわわ、わかってますよ……。

死神

ほら、消えるぞ。

死神

消えそうだぞ?

熊五郎

……。

死神

もう消えるぞ?

死神

あぁ、消える……。

死神

……。

死神

……消えた。

ー完ー

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「死神」のオチ(サゲ)

落語家によって、最後のロウソクの消え方の演出は異なります。

その例は、下記のとおりです。

  • 立川談志:火を移した瞬間、横から死神が吹き消す。
  • 柳家小三治:火の移し替えに成功するも、くしゃみで消してしまう。
  • 立川志の輔:火の移し替えに成功し、それを持って洞窟を出たところで、死神に「こんなに明るいのに」とささやかれ、うっかり自分で吹き消してしまう。
  • 立川志らく:火の移し替えに成功すると、死神から「今日は、お前の第2の人生の誕生日だ。ハッピーバースデー」と祝われ、自分で吹き消してしまう。

また、火の移し替えに成功し、熊五郎が生き残るパターンもあります。

「死神」の豆知識

  • このネタは、三遊亭圓朝の創作で、グリム童話が原作のオペラがモチーフだと言われている。
  • 死神が去る呪文のフレーズは、時事の言葉などを入れて、くすぐりに使われる。
  • 六代目 三遊亭圓生の十八番だった。
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