「源ちゃんは色ごと師♪色ごと師は源ちゃん♪」
「宿屋の仇討ち」のあらすじ

話は、武蔵屋という宿屋の若い衆「伊八」が、店の前で客引きをしているところから始まります。
お泊まりでは、ございませんかー?
武蔵屋でございまーす!
ご免。
はい、いらっしゃいませ!
お泊まりでいらっしゃいますか?
ああ。
ひとり旅だが、泊めてくれるか?
ええ。もちろん、結構でございますとも。
拙者は、万事世話九郎と申す。
実は、昨夜に泊まった宿屋が、たいへんに騒がしくて寝られなくてな。
今宵は狭くても、静かな部屋に案内してもらいたいのだが。
かしこまりました。
ちょうど奥の部屋が空いておりますので、そちらにご案内いたします。
かたじけない。
ところで、そちの名は?
伊八と申します。
ほう。
最後っ屁を放つのは、その方だったか。
それは、“イタチ”です!
そんなやりとりがありながら、この武士は奥の部屋へと案内されました。
そこへ後から、江戸っ子の清八・喜六・源兵衛の仲良し三人組がやってきます。

ごめんよ。
はいはい、お泊まりですか?
おうよ。
こちとら、魚河岸の「始終三人」なんだが、泊まれるかい?
43人⁉︎
申し訳ございませんが、そんなに大勢は泊まれません。
ああ、違う違う。
俺たちは、飯を食うのも三人、酒を飲むのも三人、妓楼に上がるのも三人で、いつも一緒にいるから「始終三人」て呼ばれてんだ。
そういうことでしたか!
3名様であれば、お部屋がございます。
こうして三人は、先ほどの武士の隣の部屋へと案内されました。

それから、さっそく彼らは、芸者を呼んでどんちゃん騒ぎ。
◆
これに驚いた隣室の武士は、ポンポンと手を2回叩いて、伊八を呼びます。
伊八ー!伊八ー!
へい。お呼びでございますか?
これ、伊八。
拙者が先ほど、「静かな部屋に案内してほしい」と申したことを忘れたか?
しかるに、隣の騒ぎようは何だ?
申し訳ございません!
とても寝られないから、拙者を別の部屋へ移してはくれぬか?
あいにく、本日は満室でございまして……。
ただいま、隣の客を静めてまいりますので、少々お待ちを願います。
◆
そう言い残して、すぐに三人の部屋を訪ねた伊八。
ごめんくださいまし。
おう、さっきの若い衆だな?
どうした?
すみませんが、もう少し静かにしていただけませんか?
なにぃ?
お通夜じゃあるめえし、なんで静かに飲まなくちゃいけねえんだ!
お隣のお客様が、「うるさくてお休みになれない」と仰いますんで……。
なんだと?
ふざけた野郎だな!
そいつをここに連れてこい!
お隣は、お武家様ですが……。
えっ⁉︎そうなの?
こりゃあ、ことを荒立てるとまずいな……。
仕方ねえ、今夜はもう寝ちまおう。
こうして三人は芸者を帰してから、布団を敷いてもらって、寝る準備をしました。
いったんは大人しく布団に入った三人でしたが、「まだ寝るには早い」ということで、そのままお喋りを始めます。
そういや、そろそろ相撲が始まるな?
ああ。
俺は「捨衣(すてごろも)」って力士が好きだな。
あいつは、出足が早いところがいいよな!
相撲の話をしているうちに、喜六と源兵衛は興奮してきて、やがて取っ組み合いを開始。

清八が行司役となって、また大盛り上がりします。
◆
伊八ー!伊八ー!
へい。お呼びでございますか?
これ、伊八。
拙者が「静かな部屋に案内してほしい」と申したことを忘れたか?
申し訳ございません!
すぐに静かにさせてきます!
◆
はっけよい、残った!残った!
ごめんくださいまし。
お!若い衆、きたか!
お前もやるか?
やりませんよ!
隣のお武家様が、うるさくてお休みになれないと、さっきも言ったでしょう?
そうだった、そうだった!
すまねえな。もう寝るよ。
そう言って、布団に戻った三人。
今度は、“静かに”面白い話をしようということになり、話題は「色事」に移ります。
だが、色っぽい話っつうのは、この三人には縁がねえな。
おいおい、俺をお前らと一緒にするなよ。
なんだい。源ちゃんには、色っぽい話があるのかい?
ああ。
今から3年ばかし前に、俺が川越の方にしばらく行ってたことがあったろ?
そういや、そんなことがあったな。
あんときは、伯父さんの小間物屋を手伝ってたんだが、その店のお得意さんには「石坂段右衛門」っていう侍の奥さんがいたんだよ。
その人は、近所で評判の美人でなぁ……。
ほうほう。
あるとき、俺がその奥さんの家を訪ねると、旦那も女中さんもいなかったんで、二人きりになった。
すると、酒を勧められてな。
奥さんにお酌をしてもらってるうちに、いい仲になったんだよ。
源ちゃん、やるねぇ!
それから、俺はちょくちょく、その家を訪ねるようになったんだが……。
しばらく経ったある日、奥さんと二人きりで部屋にいたら、なんと旦那の弟の「大助」って奴が入ってきちまった。
ええ?
そしたら野郎は、俺の顔を見るなり、腰に差してた刀を抜いたんだよ!
俺は斬られたくないから、夢中で逃げたね。
それから、それから?
俺が廊下から庭に飛び降りると、大助の奴も追ってきたんだが、地面が丁度ぬかるんでたもんで、野郎は転んで刀を落としちまった。
それを俺は見逃さず、落ちた刀を素早く拾って、奴を滅多斬りにしたんだ!
こ、殺したのか?
ああ。
死体を見た奥さんは、顔を真っ青にしてたが……。
「こうなったのも妾(わらわ)のせい。ここに30両あるから、これを持って妾を連れて逃げてくりゃれ」ときた。
俺はその金を受け取ると、逃げる支度をする奥さんを後ろから刺して、一人で逃げ出したんだ。
酷い奴だな……。
どうして、奥さんまで……?
考えてもみろよ。
女を連れて、追っ手から逃げ切れるものか。
こうして俺は、あれから3年経ってもピンピンしてられるってわけだ。
これは驚いたねぇ!
源ちゃんに、そんな過去があったなんて!
ああ。源ちゃんは、たいした色ごと師だ!
うん!
源ちゃんは色ごと師!色ごと師は源ちゃん!
源ちゃんは色ごと師♪色ごと師は源ちゃん♪
スッテンテレツク♪テレツクツッ♪
源ちゃんは色ごと師♪色ごと師は源ちゃん♪
スッテンテレツク♪テレツクツッ♪

◆
伊八ー!伊八ー!
へーい!
これ、伊八。
拙者は……。
「静かな部屋に案内してほしい」と仰ってましたよね?
今、静かにさせてきます!!
いや、それには及ばん。
先に拙者は「万事世話九郎」と名乗ったが、それは世をしのぶ仮の名だ。
まことは、「石坂段右衛門」と申す。
……?
先年、妻と弟を討たれ、その仇を探しておったところ、ついに隣の部屋に仇の「源兵衛」なる者がおるとわかった。
すぐに踏み込んで斬り捨てようとも思ったが、それはあまりに理不尽。
そこで、お前に源兵衛を呼んできてもらいたい。
さ、左様でございますか!!
今、呼んでまいります!!
◆
ごめんくださーい!!
ん?また、若い衆か?
すまん、すまん。
もう寝るよ。
いや、寝てる場合じゃないですよ!!
源兵衛さんは、どなたですか?
俺だよ。
あなた、人を殺したことは……?
なんだ、部屋の外で盗み聞きしてやがったな?
3年ほど前に、ちょっとな。
実は……隣のお武家様は、あなたに妻と弟を討たれた「石坂段右衛門」という方でして……。
「隣の部屋に仇がいるから、連れてまいれ」と。
ええっ⁉︎
いや、実は……さっきのは両国の小料理屋で、隣の奴が喋ってた話なんだよ!
だから、本当は俺の話じゃねえんだ。
そうなんですか⁉︎
紛らわしいことをしないでくださいよ!!
……面目ねぇ。

そしたら、私は隣に行って説明してきますから、あなたたちは静かにしててくださいよ!
◆
お待たせしました。
ご苦労であった。
奴を連れてきたか?
それが……実は、源兵衛さんの話は、他の人の受け売りだったようでして……。
貴方様の仇ではないそうです……。
この期に及んで、言い逃れをする気か!
今すぐ、こちらから踏み込んでやろうか!
そ、それだけは、ご勘弁願います!
部屋で客が斬られたと世間に知れれば、うちの宿屋には、人が寄り付かなくなってしまいます。
……ふむ。それはもっともだ。
それでは、明日の朝。ここを出てから、斬り捨てることとする。
しからばお前は、明日まで源兵衛が逃げ出さぬよう、見張っておけ!
はい!
拙者の仇は、源兵衛ひとりだが、奴には朋友が2人おるな?
これらは助太刀するであろうから、源兵衛と同様に斬り捨てる。
それゆえ、3名とも取り逃がすなよ?
かしこまりました!!
◆
それから伊八は、ほかの若い衆に声をかけて、みんなで三人の部屋に踏み込みます。
そして、持ってきた縄で三人とも柱に縛ってしまいました。
おいおい、なんで俺たちを縛るんだ!
隣のお武家様は明日の朝に、この宿を出たところで源兵衛さんに仇討ちするそうです。
なので、それまで逃げないように、縛らせていただきました。
ええ⁉︎
ちゃんと説明したの!?
それから、朋友のお二人も助太刀するだろうから、一緒に斬り捨てると……。
なんで⁉︎
俺たち2人は、助太刀なんてしねえよ!
そうとも!
源ちゃん一人で斬られてくれよ!!
お前ら、人の心とかないのか!!
こうして、三人は柱に縛られながら一夜を明かします。
伊八も彼らが逃げないよう、一睡もせずに見張りをしました。

一方で、武士はというと流石に肝が据わっていて、その日はぐっすりと眠り、日が昇ってから悠々と出てきます。

あっ、おはようございます!
伊八か。
昨夜は、色々と世話を焼かせたな。
とんでもございません。
それで、源兵衛のことですが……。
ん?源兵衛?
ええ。貴方様の仇の……。
ああ、あの話か。
あれは……座興だ。
ざ、座興?
ということは……?
戯れで申したに過ぎぬ。
ええー!!

私は一睡もせずに、あの三人を見張ってたんですよ⁉︎
彼らも一晩中、柱に縛り付けられて……。
はっはっは。災難だったな。
だが、あのくらい申しておかないと……
「拙者がゆっくり休めなかった」
ー完ー
「宿屋の仇討ち」の豆知識
- 別題は、「甲子待ち」「庚申待ち」「万事世話九郎」。
- 上方落語では、「宿屋仇」や「日本橋宿屋仇」の題で演じられる。
- 原話は、『無塩諸美味』という本の「百物語」。
落語に興味をお持ちのすべての方にオススメしたいのが、『昭和元禄落語心中』というアニメです。
この作品は、雲田はるこさん原作のマンガをアニメ化したものなのですが、落語の魅力が「これでもか!」というほど、たっぷり詰まっています。
まず注目すべきは、声優陣の豪華さ。
- 関智一:スネ夫(ドラえもん)etc.
- 石田彰:渚カヲル(エヴァンゲリオン)etc.
- 山寺宏一:ジーニー(アラジン)etc.
- 林原めぐみ:灰原哀(名探偵コナン)etc.
- 山口勝平:ウソップ(ONE PIECE)etc.
そして、高座のシーンの演出は、まるで寄席の中にいるような気分になってきます。
落語に少しでも興味があれば、ハマること間違いなしですので、ぜひ観てみてください!
なお、『落語心中』は各種サブスクで配信されていますが、一番オススメなのは「dアニメストア」を利用することです。
dアニメストアは、月額550円(税込)とほかのアニメ系サブスクよりも安く、31日間は無料で視聴できます。
dアニメストアに入れば、『落語心中』以外のアニメも見放題ですので、まずは無料で体験してみてください!
—
※初回は31日間無料ですが、31日経過後は自動継続となり、その月から月額料金の全額がかかります。
※月額は契約日・解約日に関わらず、毎月1日~末日までの1か月分の料金が発生し、別途通信料・その他レンタル料金など、使うサービスによっては別料金が発生します。
※見放題対象外のコンテンツもあります。






















