「俺の知り合いに、雨が降るたびに傘を借りて、一度も返しに来ない奴がいるんですよ」

「道灌(どうかん)」のあらすじ

話は、八五郎がご隠居の家を訪ねるところから始まります。

八五郎

こんちは。

ご隠居

おや、八つぁんかい。

ご隠居

まぁ、お上がり。

八五郎

それにしても、ご隠居は絵がお好きなんですね。

ご隠居

わかるかい?

八五郎

わかりますよ。

八五郎

こんなに部屋中、ところ構わずベタベタと絵を貼ってたら。

ご隠居

……嫌な言い方だね。

八五郎

おっ。あそこに貼ってある絵は、面白いですね。

八五郎

男の人が、シイタケを被ってるや。

ご隠居

あれは、「騎射笠(きしゃがさ)」といって、狩りをするための笠だよ。

ご隠居

お前、このお方を知らないのかい?

八五郎

知りませんよ。

八五郎

会ったことないし。

ご隠居

当たり前だ。

ご隠居

これに描かれているのは、かの有名な太田道灌公だよ。

八五郎

大きな土管工?

ご隠居

お・お・た、ど・う・か・ん・こ・う!

ご隠居

この絵はな、道灌公が家来を連れて、山へ狩りに行ったところが描かれているんだ。

ご隠居

道灌公は、道中でにわか雨に見舞われてな。

ご隠居

雨具の支度がなかったものだから、近くの家から借りることにした。

ご隠居

しかし、そこで出てきた女は、「お恥ずかしゅうございます」と言いながら、お盆の上に山吹の枝を載せて差し出したんだ。

八五郎

んん?

八五郎

なんだか、意味が分からないや。

ご隠居

お前が分からないのも、無理はない。

ご隠居

実は、道灌公も、女の意図がお分かりにならなかったのだからな。

八五郎

はぁ。

ご隠居

そのとき、家来の一人が進み出てこう言った。

ご隠居

「恐れながら申し上げます」

ご隠居

「“七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき”という、古い和歌がございます」

ご隠居

「彼女は、その歌になぞらえ、“実の”と雨具の“蓑”をかけて、お断りをしたいのだと存じます」

八五郎

へえー。

八五郎

この女の人、歌を使って、上手いこと雨具を貸すのを断ったってわけか。

ご隠居

ああ。

ご隠居

家臣の進言を聞いた道灌公は、「私は歌道に暗かった」と言って、自分のお城に帰っていった。

ご隠居

その後、道灌公は和歌の猛勉強をして、立派な歌人になられたんだ。

八五郎

ちょっと待った!

八五郎

この人、お城なんて持ってたんですか?

ご隠居

おいおい、笑われるよ。

ご隠居

千代田のお城があるだろう?

ご隠居

あれは、もともと道灌公のお城だったのが、後に徳川様のお城になったんだ。

八五郎

そうだったのか。

八五郎

なら、徳川さんはずいぶん安く買ったんだろうね。

ご隠居

ん?どうしてだ?

八五郎

だって、“家、康(安)”って言うくらいだから。

ご隠居

馬鹿なことを言ってんじゃないよ。

八五郎

そうだ、ご隠居。

八五郎

さっきの和歌を、紙に書いてくれませんか?

ご隠居

それは構わないが、何に使うんだ?

八五郎

いやね。

八五郎

俺の知り合いに、雨が降るたびに傘を借りて、一度も返しに来ない奴がいるんですよ。

八五郎

だから、次にそいつが来たとき、その和歌で断ってやろうと思って。

ご隠居

なるほどな。

ご隠居

そしたら、今、書いてあげるから、少し待ちなさい。

こうしてご隠居は、「七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき」の和歌を、八五郎でも読めるように、すべて平仮名で書いてあげました。

ご隠居

ほら、書けたたぞ。

八五郎

ありがとうございます。

八五郎

えーっと……な・な・へ・や・へ?

ご隠居

違う違う。

ご隠居

「ななえ・やえ」と読むんだ。

こんなことをして、ご隠居が読み方を教えているうちに、空の様子が怪しくなってきます。

八五郎

おや、なんだか外が暗くなってきたね。

八五郎

こりゃあ、ひと雨降りそうだ。

ご隠居

そうだね。

八五郎

雨が降れば、あいつが傘を借りにくるぞ!

八五郎

こうしちゃ、いられねぇ。

八五郎

ご隠居、このあたりで失礼します!

急いで、自分の家に帰ってきた八五郎。

そこへ、おあつらえ向きに、例の八五郎の友達が訪ねてきました。

友達

おう、八つぁん。

友達

ちょっと借りたいものがあるんだが……。

八五郎

お、来たね。

八五郎

わかってるよ。傘だろ?

友達

いや、もう雨合羽を着てるから、傘はいらない。

友達

これから、ちょっと出かけるんだが、遅くなると明かりがいる。

友達

だから、提灯を貸してくれないか?

八五郎

まぁ、いいが……。

八五郎

提灯を借りたきゃ、傘も借りてってくれよ。

友達

なんでだよ!

友達

傘はいらねぇよ!

八五郎

いいじゃねぇか、「傘を貸してくれ」って、そう言ってくれるだけでいいんだ。

友達

変な奴だなぁ。

友達

わかったよ。“傘を貸してくれ”。

八五郎

待ってました!

八五郎

お恥ずかしゅう……。

裏声を出して、そう言いながら、ご隠居に書いてもらった和歌を差し出した八五郎。

友達

なんだこれは?

友達

な・な・へ・や・へ……?

八五郎

違う違う。

八五郎

これは、こう読むんだよ。

八五郎

七重八重 花は咲けども 山吹の……

ここまで口に出した八五郎は、その後の読み方を忘れてしまいました。

仕方がないので、適当に読みます。

八五郎

……味噌一樽と鍋と釜敷き。

友達

なんだい、それは?

友達

台所道具の都々逸(どどいつ)か?

八五郎

こいつ、都々逸なんて言ってやがる!

八五郎

さては、お前、歌道に暗いな?

友達

ああ、そうだ。

「角が暗いから、提灯を借りに来た」

ー完ー

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「道灌」の豆知識

  • 別題は、「太田道灌」。
  • 前座の落語家が、よく高座にかける「前座噺」として知られる。
  • 柳家一門に入門すると、この「道灌」を最初に教わるそう。
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