「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

「鰍沢(かじかざわ)」のあらすじ

この話の主人公は、江戸の商人の「新助」。

彼は日蓮宗の総本山である「身延山」へ参詣するため、道中の小室山で毒消しの護符をいただいてから、「鰍沢」に向かっていました。

しかし、降りしきる雪の中、新助は道に迷ってしまいます。

「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」とお題目を唱えながら彷徨っていた彼は、やがて民家を見つけました。

新助

ごめんください。

奥さん

はいはい。

新助

あの……道に迷ってしまいまして……。

新助

ここで一晩、雪をしのがせてもらえませんか?

奥さん

ええ、どうぞ。

奥さん

何もお構いできませんが……。

新助

ありがとうございます。

奥さん

さあさあ、こちらで火におあたりなさい。

ここで、やっと一息つけた新助。

囲炉裏の火にあたりながら、親切にしてくれた奥さんに目をやると、とびきりの美人なことに気が付きます。

彼女の首元には、大きな月型の傷がありましたが、むしろそれが美貌に凄みを与えていました。

新助

つかぬことを伺いますが、お言葉の様子では、奥さんは江戸の方でらっしゃいますね?

奥さん

ええ。

新助

お住まいは、どちらだったんですか?

奥さん

浅草のほうで……。

新助

浅草……もしかして、吉原においでになったことは……?

奥さん

まぁ、少しの間ですが……。

新助

間違いであれば、申し訳ございません。

新助

あなたは、熊造丸屋の「月の兎」花魁ではありませんか?

奥さん

え?

奥さん

おまはん、誰なの?

新助

実は私、花魁の座敷に一度だけ上がったことがあるんです。

新助

ただ、後でもう一度会いに行ったら、花魁は心中したと……。

奥さん

ええ。心中しそこなったんです。

奥さん

今は、一緒に死のうと思った男と、この山奥で「お熊」と名乗って生きています。

新助

そうだったんですね……。

新助

ご主人のお仕事は?

奥さん

熊を撃って、その脂から膏薬を作っております。

そんな話をしながら、新助はおもむろに荷物の中から、小判を2枚取り出しました。

新助

あの……失礼ではございますが、これは私の心ばかりです。

奥さん

まぁ。こんなお金、受け取れませんよ。

新助

そう仰らず、納めてください。

奥さん

では……主人が帰るまで、お預かりしておきます。

奥さん

あなた、お酒は飲まれますか?

新助

いえ、私は下戸なもんで……。

奥さん

下戸ったって、少しくらいは飲めるでしょう?

奥さん

今、卵酒を作ってあげますから、召し上がってください。

そう言って、お熊は卵酒を作ってくれました。

奥さん

さあ、どうぞ。

新助

ありがとうございます。

卵酒を受け取り、2口ほど飲んだ新助。

すると、すぐに体が温かくなり、先ほどまで雪の中を歩いていた疲れもあってか、瞼が重くなってきました。

新助

すみません……。

新助

ご主人が帰られるまでは、起きているべきなのですが……。

新助

急に眠気が……。

奥さん

でしたら、奥の3畳で横になってください。

次の間に案内された新助は布団に入ると、すぐに寝入ってしまいました。

それからしばらくして、お熊が酒を買い足しに出掛けている間に、亭主の「伝三郎」が帰ってきます。

伝三郎

今、帰ったぞ。

伝三郎

……ん?お熊、いないのか?

部屋に荷物を下ろした伝三郎は、新助が飲み残した卵酒を発見します。

伝三郎

お熊の奴、卵酒なんて飲んでたのか。

伝三郎

亭主が雪の中、商いをしてたっていうのに……。

伝三郎はそう呟き、残っていた卵酒を飲み干しました。

すると、だんだん体が痺れてきて、上手く呼吸ができなくなってきます。

そこへ、やっとお熊が帰ってきました。

奥さん

ただいま。

奥さん

……?あなた?

伝三郎

うぅ……。

床で苦しんでいる伝三郎のわきには、卵酒が入っていた湯呑みが転がっています。

奥さん

あなた、卵酒を飲んだの⁉︎

奥さん

あれには、痺れ薬が入ってたのよ!

伝三郎

な……んで……?

奥さん

今、次の間に、道に迷った旅人を泊めてやってるんだけど……。

奥さん

金をたくさん持ってたもんだから、痺れ薬を飲ませて、巻き上げてやろうと思ったの!

お熊と伝三郎が大騒ぎをしているので、さすがに隣の部屋で寝ていた新助も目を覚まします。

そして、二人の会話から、自分の置かれている状況を察しました。

慌てて起きあがろうとした新助でしたが、少量とはいえ、痺れ薬を口にしたため、体が思うように動きません。

なんとか荷物を背負い、這うようにして庭に出ました。

そこで彼は、小室山で「毒消しの護符」を貰っていたことを思い出します。

すぐに荷物から護符を取り出して口に入れ、周りの雪で飲み下すと、心持ち体が楽になりました。

一方その頃、お熊は新助が逃げ出したことに気が付きます。

「せっかくのカモを逃してはならぬ」と、伝三郎の猟銃を手にしたお熊は、新助を追いかけ始めました。

雪に足を取られて転びながらも、夢中で走り続けていた新助でしたが、やがてお熊に見つかってしまいます。

彼が追い込まれたのは、下に鰍沢が流れる断崖絶壁。

大雪によって水かさの増した川は、凄まじい音をたてながら流れています。

ここで覚悟を決めた新助は、一か八かで下に飛び降りました。

すると、運良く彼が着地したのは、イカダの上。

落ちてきた衝撃で、岸とつながっていた蔦が切れて、急流を下り始めます。

新助

南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……。

お題目を唱え、無事に逃げ切れることを祈った新助でしたが、イカダは岩にぶつかってバラバラに。

彼は材木一本にしがみつき、なおもお題目を唱え続けました。

崖の上にいるお熊は、川に浮かぶ新助に狙いを定めて発砲。

放たれた銃弾は新助の体をかすめ、後ろの岩に当たりました。

こうして、新助は九死に一生を得ます。

新助

ああ……よかった……。

「一本の材木(題目)で助かった」

ー完ー

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「鰍沢」の豆知識

  • 別題は、「鰍沢雪の酒宴」「鰍沢雪の夜噺」「月の輪お熊」。
  • このネタは、三遊亭圓朝が「毒消し・卵酒・鉄砲」の三題噺で創作したと言われる。(三題は、「小室山の護符・卵酒・熊の膏薬」の説もあり)
  • 六代目 三遊亭圓生が得意とした。
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