「主の正直に惚れんした」
「紺屋高尾」のあらすじ

物語の舞台は、紺屋。今でいう、染め物屋です。
話は、そこで働く「久蔵」という名の職人が、近ごろ店に顔を出さないので、親方が心配して、様子を見に行くところから始まります。
おい、久蔵。
どうした、具合が悪いのか?
あ、親方。
実は、患っちまいまして。
どこが悪いんだ?
それが……恋患いなんです。
ここで久蔵は、親方に詳しい事情を話します。
この前、店の先輩たちに、吉原に連れて行ってもらったんです。
そのときに見かけた「高尾」という花魁が、あまりに美しくて……。
あっしも、ああいう花魁と、一夜を過ごしたいと思いました。
でも、聞けば、大名ぐらいにならないと、彼女には相手にしてもらえないそうで。
だから、その日は潔く諦めて帰ってきたんですが、それから寝ても覚めても、高尾の顔が頭に浮かぶんです。
それは、えらい女に惚れたな。
だがな、久蔵。向こうだって商売だ。
筋さえ通せば、初めは15両もあれば、会ってもらえるだろう。
15両か……。
親方、あっしはどれほど働けば、15両を貯められますか?
そうだなぁ……。
お前は若いが腕はいい。
一生懸命働けば、三年もあればなんとかなるだろう。
この言葉を聞いた久蔵は、その日から、一心不乱に働きました。
そうして、いつの間にか三年の月日が流れます。

親方、おはようございます。
おう、久蔵。おはよう。
あの、あっしが親方に預けておいた給金は、どれほどになったでしょうか?
もう18両になったよ。
お前、よく貯めたなぁ。
それで提案があるんだが……。
久蔵、もう少しだけ頑張って、あと2両貯めなさい。
それで合わせて20両になったら、それを元手にして、お前を独立させてやる。
親方、そのお気持ちは嬉しいんですが……。
実は今日、貯めてた銭のうち、15両を使っちまおうと思ってるんです。
何に使うんだ?
三年前に親方に話した、高尾に会いに行きます。
お前、まだ、高尾のことが忘れられてなかったのか……。
はい。ダメでしょうか?
いや、気に入った!
お前が吉原に行く支度を、俺も手伝ってやろう。
というわけで、さっそく久蔵の身支度が整えられます。
小洒落た着物に着替えさせられた久蔵は、紺屋の職人と正直に言っては、花魁に相手にされないので、どこぞの店の若旦那と偽ることになりました。
◆
そうして、吉原までやってきた久蔵。
本来であれば、高尾のような格式の高い花魁には、当日ふらっと行って会えるものではありません。
しかし、その日は幸運にも、先約が取りやめになった関係で、高尾に会えることになりました。

こうして、晴れて高尾と一晩過ごせた久蔵は、その翌朝、彼女からこう尋ねられます。
主、今度はいつ来てくんなます?
この言葉を聞いた久蔵は、嬉しいやら悲しいやらで、泣きそうになってしまいました。
さっ、三年待ってくれ!
三年は長うござんす。
もっと早う来て。
ここで久蔵は、何もかも白状します。
自分は若旦那なんかではなく、ただの紺屋の職人だということ。
三年前に高尾に一目惚れして、それから毎日想い続けていたこと。
そして、三年間の稼ぎを、すべてこの一夜に注ぎ込んだこと。
花魁、嘘ついてすみません。
でも、あっしは会えないと思ってた花魁と、一夜だけでも過ごせて幸せです。
これを思い出にして、明日からも生きていけます。
さっきは三年待ってくれと言いましたが、三年もしたら、きっと花魁は、もうここには居ないでしょう。
でも、この江戸で暮らしてれば、またどこかで会えるかもしれません。

だから、花魁。
最後に一つだけ、あっしのワガママを聞いてください!
もし、また会うことがあったら、一言でいい。
「久蔵はん、元気?」と声をかけてくれませんか。
その一言を頼りに、あっしは生きていきます。
久蔵の話を静かに聞いていた高尾は、ここで涙を浮かべて口を開きます。
わちきは来年の3月15日に、年季(ねん)が明けるんざます。
そのときは、主のそばに参りんすによって、わちきのような者でも女房にしてくんなますか?
え、どうして……?
主の正直に惚れんした。
その後、店に帰ってきた久蔵は、来年の3月15日を待ち焦がれ、また一生懸命に働きます。

そうして迎えた、3月15日。
約束通り、高尾は籠に乗って、久蔵が働く紺屋を訪ねてきました。
花魁、来てくれたんですね。
3月15日ざましょ?
ええ、本当によく来てくれました。
久蔵はん……元気?
晴れて妻を迎え、親方の計らいで店から独立もした久蔵。
新たに構えた紺屋で、夫婦揃って睦まじく働きました。
その店は、江戸で一番の美女と噂された高尾がいるということで、すぐに大勢の客が集まり、大変に繁盛したそうで。
世にいう紺屋高尾の一席でございます。
ー完ー
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「紺屋高尾」の豆知識
- もともと講談にあった噺を、落語に持ってきたネタ。
- 六代目 三遊亭圓生が得意としていた。
- 別題は『駄染高尾』『かめのぞき』。
- よく似た噺に『幾代餅』がある。
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