「あのね、『桃太郎』って言ったら、日本昔話でも屈指の名作なんだよ?それを、あんな風に話されたんじゃ、作者が泣くぜ?」
「桃太郎」のあらすじ

話は、父親が子どもを寝かしつけようとしているところから始まります。
おい、金坊。
早く寝ろよ。
やだよ。
まだ眠くないんだもん。
そしたら、おとっつぁんが昔話をしてやるから、それを聴きながら寝ちまいな。
それは無理だよ。
どうして?
話を聞くなら聞く、寝るなら寝るで、同時には出来ないよ。
いいから、黙って聴いてなさい。
むかしむかし……
「むかし」って、いつ?元号は?
元号なんてもんが無いくらい、昔のことだよ。
じゃあ、少なくとも「大化の改新」よりは前の話だね?
やけに元号に詳しいな……。
気を取り直して……むかしむかし、あるところに……
「あるところ」って、どこ?
昔過ぎて、土地の名前も決まってなかったんだよ。
なら、縄文時代より前だね?
そうかもな。
とにかく、あるところに、お爺さんとお婆さんがいた。

2人の名前は?
ない!
いや、いくら昔でも、名前くらいはあるでしょ!
金に困って、売っちまったんだよ!
そうなの?
じゃあ、2人の年齢は?
名前とセットで売っちまった!
ずいぶん乱暴な人たちなんだね?
ああ、そうだよ!
お前にそうやって、話の途中でいちいち腰を折られると、いつまでも前に進まねえ。
多少、分からなくても、「ふーん」と聞いてりゃ、だんだん分かってくるものだよ。
ふーん。
でな、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行った。
すると、川上からドンブラコドンブラコと、大きな桃が流れてくる。

ふーん。
お婆さんは、その桃を家に持ち帰り、お爺さんと一緒に割ってみると、なんと中から男の子が生まれた。
桃から生まれたもんだから、2人はこの子を「桃太郎」と名付け、大切に育てたんだ。
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ふーん。
桃太郎は成長すると、「鬼退治に行きたい」と言い出し、美味しいきび団子を持たせてもらって出発。
途中で「犬・猿・キジ」の3匹を仲間にしてから、鬼ヶ島に辿り着くと、みんなで鬼たちを懲らしめた。

ふーん。
ついに鬼たちは降参して、桃太郎へ宝の山を差し出す。

それを桃太郎は車に乗せて、お爺さんとお婆さんの待つ家まで持ち帰り、それからはみんなで幸せに暮らしたとさ。
めでたしめでたし。
ふーん。
どうだ?眠くなってきたか?
逆に目が冴えてきちゃったよ。
なんでだよ?
おとっつぁんの話が、あまりに酷いからだよ。
はぁ?
あのね、『桃太郎』って言ったら、日本昔話でも屈指の名作なんだよ?
それを、あんな風に話されたんじゃ、作者が泣くぜ?
生意気なこと言いやがって!
お前に「桃太郎」の何が分かるんだよ?
少なくとも、おとっつぁんよりは分かってるね。
まず、この話が「むかしむかし」から始まるのは、物語に普遍性を持たせるためなんだ。
普遍性?
「いつどこで誰が聴いても、話を楽しめるように」ってこと。
舞台を「あるところ」としてるのも、同じく普遍性を持たせるためだね。
……ほう。
そして、冒頭で登場するのは「お爺さん」と「お婆さん」だけど、実はこの2人、「父」と「母」なんだ。

え?そうなの?
うん。「ぢぢ」と「ばば」から濁点を取ると、「ちち」「はは」になるでしょ?
実際、お爺さんが行く「山」は、「父の恩は山よりも高い」ということを表してるんだ。
そして、お婆さんが行く「川」は、本当は「海」で、「母の愛は海よりも深い」ことの暗示だね。
へぇー。
で、川から流れてきた桃から赤ん坊が生まれるのは、「子どもは天からの授かり物」ってことを意味してる。

あと、おとっつぁんは、きび団子のことを「美味しい」なんて言ってたけど、それは見当違いも甚だしいよ。
おい、何てこと言うんだ!
だって、米や麦に比べると、キビは穀物の中でも「粗末な食べ物」という印象があるでしょう?
だから、桃太郎がきび団子を持たされたのには、「贅沢を戒める」意味合いがあるんだよ。
そ、そうなの?
それから、道中で仲間になる「犬・猿・キジ」なんだけど……。
まず、「犬」は「3日飼われたら、その恩を3年忘れない」というくらい、仁義に厚い動物なんだ。

そして、「猿」は「猿知恵」なんて揶揄されるけど、動物界では随一の知能を持つ。

最後の「キジ」は勇気のある鳥で、卵がヘビに狙われると、自分が囮になって身体を巻かれながらも助けるほど。

つまり、「犬・猿・キジ」の3匹は、それぞれ「仁・智・勇」という儒学の三徳を表しているんだよ。

おーい、おっかぁ!

お前も、金坊の話を聞けよ。タメになるぞ。
それから、桃太郎たちが目指す「鬼ヶ島」。

あたいが見るに、これは「渡る世間」の暗喩だね。
というと?
「渡る世間に鬼はなし」なんて言うけど、あれは社会をよく知らない奴らの戯言さ。
実際に社会に出てみれば、鬼よりも酷い奴なんて腐るほどいるもんだろ?
ああ。そうなんだよな……。
でもね、人間として生まれたからには、そんな世知辛い世界でも、一生懸命に暮らしていかなきゃいけない。
「鬼ヶ島での鬼退治」ってのはね、そういう苦労のことを言ってるんだよ。
そうか……。
桃太郎は、深いな……。
それで、桃太郎は散々な苦労をした末に、宝の山を手に入れる。

ここでいう「宝」ってのは、世間に出て丁寧な仕事をすることで得られる「信用」、そして、食べていくのには困らない程度の「財産」のこと。
それらを手に入れた桃太郎は、故郷に帰って、親孝行をしながら穏やかな余生を送るってわけ。
あれ、おとっつぁん?聞いてる?

……なんだ、寝ちゃってるよ。
まったく……
「親ってのは、罪がないね」
ー完ー
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