「売るときには、上を見るんだぞ?」
「かぼちゃ屋」のあらすじ

この話は与太郎が、八百屋を営む伯父さんに呼び寄せられるところから始まります。
こんちは。
おう。来たな、与太郎。
ちょっとお前に、話したいことがあるんだ。
なに?
お前も、もう二十歳だし、いつまでも遊んでるわけにはいかないだろ?
だから今日は、お前に商売を教えてやろうと思ってな。
商売って、伯父さんがやってる八百屋の?
ああ。
そこに、カボチャがたくさんあるだろ?

お前には、それを売ってきてほしいんだよ。
ほう。
もう俺のほうで、大きさを「大」と「小」に分けて、それぞれ別のカゴに入れておいた。
だからお前は、その2つのカゴを天秤棒に吊るして、売って歩いてくれ。

わかった。
仕入れ値は、「大」が13銭で「小」が12銭だ。
売るときには、上を見るんだぞ?
仕入れたときの「元値」に、利益分の金額を足して売ること。
できるな?
それくらい、わけねぇや。
よし。
カボチャを担いで歩くときにはな、売り声をあげるんだ。
「カボチャ!やい、カボチャ!」って?
そんなこと叫んでたら、周りの人に喧嘩を売ってるみたいだよ。
それに、「カボチャ」と言わずに、「唐茄子」と言ったほうが売れるだろうな。
唐茄子!

売れないじゃねえか。
家の中で叫んで、売れるかよ!
外に出て、「唐茄子屋でござ〜い!」と節をつけて言いながら歩いてれば、誰かしら声をかけてくるだろう。
そういう人に売って歩くんだ。
ふーん。
あとは、表通りじゃなくて、長屋が並んでる裏通りのほうがよく売れるからな。
さぁ、行ってきな!
こうして、天秤棒を担いで、店から出発した与太郎。
伯父さんに言われたとおり、裏通りにやってきます。

唐茄子屋でござ〜い!
お、カボチャかい?
いや、唐茄子だ。
どっちも同じようなもんだろ。
俺はカボチャが大好物なんだ。
大きいのと小さいのを、一つずつくれよ。
そしたら、「大」が13銭で「小」が12銭だから、合わせて25銭だ。
50銭玉しかないんだが、お釣りはあるかい?
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釣りはいらねえよ。
お前が決めんな!
二人がそんなことを話していると、長屋の住人が集まってきます。
どうしたの?
ああ、おかみさん。
こいつから、カボチャを買ってたんだよ。
へー。いくらなの?
大きいのが13銭で、小さいのが12銭だって。
安いわね。
私も、大きいのを一つもらおうかしら。
おい、おかみさんも買ってくれるってよ。
あっそ。
俺はやらなきゃいけないことを思い出したから、おじさんが金を受け取っておいてよ。
そう言って、おもむろに空を見上げ始めた与太郎。

仕方がないので、このおじさんは、おかみさんからカボチャの代金を預かります。
その後、カボチャを買いたい人が次々に集まってきて、与太郎が持ってきた分はすべて売れてしまいました。
おい、全部売れちまったぞ?
そうか。
ほら、これがその代金だ。
商売ってのは、ずいぶん簡単なんだな。
それじゃ。

待て待て。
俺も手伝ってやったんだから、「ありがとう」の一言くらい言ってから帰れよ。
どういたしまして。
こうして、与太郎は伯父さんの八百屋まで帰ってきます。

ただいま。
おいおい、帰ってくるのが早すぎるよ。
もう少し、頑張って売ってきなさい。
そう言われても、もうカボチャがないよ。
えっ⁉︎
全部売ったのか?
ああ。
よくやった!
お前は普段ボーッとしてるが、やるときにはやるんだな!
そしたら、売上金を出しなさい。
ほらよ。

……お前、商売慣れしてんな。
「仕入れ分」と「利益分」で、銭を分けたんだろ?
ここには「仕入れ分」しかないみたいだから、「利益分」も出しなよ。
それで全部だよ。
え?
上を見て売ったんだろ?
もちろん。
そのせいで、首が痛いや。
まさかお前……。
「上を見ろ」って言われて、空を見上げてたのか?
そうだけど?
何やってんだよ!

「上を見ろ」ってのは、「仕入れ額に掛け値をして売ってこい」って意味だよ!
元値のまんまで売ってちゃ、儲けが出なくて、女房と子どもが養えないだろ!
女房も子どもも、いないもん。
屁理屈を言うな!
もう一回、行ってこい!
伯父さんにどやされて、また天秤棒を担いで外に出た与太郎。
彼はそのまま、先ほどと同じ裏通りにやってきます。

唐茄子屋でござ〜い!
あ、お前。また来たのか?
おじさん、カボチャを買ってよ。
さっき買ったばっかじゃねえか!
いいだろ?
大好物だって言ってたじゃねえか。
仕方ねえなぁ……。
じゃあ、小さいほうを一つ買ってやるよ。
毎度あり。
12銭だったよな?
いや。
値上がりして15銭になったんだ。
ええ?
どうして、この短時間で値上がりするんだよ。
さっき言ってた12銭は元値だから、それに掛け値しないと、儲けが出ないんだって。
どうりで安いと思ったよ。
そんなことも知らないで……お前、いくつだよ?
40歳だ。
ええ?
どう見ても、二十歳そこそこにしか見えねえぞ?
元は二十歳で、あとの20は掛け値だ。
自分の歳にまで、掛け値をするんじゃねえ!
だって、掛け値をしないと……
「女房と子どもを養えねえ」
ー完ー
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