落語「芝浜」のあらすじと豆知識を紹介!

「おう、ずいぶん久しぶりだな。元気にしてたかよ?」
「芝浜」のあらすじ

この話の主人公は、魚屋の魚勝。
仕事の腕は良いのですが、ここのところは酒を飲んでばかりで、あまり仕事をしていません。
物語は、そんな彼が、奥さんに起こされるところから始まります。
お前さん、起きとくれよ。
うーん……。
そろそろ、家を出る時間だよ。
……仕事道具は?
全部揃えて、出してあります。
そうか……。
ねぇ。今日から、ちゃんと仕事をするって、約束してただろう?
お願いだから、早く起きとくれよ。
うーん……わかったよ。
行けばいいんだろ?行けば。
そう言って、しぶしぶ芝浜にある魚河岸へと出かけた魚勝。

しかし、市場に着いても、店は一軒も開いていません。
そこへ、時を告げる鐘の音が響きます。
どおりで、あたりが暗いと思ったよ。
おっかぁ、起こす時間を間違えたんだ。
……仕方ねえ。タバコでもふかして、時間を潰すか。
こうして、ぶらぶらと海辺にやってきた魚勝。
海を眺めながら、タバコを吸っているうちに、だんだん夜が明けてきます。

そこで魚勝は、波の間で、長い紐が揺れているのに気付きました。
なんだ、あれは?
近づいて、その紐を引っ張ってみると、出てきたのは革の財布。

やけに重たいな……。
そう呟いて、財布の中を覗いた途端、魚勝は急いで家に引き返しました。

おい、おっかぁ!
開けてくれ、開けてくれ!
あ、お前さん。ごめんよ。
起こす時間を間違えてたみたい。
そんなことは、どうでもいいんだ!
この財布の中を見てくれ!
え?なに?
はやく!
……なんだい、これは!?
ものすごい大金じゃないか!
いくらある?
え、えっと……。
手が震えてるじゃねえか!
貸してみろ!
魚勝がお金を数えてみると、なんと総額42両。
これだけあったら、もう仕事をしなくても済むぞ!
よーし、祝い酒だ!

そう言って、魚勝は家に残っていた酒を飲み始めます。
しかし、今朝は早起きしたからか、すぐに酔いが回って、寝入ってしまいました。

お前さん、起きとくれよ。
うーん……。
そろそろ、家を出る時間だよ。
……家を出る?
うん。今日こそ、仕事に行ってきてくれよ。
……なに言ってるんだよ。
昨日の42両があるんだから、仕事なんて……。
42両? なんの話?
昨日の朝、俺が芝浜で拾ってきた42両だよ。
なにを夢みたいなこと言ってるんだよ。
昨日は、私が声をかけても、お前さんは起きやしなかったじゃないか。
へ?
……わかった!
そんな夢を見たから、あんなに騒いでたんだね?
奥さんの話によれば、昨日の魚勝は、昼過ぎにやっと起床。
そのまま銭湯に行ったと思ったら、友達を連れて帰ってきました。

それから、「めでたい、めでたい」と叫びながら、酒に鰻に天ぷらに、飲んで食べてのどんちゃん騒ぎ。
奥さんは、何がめでたいのか知らないが、主人に恥をかかせないために、借金までして、宴会の用意をしたのでした。
じゃあ、金を拾ったのは夢だったのか……。
そうだよ。しっかりしとくれよ。
情けないやつだ、俺は……。
金が欲しい、金が欲しいとばかり思ってるから、そんな馬鹿な夢を見るんだ……。
……こんな俺に生きる価値なんかないや。
そんなことないよ!
お前さん、働こう?
一生懸命に働けば、どうにかなるよ。
……本当か?
うん、きっと。
よし、わかった。
俺、これからは必死に働くよ。
酒も今日から、すっぱりやめてやる。
こうして、心を入れ替えて、仕事に精を出し始めた魚勝。
もともと魚屋としての腕はピカイチでしたから、きちんと働いていれば結果も出ます。
3年も経った頃には、いっぱしの店を構える、立派な魚屋の主人となりました。

そうして迎えた、大晦日の夜。
今、帰ったよ。
お帰りなさい。
外は寒かったでしょう?
ああ。今夜は冷えるね。
そんなことより、畳が新しくなってるじゃないか。
うん。畳屋さんに勧められて、思い切って替えてみたの。
ダメだった?
いいに決まってるよ。
新しい畳で新年を迎えられるなんて、気持ちがいいや。
そうだねぇ。
あ、火鉢の火を強くしておいてくれ。
これからツケ払いの取り立てに来る方が、温まれるようにしてやろう。
いや、もう取り立ては来ないよ。
全部、すっきり払ってしまったからね。
そうかそうか。
こっちから取り立てるところは、あるんだけど……。
向こうさんにも、ご事情があるだろうからね。
もう少し待ってあげても、構わないだろ?
ああ、いいさ。
俺たちだって、待ってもらったことがあるからね。
……それにしても、ありがてぇなぁ。
ん?どうしたの?
こんな穏やかな大晦日を迎えられるなんて、少し前は考えられなかった。
それもこれも、お前が家のやりくりをしてくれたおかげだよ。
なに言ってんだい。
お前さんが努力したからじゃないか。
こうして夫婦が話す家の外では、門松の葉が触れ合って、サラサラと雪が降るような音がしています。

あのね……お前さんに見てほしいものがあるんだけど……。
急にあらたまって、どうした?
……このお財布に、見覚えはない?

これは……俺が夢で見た財布……?
どうして、ここに……?
あれは、夢じゃなかったんだよ。
え?
あの日、お前さんは、ちゃんと朝に起きて、魚河岸へ行ったんだ。
それで、この財布を拾って帰ってきたんだよ。
42両あるってわかったとき、私はとっても嬉しかった。
「これで、やっと普通の生活ができる!」って……。
でも、あとになって、恐ろしくなってきちゃったんだよ。
だって、こんな大金を盗ったとなったら、お前さんの首が飛んでしまうから……。
だからね、お前さんが酔って寝ている間に、大家さんのところに相談に行ったの。
そしたら大家さんは、「財布はきちんと無くし物として届け出て、主人には夢だったことにしてしまえ」って、言うんだよ……。
私、すごく心苦しかったんだけど、お前さんが捕まるのはもっと嫌だったから……。
「夢だった」って、嘘をつくことにしたんだ。
ごめんね……。
本当にごめんね……。
……。
この財布はね、ずいぶん前に「落とし主不明」ってことで、私のところに返ってきてたの。
でも私、お前さんが一生懸命に働いてくれてるのが、嬉しくて……。
もし、夢じゃなかったとわかったら、また前の酒飲みに戻ってしまいそうで……。
それが怖くて、財布のことを言い出せなかったんだ……。
お前さん、私のことを許せないよね?
堪忍しておくれよ……。
妻の涙ながらの告白を、黙って聞いていた魚勝は、ここでゆっくりと口を開きます。
……お前は、いつでも俺のことを思ってくれてたんだな。
そんなお前を、怒れるわけないじゃないか。
3年間、嘘を守り続けるのも、辛かっただろう?
……ねえ、お前さん。
お酒、飲まない?
え?
お酒、飲もうよ。
でも……いいのか?
いいよ。
今日は、たくさん飲んじゃいなよ。
そ、そうか?
お前がそこまで言うなら……飲もう……かな?
うんうん。
実はね、財布のことを話して、お前さんが怒ったときのために、なだめる用の良いお酒を買っておいたんだよ。
まったく、お前は……抜け目がねぇなぁ。
お燗をつける?
いや、冷酒のままでいい。
……おっとっと。このくらいでいいよ。

おう、ずいぶん久しぶりだな。
元気にしてたかよ?
酒を見つめて、そう語りかけた魚勝。
しかし、一向に飲もうとはしません。
……。
あれ、置いちゃうの?
ぐいっと飲んじゃいなよ。
いや、よそう。
「また、夢になるといけねえ」
ー完ー
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