「おう、ずいぶん久しぶりだな。元気にしてたかよ?」

「芝浜」のあらすじ

この話の主人公は、魚屋の魚勝。

仕事の腕は良いのですが、ここのところは酒を飲んでばかりで、あまり仕事をしていません。

物語は、そんな彼が、奥さんに起こされるところから始まります。

魚勝の妻

お前さん、起きとくれよ。

魚勝

うーん……。

魚勝の妻

そろそろ、家を出る時間だよ。

魚勝

……仕事道具は?

魚勝の妻

全部揃えて、出してあります。

魚勝

そうか……。

魚勝の妻

ねぇ。今日から、ちゃんと仕事をするって、約束してただろう?

魚勝の妻

お願いだから、早く起きとくれよ。

魚勝

うーん……わかったよ。

魚勝

行けばいいんだろ?行けば。

そう言って、しぶしぶ芝浜にある魚河岸へと出かけた魚勝。

しかし、市場に着いても、店は一軒も開いていません。

そこへ、時を告げる鐘の音が響きます。

魚勝

どおりで、あたりが暗いと思ったよ。

魚勝

おっかぁ、起こす時間を間違えたんだ。

魚勝

……仕方ねえ。タバコでもふかして、時間を潰すか。

こうして、ぶらぶらと海辺にやってきた魚勝。

海を眺めながら、タバコを吸っているうちに、だんだん夜が明けてきます。

そこで魚勝は、波の間で、長い紐が揺れているのに気付きました。

魚勝

なんだ、あれは?

近づいて、その紐を引っ張ってみると、出てきたのは革の財布。

魚勝

やけに重たいな……。

そう呟いて、財布の中を覗いた途端、魚勝は急いで家に引き返しました。

魚勝

おい、おっかぁ!

魚勝

開けてくれ、開けてくれ!

魚勝の妻

あ、お前さん。ごめんよ。

魚勝の妻

起こす時間を間違えてたみたい。

魚勝

そんなことは、どうでもいいんだ!

魚勝

この財布の中を見てくれ!

魚勝の妻

え?なに?

魚勝

はやく!

魚勝の妻

……なんだい、これは!?

魚勝の妻

ものすごい大金じゃないか!

魚勝

いくらある?

魚勝の妻

え、えっと……。

魚勝

手が震えてるじゃねえか!

魚勝

貸してみろ!

魚勝がお金を数えてみると、なんと総額42両。

魚勝

これだけあったら、もう仕事をしなくても済むぞ!

魚勝

よーし、祝い酒だ!

そう言って、魚勝は家に残っていた酒を飲み始めます。

しかし、今朝は早起きしたからか、すぐに酔いが回って、寝入ってしまいました。

魚勝の妻

お前さん、起きとくれよ。

魚勝

うーん……。

魚勝の妻

そろそろ、家を出る時間だよ。

魚勝

……家を出る?

魚勝の妻

うん。今日こそ、仕事に行ってきてくれよ。

魚勝

……なに言ってるんだよ。

魚勝

昨日の42両があるんだから、仕事なんて……。

魚勝の妻

42両? なんの話?

魚勝

昨日の朝、俺が芝浜で拾ってきた42両だよ。

魚勝の妻

なにを夢みたいなこと言ってるんだよ。

魚勝の妻

昨日は、私が声をかけても、お前さんは起きやしなかったじゃないか。

魚勝

へ?

魚勝の妻

……わかった!

魚勝の妻

そんな夢を見たから、あんなに騒いでたんだね?

奥さんの話によれば、昨日の魚勝は、昼過ぎにやっと起床。

そのまま銭湯に行ったと思ったら、友達を連れて帰ってきました。

それから、「めでたい、めでたい」と叫びながら、酒に鰻に天ぷらに、飲んで食べてのどんちゃん騒ぎ。

奥さんは、何がめでたいのか知らないが、主人に恥をかかせないために、借金までして、宴会の用意をしたのでした。

魚勝

じゃあ、金を拾ったのは夢だったのか……。

魚勝の妻

そうだよ。しっかりしとくれよ。

魚勝

情けないやつだ、俺は……。

魚勝

金が欲しい、金が欲しいとばかり思ってるから、そんな馬鹿な夢を見るんだ……。

魚勝

……こんな俺に生きる価値なんかないや。

魚勝の妻

そんなことないよ!

魚勝の妻

お前さん、働こう?

魚勝の妻

一生懸命に働けば、どうにかなるよ。

魚勝

……本当か?

魚勝の妻

うん、きっと。

魚勝

よし、わかった。

魚勝

俺、これからは必死に働くよ。

魚勝

酒も今日から、すっぱりやめてやる。

こうして、心を入れ替えて、仕事に精を出し始めた魚勝。

もともと魚屋としての腕はピカイチでしたから、きちんと働いていれば結果も出ます。

3年も経った頃には、いっぱしの店を構える、立派な魚屋の主人となりました。

そうして迎えた、大晦日の夜。

魚勝

今、帰ったよ。

魚勝の妻

お帰りなさい。

魚勝の妻

外は寒かったでしょう?

魚勝

ああ。今夜は冷えるね。

魚勝

そんなことより、畳が新しくなってるじゃないか。

魚勝の妻

うん。畳屋さんに勧められて、思い切って替えてみたの。

魚勝の妻

ダメだった?

魚勝

いいに決まってるよ。

魚勝

新しい畳で新年を迎えられるなんて、気持ちがいいや。

魚勝の妻

そうだねぇ。

魚勝

あ、火鉢の火を強くしておいてくれ。

魚勝

これからツケ払いの取り立てに来る方が、温まれるようにしてやろう。

魚勝の妻

いや、もう取り立ては来ないよ。

魚勝の妻

全部、すっきり払ってしまったからね。

魚勝

そうかそうか。

魚勝の妻

こっちから取り立てるところは、あるんだけど……。

魚勝の妻

向こうさんにも、ご事情があるだろうからね。

魚勝の妻

もう少し待ってあげても、構わないだろ?

魚勝

ああ、いいさ。

魚勝

俺たちだって、待ってもらったことがあるからね。

魚勝

……それにしても、ありがてぇなぁ。

魚勝の妻

ん?どうしたの?

魚勝

こんな穏やかな大晦日を迎えられるなんて、少し前は考えられなかった。

魚勝

それもこれも、お前が家のやりくりをしてくれたおかげだよ。

魚勝の妻

なに言ってんだい。

魚勝の妻

お前さんが努力したからじゃないか。

こうして夫婦が話す家の外では、門松の葉が触れ合って、サラサラと雪が降るような音がしています。

魚勝の妻

あのね……お前さんに見てほしいものがあるんだけど……。

魚勝

急にあらたまって、どうした?

魚勝の妻

……このお財布に、見覚えはない?

魚勝

これは……俺が夢で見た財布……?

魚勝

どうして、ここに……?

魚勝の妻

あれは、夢じゃなかったんだよ。

魚勝

え?

魚勝の妻

あの日、お前さんは、ちゃんと朝に起きて、魚河岸へ行ったんだ。

魚勝の妻

それで、この財布を拾って帰ってきたんだよ。

魚勝の妻

42両あるってわかったとき、私はとっても嬉しかった。

魚勝の妻

「これで、やっと普通の生活ができる!」って……。

魚勝の妻

でも、あとになって、恐ろしくなってきちゃったんだよ。

魚勝の妻

だって、こんな大金を盗ったとなったら、お前さんの首が飛んでしまうから……。

魚勝の妻

だからね、お前さんが酔って寝ている間に、大家さんのところに相談に行ったの。

魚勝の妻

そしたら大家さんは、「財布はきちんと無くし物として届け出て、主人には夢だったことにしてしまえ」って、言うんだよ……。

魚勝の妻

私、すごく心苦しかったんだけど、お前さんが捕まるのはもっと嫌だったから……。

魚勝の妻

「夢だった」って、嘘をつくことにしたんだ。

魚勝の妻

ごめんね……。

魚勝の妻

本当にごめんね……。

魚勝

……。

魚勝の妻

この財布はね、ずいぶん前に「落とし主不明」ってことで、私のところに返ってきてたの。

魚勝の妻

でも私、お前さんが一生懸命に働いてくれてるのが、嬉しくて……。

魚勝の妻

もし、夢じゃなかったとわかったら、また前の酒飲みに戻ってしまいそうで……。

魚勝の妻

それが怖くて、財布のことを言い出せなかったんだ……。

魚勝の妻

お前さん、私のことを許せないよね?

魚勝の妻

堪忍しておくれよ……。

妻の涙ながらの告白を、黙って聞いていた魚勝は、ここでゆっくりと口を開きます。

魚勝

……お前は、いつでも俺のことを思ってくれてたんだな。

魚勝

そんなお前を、怒れるわけないじゃないか。

魚勝

3年間、嘘を守り続けるのも、辛かっただろう?

魚勝の妻

……ねえ、お前さん。

魚勝の妻

お酒、飲まない?

魚勝

え?

魚勝の妻

お酒、飲もうよ。

魚勝

でも……いいのか?

魚勝の妻

いいよ。

魚勝の妻

今日は、たくさん飲んじゃいなよ。

魚勝

そ、そうか?

魚勝

お前がそこまで言うなら……飲もう……かな?

魚勝の妻

うんうん。

魚勝の妻

実はね、財布のことを話して、お前さんが怒ったときのために、なだめる用の良いお酒を買っておいたんだよ。

魚勝

まったく、お前は……抜け目がねぇなぁ。

魚勝の妻

お燗をつける?

魚勝

いや、冷酒のままでいい。

魚勝

……おっとっと。このくらいでいいよ。

魚勝

おう、ずいぶん久しぶりだな。

魚勝

元気にしてたかよ?

酒を見つめて、そう語りかけた魚勝。

しかし、一向に飲もうとはしません。

魚勝

……。

魚勝の妻

あれ、置いちゃうの?

魚勝の妻

ぐいっと飲んじゃいなよ。

魚勝

いや、よそう。

「また、夢になるといけねえ」

ー完ー

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「芝浜」の豆知識

  • 三遊亭圓朝の三題噺が原作といわれる。そのときの三題は、「酔漢・財布・芝浜」。
  • このネタは、3代目 桂三木助の十八番だった。
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