『怪談』は、太宰治が中学生のときに、自身が中心になって立ち上げた「蜃気楼」という同人雑誌で発表した作品です。
本記事では、この作品のあらすじや注目ポイントをお伝えします。
なお、『怪談』は新潮文庫の『地図―初期作品集―』に収録されています。
気になる方は、ぜひ下記から購入して、読んでみてください。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
『怪談』のあらすじ
私は小さい頃から、怪談が好きだった。
人から聞いたり、本で読んだりして、1000もの怪談を覚えていると言っても過言ではない。
今では、自分の身に起こった不思議なことを題材にして、怪談を自作することも好きだ。
ここではまず、最近、私の身に起こった「マントが化けた話」をしたいと思う。
一夜のうちに老いぼれてしまったマントの話
それは、ひどく寒かった日のこと。
学校の授業が終わり、家に帰ろうとしたところで、私は自分のマントがないことに気付きました。
それを友達に言うと、彼は「俺が質屋に預けてきたんだ」なんて冗談を言ってきます。
マントがないと帰るときに寒くて敵わないので、私は教室の中を探すことに。
しかし、いくら探しても見つかりません。
「クラスのそそっかしいアイツが、間違えて私のマントを着て帰ってしまったのだろう」
そう考えた私は、諦めてマントなしで帰ろうとしました。
そこへちょうど、“アイツ”の姿を見かけます。
私はアイツに駆け寄ると、すぐに問い詰めましたが、彼が持っていたマントは、私のものではありませんでした。
私が謝ると、彼は心配をしてくれて、「先生に言ってみたら?」とアドバイスをくれました。
そこで、翌日に先生のところへ行ってみると、先生も一緒にマントを探してくれることに。
「君はいつマントをなくしたのかね?」
「えーと、昨日です」
「君は名前を何というんだい?」
「津島……」
「ああ、津島……修治か。そうだね」
なんてことを話しながら、一緒に学校中を探していると、なんと私のマント掛けに、マントが掛かっているのを発見。
私は駆け寄ってマントを手に取りました。
しかし、そのマントは、なんだか異様に古くて、ボロボロになっていたのです。
私は、マントが一夜のうちに老いぼれてしまったように感じ、ゾッとしたのでした。
魔の池
これはまた別のお話。
秋のカラリと晴れた日、私は散歩しながら学校へ向かっていました。
そこで私は、持っていた弁当箱を水溜りに落としてしまいます。
私は、本当に悲観してしまいました。
そして同時に、こんなことを考えました。
「どうして私の弁当箱が落ちたのだろう。ほかの人のだって、一向に差し支えないじゃないか」
「なぜ、私の進路に水溜りがあったのだろう。こんなに広い道なんだから、いちいち私の歩くところに水溜りがある必要はないじゃないか」
「なぜ、水溜りに弁当が落ちたのだろう。弁当も水溜りも小さいものなのに、よくその2つが合致したものだ。弁当が落ちる場所は、ほかにもたくさんあったじゃないか」
私はこういうことを考えて、ゾッとしました。
さて、学校が終わって、また散歩しながらブラブラ帰っていたときのこと。
今度は、私自身が水溜りに落っこちてしまいました。
「恐ろしいことだ。これは、魔の池だ」
私は真っ青になって、恐る恐る水溜りを覗き込みました。
その水溜りは、秋の青い空が映って、際限なく深い青色をしていました。
「ヌシが住んでいるかもしれない」
私はそう思いました。
『怪談』が執筆された背景
『怪談』は、太宰治が中学4年生(数え年で18歳)のときに、「蜃気楼」という同人雑誌の11月12月合併号で発表した作品です。
▼「蜃気楼」11月12月合併号
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.51
掲載されたときの署名は、本名の「津島修治」でした。
『怪談』における注目ポイント
「一夜のうちに老いぼれてしまったマントの話」では、マントをなくした主人公が友達に「俺が質屋に預けてきたんだ」と冗談を言われるシーンがあります。
これは、菊池寛が一高を退学する原因となった「マント事件」が背景になっていると思われます。
当時、一高の3年生だった菊池寛には、佐野という友人がいました。
佐野は女の子とデートをするために、一高のシンボルであるマントを着ていこうと思ったのですが、自分のマントは質屋に入れてしまっていたので、寮の中から誰かのマントを黙って拝借して着ていくことに。
無事にデートは終わりましたが、佐野はそのマントを、元の場所に返さずに放置していました。
それから数日後、金に困った菊池と佐野は、そのマントを質に入れることにします。
このとき佐野は、「これは同郷の先輩から借りてきたもの」と、菊池に嘘の説明をしていました。
菊池はなんの疑いもなく、そのマントを質屋へ持っていきます。
しかしその後、マントは1年生のものであり、盗難届が出されていることが判明。
菊池はマントを着て質屋にいくところを目撃されており、佐野が不在のなか、一人で教師たちから問い詰められました。
すべてを悟った菊池は、佐野の罪を被って、一高を退学することになったのでした。
まとめ
本記事では、『怪談』のあらすじや注目ポイントをお伝えしました。
『怪談』は、『地図―初期作品集―』という文庫本に収録されてますので、気になる方は下記から購入して、読んでみてください。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
目次:
最後の太閤
戯曲 虚勢
角力
犠牲
地図
負けぎらいト敗北ト
私のシゴト
針医の圭樹
瘤
将軍
哄笑に至る
口紅
モナコ小景
怪談
掌劇 名君
股をくぐる
彼等と其のいとしき母
此の夫婦
鈴打
哀蚊
花火
虎徹宵話
*
断崖の錯覚
あさましきもの
律子と貞子
赤心
貨幣
*
洋之助の気焔
なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしました。
- 『評伝 太宰治〈上・下〉』相馬正一.津軽書房,1995
- 『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治.新潮社,1983
- 『太宰治の年譜』山内祥史.大修館書店,2012
- 『太宰治大事典』志村有弘・渡部芳紀.勉誠出版,2005
それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。
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