『モナコ小景』は、太宰治が中学生のときに、自身が中心になって立ち上げた「蜃気楼」という同人雑誌で発表した作品です。
本記事では、『モナコ小景』のあらすじや注目ポイントをお伝えします。
なお、『モナコ小景』は新潮文庫の『地図―初期作品集―』に収録されています。
読んでみたい方は、ぜひ下記からお買い求めください。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
『モナコ小景』のあらすじ
モナコには、世界的な賭博場がある。
「今日は、むやみに暑いじゃねえか。窓を開けろよ」
私が賭博場に入ってしばらくすると、フリッツが怒鳴るように話しかけてきた。
しかし、私は何も答えない。
この私の態度を見て、フリッツは猛然と立ち上がったが、こちらに近づいて来ることはなかった。
結局、フリッツは自分で窓を開けた。
私は、フリッツが馬鹿で恥ずかしいことをしているのに気が付いている。
フリッツのほうも、私が気付いていることをわかっているようだ。
このフリッツという男は、初期の肺結核を患っており、顔色が悪い。
かくいう私も、栄養不足のために、彼と同様に顔色が悪い。
だから私たち2人は、「モナコの青んぼ」といえば、誰にでも伝わった。
私は自分の顔色を良くしたいと思い、海水浴を始めたり、顔のマッサージをしたりしたが、一向に効果は現れない。
今日、私がフリッツと会ったのは、およそ1年ぶりのことだったが、彼の顔を見てすぐにわかった。
彼は血色を良く見せるために、化粧をしている。
「おおい、みんな見ろ。フリッツの汗は赤いぜ」
私が汗で頬紅が溶けてしまったフリッツの顔を指摘すると、賭博場にいた男たちは一斉に沸き立った。
すると突然、フリッツは立ち上がって私の頬を殴ると、こう叫んだ。
「皆さん、こいつの顔色は私に劣らぬ血色だ。どんなに打たれても紫色にならない」
周りで見ていた男たちは、また盛り上がっている。
そこへ、ニイという娘が入ってきた。
彼女も、フリッツと私と同じくらい顔色の悪い娘だった。
しかし、今日会ったニイは、本物の良い血色で、ニコニコ笑っている。
彼女の眩しい笑顔を見ているうち、私はとうとうメソメソ泣いてしまった。
『モナコ小景』が執筆された背景
『モナコ小景』は、太宰治が中学4年生(数え年で18歳)のときに、同人雑誌の「蜃気楼」10月号で発表した作品です。
掲載されたときの筆名は、本名の「津島修治」でした。
▼「蜃気楼」10月号
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.51
ちなみに、この号は創刊1周年記念号でもあり、刊行した際に同人のメンバーで写真を撮っています。
▼後列の右から2番目が太宰
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.17
『モナコ小景』における注目ポイント
『モナコ小景』の主人公の「私」と同じように、当時の太宰は自分の顔色の悪さを気にしていました。
事実、太宰が自身の幼少期を振り返って書いた『思い出』という作品にも、下記のような記述が出てきます。
私の顏が蒼黒くて、私はそれを例のあんまの故であると信じていたので、人から私の顏色を言われると、私のその秘密を指摘されたようにどぎまぎした。私は、どんなにかして血色をよくしたく思い、スポオツをはじめたのである。(中略)
中学校にはいるようになってから、私はスポオツに依っていい顏色を得ようと思いたって、暑いじぶんには、学校の帰りしなに必ず海へはいって泳いだ。
また、「化粧をして、自分の容姿を取り繕う」という描写は、この2ヵ月ほど前に書いている『口紅』という作品とも共通しています。
モナコってどこにあるの?
モナコは、フランスとイタリアの間に位置しており、国土の大きさはバチカン市国に次いで、世界で2番目の小ささです。
カジノが有名で、モナコ初のカジノであるモンテカルロ・カジノは、1865年に開業しました。
現在では、F1のレース「モナコグランプリ」の開催地としても知られています。
まとめ
本記事では、『モナコ小景』のあらすじや注目ポイントを紹介しました。
『モナコ小景』という作品に興味が出てきた方は、『地図―初期作品集―』という文庫本で読めますので、ぜひ下記からご購入ください。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
目次:
最後の太閤
戯曲 虚勢
角力
犠牲
地図
負けぎらいト敗北ト
私のシゴト
針医の圭樹
瘤
将軍
哄笑に至る
口紅
モナコ小景
怪談
掌劇 名君
股をくぐる
彼等と其のいとしき母
此の夫婦
鈴打
哀蚊
花火
虎徹宵話
*
断崖の錯覚
あさましきもの
律子と貞子
赤心
貨幣
*
洋之助の気焔
なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしました。
- 『評伝 太宰治〈上・下〉』相馬正一.津軽書房,1995
- 『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治.新潮社,1983
- 『太宰治の年譜』山内祥史.大修館書店,2012
- 『太宰治大事典』志村有弘・渡部芳紀.勉誠出版,2005
それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。
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