太宰治

僕の幼時|太宰治が小学生の頃に書いた作文

僕の幼時』は、太宰治が小学生の頃に書いた作文で、太宰の幼少期を知るための重要な資料となっています。

本記事では、この『僕の幼時』について、詳しく見ていきます。

『僕の幼時』の全文

僕の幼時
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.14

まずは、『僕の幼時』の本文を読んでみよう。

 僕は母から生れ落ちると直ぐ乳母につけられたのだそうだ。けれども僕はをしいかな其の乳母を物心地がついてからは一度も見た時もないし便りもない。物心地がついてからといふものは叔母にかゝつたものだ。叔母はよく夏の夜など蚊帳の中で添へ寝しながら昔話を知らせたものだ。僕はおとなしく叔母の出ない乳首をくはいながら聞いて居た。其の頃一番僕の面白かつたお話は舌切雀と金太郎であつた。こう言ふと僕はなんだかおとなしい子の様だが、実は手もあてられない程のワンパク者であつたのだ。一番僕にいづめられたのは末の姉様で、或時は折れたものほし竿で姉を追つて歩いたり、きたないわらじで姉のほゝをぶつたり、頭髪をはさみでちよきんと一つかみ位切つて見たりした。

 其の度毎に姉は母様に訴ふるけれども母はなんともいはぬ。若しこのことが少しでも叔母の知る所となれば叔母はだまつては居ない。きびしくしかつて其の上土蔵に入れられたことも往々ある。そんな時には必ず小間使のたけが僕のかはりにあやまつて呉れる。たけは家の小間使でもあり、僕の家庭教師でもあるし、僕の家来でもあるのだ。五六歳の時から僕は毎晩/\たけの所に行つて本を教はつたものだ。始めはハタタコと一字々々に覚えて行くのは僕にとつてはたまらなく面白かつたのである。そして一、二ケ月の間にどうやら巻一は読める様になつた。学校に入いるによくなつた頃にはもう巻三にも手をのばし様になつた。うれしくてたまらないから叔母様に読んで見せると必ず昔話一つ知らせて呉れるし、おばあ様に読んで知らせればお菓子を呉れる。母様の前で読んでも何も呉れない。たゞ僕の頭をなでゝ一番とれよと云つて呉れる。姉様兄様に読んで見せてもたゞほめるばかりであつた。僕は昔話は大そう好きであつた。どんなに泣いて居る時でもどんなにおこつて居た時でも、昔話を知らせて呉れゝばすぐににこ/\するのであつた。だから僕は叔母に一番多く読んで見せたものだ。

 僕の一番家でこはいものは父様であつた。故に父様の前では常に行儀よくして居た。それ程こはい父様でもたまには又大そう好きになることもある。それはよくぴか/\光つたおあしや、きれいな御本を呉れるからである。こうゆう風にして僕はずん/\成長して来たのだ。今でも叔母様やたけの事を思ふと恋ひしくてならない。

『僕の幼時』を書いたときの太宰治

▼左から2番目で笑っているのが、小学生の頃の太宰

小学生の頃の太宰
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.13

『僕の幼時』は1923年(大正12年)に、15歳の太宰が書いた作品です。

当時の太宰は尋常小学校を卒業した後、「学力補充」のため、高等小学校へ通っていました

太宰の学校での成績は大変優秀で、先生たちからは「神童」扱いされていたといいます。

特に、国語と作文では、並外れた才能を発揮していたようです。

太宰の幼少期については、下記の記事で詳しくお伝えしていますので、ご興味のある方は併せてご覧ください。

『僕の幼時』を読んでわかること

『僕の幼時』を読んでわかるのは、以下の4つのことです。

  • 乳母との関係
  • 叔母のきゑとの関係
  • 小間使のタケとの関係
  • 実の家族との関係

以下では、それぞれの項目について、箇条書きでまとめます。

ポイント1. 乳母との関係

  • 太宰には生まれてすぐに、乳母が付けられた
  • 太宰は物心がついてから乳母に会ったことがなく、手紙が届いたこともない

ポイント2. 叔母のきゑとの関係

本作に登場する「叔母」は、「津島きゑ」のことを指しています。

  • きゑは、よく添い寝をしながら、太宰に昔話をしてくれた
  • 太宰は乳が出ない、きゑの乳首をくわえながら昔話を聞いていた
  • 太宰がすぐ上の姉をいじめていると、きゑに厳しく叱られた
  • 太宰がきゑに本を音読すると、きゑは昔話を教えてくれた
  • 昔話をしてくれるのが嬉しくて、太宰はよくきゑの前で音読をした

ポイント3. 小間使のタケとの関係

  • タケは太宰の小間使であり、家庭教師であり、家来であった
  • 太宰はタケに本の読み方を教わったことで、一人で読書できるようになった

叔母のきゑとタケについては、下記の記事でも詳しく紹介しています。

ポイント4. 実の家族との関係

  • 太宰がワンパクをしても、は何も言わない
  • 太宰が祖母に本を音読すると、祖母はお菓子をくれた
  • 太宰がに本を音読すると、母は頭を撫でて「一番を取れよ」と言ってくれた
  • 太宰はに本を音読することもあった
  • 太宰が家のなかで一番恐れていたのは、父親
  • は時折、太宰にピカピカ光るお金や、きれいな本をくれた

まとめ

本記事では、太宰が小学生の頃に書いた『僕の幼時』という作文について、詳しく見てきました。

なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしています。

それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。

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