『負けぎらいト敗北ト』は、太宰治が中学3年生のときに書いた作品です。
本記事では、この作品のあらすじ・執筆背景・名言を紹介します。
なお、『負けぎらいト敗北ト』は、新潮文庫の『地図―初期作品集―』に収録されています。読んでみたい方は、ぜひ下記からお買い求めください。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
『負けぎらいト敗北ト』のあらすじ
この作品はタイトルのとおり、「負け(ず)ぎらい」と「敗北」をテーマにした4つの短編で成り立っています。
(一)子守唄
彼がこの家に来てからというもの、毎日、娘の歌う子守唄が聞こえてくる。
いつでも同じ歌を歌っているので、もはや彼はこの子守唄に嫌気が差していて、うるさくって勉強も手につかない。
この日も、例の子守唄が聞こえてきたので、うんざりした彼は友達の家へ行くことにした。
外に出ると、もう夕暮れ時で、道は雪のためにぼんやりと明るい。
その静かな田んぼ道を、彼は独り口笛を吹きながら歩いた。
そこで彼は、ハッと気付く。
例の子守唄を口笛で吹いていたのだ。
彼は敗北の苦笑を漏らしながらも、その口笛を吹き続けていた。
(二)入選
私は雑誌を見て「クソッ」と叫んでしまいました。
私がこの雑誌に投稿した創作が、また落選していたのです。
「彼の作品はどうかしら」と思って目次を見ると、彼のほうは入選しています。
さっそく彼の作品を読んでみたところ、悔しいけれど、感心せざるを得ない出来でした。
そのとき、彼が私の部屋にニコニコしながら入ってきました。
「僕はまた入選していたよ」
彼は勝ち誇った顔で、そう言いました。
ここで、私の負けず嫌いな悪魔的な心がムクムクと起きてしまいます。
「あんな人気のない雑誌に載ったことが、そんなに嬉しいかい」
自分ながら落ち着いた口調で、そう言い放った私は、唇をブルブル震わせている彼の顔を長い間見上げていました。
(三)ワルソーの市長
ワルソーとは、ポーランドの首都「ワルシャワ」のことです。
フリドリックは、ワルソーの市長選で、何回ジョーンジと戦ったのかわからない。
そして、そのたびにフリドリックはジョーンジに敗れ、落選を繰り返してきたのだった。
しかし、とうとうフリドリックにチャンスが巡ってきた。
現職市長のジョーンジが、病気と偽って辞表を出したのだ。
ジョーンジは、自身の家運が傾いていることを自覚し、もはや選挙ではフリドリックに勝てないから、負ける前に自分から辞表を提出したに違いなかった。
そうして迎えた、市長選の日の朝。
朝刊に目を通していたフリドリックは、「アッ」と低く叫ぶ。
記事には、こう書かれていた。
「ジョーンジ氏は、病気にも関わらず市長選に出馬す。ジョーンジ氏の元気、愛すべし」
フリドリックは、もうすっかり悲観してしまった。
ジョーンジの徹底的な負けず嫌いには敵わない。
そうしてフリドリックは、市長になることを諦めたのだった。
(四)日記帳
彼はムカムカ腹が立ってきた。
「おい君!! 明日の数学の授業は、どこからだっけ?」
彼が同じ部屋の利造に尋ねても、利造は返事をせずに黙っている。
彼は利造がなぜ怒っているのか、はっきりとはわからなかった。
おそらくは、先ほどからかったのが気に食わないのだろう。
「おい君!! なぜ返事をしないんだ!!」
そう叫んで肩を揺さぶっても、利造はやっぱり黙ったままで、何事もなかったかのように雑誌を読んでいる。
彼はついに堪えられなくなり、拳を固く握った。
しかし、利造が柔道の選手だったことを思い出し、殴るのは思いとどまる。
そこで彼は、得意の口先で言い負かすことにした。
ただ、いくら捲し立てても、やはり利造は無反応。
利造からまったく相手にされない彼は、だんだんと不安になってきた。
そのとき、ふと利造の顔を覗くと、なんと目には涙が光っている。
それを見た彼が勝利の喜びを味わっていると、突然、利造が日記を書き始めた。
そして、書き終えた利造は、立ち上がって部屋から出て行ってしまう。
何を書いたのか気になった彼は、利造の日記帳を開いてみると、彼との喧嘩に関する記述は一切なく、「あくびを連発した」ということが書かれていた。
先ほどの利造の涙は、あくびによるものだったのだ。
さらに彼は、日記を書き終えた利造がすぐに部屋を出たのは、これを彼に読ませるためだったことを悟った。
『負けぎらいト敗北ト』が執筆された背景
『負けぎらいト敗北ト』は、太宰が中学3年生(数え年で18歳)のとき、自身が中心となって立ち上げた「蜃気楼」という同人雑誌の1月号で発表されました。
▼「蜃気楼」1月号
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.50
発表したときの署名は、本名の「津島修治」です。
『負けぎらいト敗北ト』の名言
「中学校時代なんかでは、人格も、学問も、皆腕力の為には一も二もなく屈服させられてしまう。マア結局は腕力のある奴は一番勢力があるわけサ」
これは「(四)日記帳」で、主人公の“彼”が利造に「なぜ返事をしないんだ!!」と詰め寄るも、利造が柔道の選手であることを思い出し、躊躇するシーンに登場するセリフです。
太宰本人も「学問よりも腕力」という考えに共感する部分があったようで、この作品を書いた中学生の頃は、体を鍛えていました。
実際に、太宰が自身の幼少期を振り返って書いた『思い出』という作品にも、下記のような記述があります。
中学校にはいるようになってから、私はスポオツに依っていい顏色を得ようと思いたって、暑いじぶんには、学校の帰りしなに必ず海へはいって泳いだ。(中略)また、私のいたうちの裏がひろい墓地だったので、私はそこへ百米(メートル)の直線コオスを作り、ひとりでまじめに走った。
『思い出』太宰治
まとめ
本記事では、『負けぎらいト敗北ト』のあらすじや執筆背景などをお伝えしました。
『負けぎらいト敗北ト』に興味がわいた方は、ぜひ実際に読んでみてください。下記の『地図―初期作品集―』という新潮文庫の短編集に収録されています。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
目次:
最後の太閤
戯曲 虚勢
角力
犠牲
地図
負けぎらいト敗北ト
私のシゴト
針医の圭樹
瘤
将軍
哄笑に至る
口紅
モナコ小景
怪談
掌劇 名君
股をくぐる
彼等と其のいとしき母
此の夫婦
鈴打
哀蚊
花火
虎徹宵話
*
断崖の錯覚
あさましきもの
律子と貞子
赤心
貨幣
*
洋之助の気焔
なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしました。
- 『評伝 太宰治〈上・下〉』相馬正一.津軽書房,1995
- 『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治.新潮社,1983
- 『太宰治の年譜』山内祥史.大修館書店,2012
- 『太宰治大事典』志村有弘・渡部芳紀.勉誠出版,2005
それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。
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