太宰治

温泉|中学生の太宰治が湯に浸かる様子を比喩やオノマトペを駆使して詩的に表現した作品

『温泉』は、太宰治が中学3年生のときに、「蜃気楼」という同人雑誌の創刊号で発表した作品です。

本記事では、『温泉』の全文を掲載したうえで、本作の注目ポイントをお伝えします。

『温泉』の全文

 綺麗なお湯だ、ソウダ、まるで水晶をとかした様に美しい、僕の身体を入れるのは何だかもったいない様な気がした。そっと湯壺に入る、湯があふれてチョロチョロ流れ出した、おしいことをしたとも思った、フタフタと小さい波が湯壺の中に起った。いい気持だ、日光はサッとスリガラス越しに湯の底までさしこんだ。湯は元のように静かになって僕の身体を包んでいる。ほんとうに明るい、雀が外でチチチとないた。ふと明り窓の方をながめやる、庭の木の葉の影が黒く墨絵のようにスリガラスに写って居た。サラサラサラと細かに動いて居る。一枚の木の葉がハラハラと落ちた……なんだか淋しくなった。妙にからだがダルくなった。湯から白い湯気がゆるやかに上る、思う存分手をのばして見るともなしに爪を見た、のびてるナアーはさまねばなるまいと考えた。ほんとうに静かだ、僕の身も魂も湯気と共に天上に浮きたつ様な気がした……静かに目をとじた……

『温泉』が執筆された背景

温泉』は、太宰が中学3年生(数え年で17歳)のときに、自分が中心となって創刊した「蜃気楼」という同人雑誌の創刊号で、『犠牲』という作品とともに発表されました。

▼「蜃気楼」創刊号

「蜃気楼」創刊号
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.50

発表されたときの署名は、本名の「津島修治」です。

なお、『犠牲』について詳しく知りたい方は、下記の記事をご参照ください。

『温泉』の注目ポイント

『温泉』は、比喩やオノマトペを駆使して、湯に浸かっている様子を詩的に表現した作品です。

冒頭の「綺麗なお湯だ、ソウダ、まるで水晶をとかした様に美しい」というフレーズは、夏目漱石の『坊っちゃん』に出てくる、下記の表現を彷彿とさせます。

おれは美人の形容などが出来る男でないから何にも云えないが全く美人に相違ない。何だか水晶の珠を香水で暖ためて、掌へ握ってみたような心持ちがした。

奇しくも、これは坊っちゃんが湯に向かっているときのシーンであり、「温泉」というモチーフが共通しています。

美文を書こうと意識した太宰は、漱石の文章を参考にしていたのかもしれません。

『温泉』を紙で読む方法

『温泉』はすでに著作権が切れた作品のため、本記事では全文を掲載しました。

もし紙で読みたい場合は、下記の「決定版 太宰治全集」の1巻(初期作品)で確認する必要があります。

ただし、この書籍は出版社では品切れ(絶版?)となっているうえ、古本でも高額です。

このため、「決定版 太宰治全集」が揃っている図書館で閲覧することをおすすめします。

図書館が定めるルール内であれば、コピーすることも可能です。

まとめ

本記事では、『温泉』の全文と注目ポイントをお伝えしました。

なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしています。

それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。

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