太宰治

針医の圭樹|太宰治が芥川龍之介の『奉教人の死』から影響を受けて書いた作品

『針医の圭樹』は、太宰治が中学4年生のときに、「蜃気楼」という同人雑誌で発表した作品です。

本記事では、『針医の圭樹』のあらすじをお伝えしたうえで、この作品が芥川龍之介の『奉教人の死』から受けている影響を見ていきます。

なお、『針医の圭樹』は新潮文庫の『地図―初期作品集―』に収録されています。読んでみたい方は、ぜひ下記からお買い求めください。

書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)

『針医の圭樹』のあらすじ

主人公の圭樹は、小さい頃から多右エ門の世話になり、今では一人前の針医(鍼灸師)になっている。

しかし、圭樹はその勝気な性格から、多右エ門以外の人からは嫌われており、彼の病院にはほとんど患者が来ない。

圭樹の商売は、多右エ門の援助だけで成り立っているようなものだった。

そんな圭樹は、勝気なだけではなく、極端な「利己主義」でもある。

彼は、この宇宙は自分のために存在するものと考えていた。

あるとき、多右エ門が病気になってしまったので、医者である圭樹が付きっきりで看病をすることに。

しかし、いくら圭樹が手当てをしても、多右エ門の体調は良くなるどころか、悪化する一方。

頼みの多右エ門からの信用が失われることを恐れ、圭樹は焦りに焦っていた。

そこで、圭樹が必死に看病をしたところ、多右エ門の体は少しずつ良くなっていき、ついに全快。

ただ、多右エ門は病気のために体が弱ってしまったので、圭樹は温泉地での療養を勧めた。

さっそく一緒に温泉宿へと向かう2人。

多右エ門ははじめのうちこそは、穏やかに過ごしていたものの、遠出をしたのが体にこたえたのか、数日後に発熱。

その日を境に、多右エ門の体調は日に日に悪くなっていった。

ある晩、圭樹が眠っていると、焦げ臭い匂いがして目を覚ます。

遠くのほうから「火事だ!」と叫んでいるのが聞こえると、圭樹は飛び起きた。

周りを見渡すと、すでに2人が寝ている部屋にまで火の手が迫ってきている。

圭樹は反射的に外へ逃げようとしたが、その瞬間、彼の頭にとある考えが突き刺さる。

「多右エ門を救わなければ。あの人がいなくなったら、俺一人助かっても、結局、野垂れ死ぬほかないじゃないか」

急いで圭樹が多右エ門に駆け寄った瞬間、炎が部屋のふすまを破って、あっという間に2人を包んでしまった。

さて、火事があった次の晩、温泉場では新聞売りの声が響いている。

「さあさあ、みなさまもお求めください。昨晩の火事で、自分の主人を救い出そうと命を投げ出した、立派な男の記事です」

『針医の圭樹』が執筆された背景

針医の圭樹』は、太宰治が中学4年生(数え年で18歳)のときに、「蜃気楼」という同人雑誌の4月号で発表された作品です。

▼「蜃気楼」4月号

「蜃気楼」4月号
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.50

この作品は、本名の津島修治をもじった「辻島衆二」というペンネームで掲載されました。

『針医の圭樹』の登場人物

  • 圭樹:針医(鍼灸師)。勝気な性格から、多右エ門以外の人からは嫌われている。
  • 多右エ門:圭樹が小さい頃から、彼の援助をしている。

芥川龍之介の『奉教人の死』からの影響

『針医の圭樹』には、芥川龍之介の『奉教人の死』からの影響が強く見られます。

『奉教人の死』のあらすじ

長崎のキリスト教の寺院に、「ろおれんぞ」という美少年がいた。

あるとき、町の娘が「ろおれんぞ」の子どもを身籠ったという噂が流れる。

その娘の父親が寺院へ直接訴えにきたこともあり、「ろおれんぞ」は破門に。

寺院を去った「ろおれんぞ」は、乞食に身を落とした。

それから一年余りの月日が経ったある晩に、長崎の町を大火が襲う。

「ろおれんぞ」の子どもを産んだ娘の家も、この火事に巻き込まれ、その子どもが一人で家の中に取り残されてしまった。

そこへ現れた「ろおれんぞ」は、燃えている家の中へ入っていくと、炎の中から幼い子どもを抱きかかえて、再び姿を見せた。

しかし、その瞬間に家が崩れたので、「ろおれんぞ」は子どもを外へ投げて渡すと、ひとり炎の中に消えてしまう。

子どもを受け取った娘は泣きながら、「この子は、ろおれんぞの子どもではない」と周りに打ち明けた。

それから「ろおれんぞ」は、すぐに焼けた家の中から助け出されたが、残念ながら亡くなってしまう。

その際、服が焦げて破れていたことから、「ろおれんぞ」は実は、女性であったことがわかったのだった。

▼この『奉教人の死』は、下記の文庫で読むことができます。

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『奉教人の死』と『針医の圭樹』は、「火事のなか、他人を救いにいく」というシーンが共通しています。

しかし、『奉教人の死』の主人公「ろおれんぞ」は、「他人」のために火に飛び込んだ一方、『針医の圭樹』の圭樹は、あくまでも「自分」のために多右エ門を助けようとしました。

太宰は『針医の圭樹』を、『奉教人の死』の真逆の作品として、書いたものと考えられます

まとめ

本記事では、『針医の圭樹』のあらすじと、この作品が芥川龍之介の『奉教人の死』から受けた影響についてお伝えしました。

『針医の圭樹』に興味がわいた方は、ぜひ実際に手に取って読んでみてください。

『針医の圭樹』は、下記の『地図―初期作品集―』に収録されています。

書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
目次:
最後の太閤
戯曲 虚勢
角力
犠牲
地図
負けぎらいト敗北ト
私のシゴト
針医の圭樹

将軍
哄笑に至る
口紅
モナコ小景
怪談
掌劇 名君
股をくぐる
彼等と其のいとしき母
此の夫婦
鈴打
哀蚊
花火
虎徹宵話
  *
断崖の錯覚
あさましきもの
律子と貞子
赤心
貨幣
  *
洋之助の気焔

なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしました。

それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。

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