『将軍』は太宰治が中学生のときに、「蜃気楼」という同人雑誌で発表した作品です。
本記事では、『将軍』のあらすじを紹介したうえで、作品のモデルとなった人物についてお伝えします。
なお、『将軍』は新潮文庫の『地図―初期作品集―』に収録されています。
読んでみたい方は、ぜひ下記からお買い求めください。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
『将軍』のあらすじ
僕は将軍を頑固で、「ハラキリ」しか芸がないような人だと思っていた。
その将軍の遺物展覧会が、この町で開かれるというので、うちの学校では全生徒が見に行くことに。
会場に入ると、将軍が大事にしていたという日本刀が目に入った。
それを眺めていると、先生から全員座るように指示が出た。
そこへ将軍の甥が現れ、講演会が始まる。
彼が話し始めたのは、いかに将軍が頑固だったか、というエピソード。
僕は馬鹿馬鹿しいと思って、すぐに飽きてしまった。
続いて、その甥が話してくれたのは、将軍は決して人前では昼寝をしなかったが、自分の部屋ではこっそり昼寝をしていたということ。
この話はちょっと面白かった。
また、彼は、小さい頃に将軍に蕎麦をたらふく食べさせてもらって、お腹いっぱいで歩けなくなった自分をおぶって車に乗せてくれた、というエピソードを披露。
僕はますます愉快になってきた。
将軍も実際は、良いお爺さんだったんだ。
それから甥は、将軍は読書好きで、面白い本があれば他人に貸して感想を求めたこと、外国に行ったときには土地で一番のホテルに泊まって、高級な葉巻を吸ったことを話してくれた。
僕はとうとう将軍のことが大好きになった。
そこで甥の講演会はいったん休憩となり、自由行動に。
僕は将軍の遺物を見て回ったが、なんとなく気がソワソワして、外へ出たくなった。
コソコソ会場を後にした僕は、上機嫌で道を歩く。
こんなに嬉しい気持ちで歩けることは、生涯に2回も3回もあるだろうか。
僕は「フフン」と得意気に鼻を動かし、こう呟いた。
“He is not what he was.”
『将軍』が執筆された背景
『将軍』は、太宰治が中学4年生(数え年で18歳)のときに、「蜃気楼」という同人雑誌の6月号で発表した作品です。
▼「蜃気楼」6月号
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.51
発表されたときの署名は、本名の「津島修治」でした。
『将軍』の解説
ポイント1. この将軍は乃木大将のこと
本作品に登場する「将軍」は、乃木希典のことを指します。
▼乃木希典の肖像
出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」
乃木は陸軍大将として日露戦争に参加し、旅順攻略の指揮を執ったことで有名です。
彼は1912年(太宰が数え年で4歳のとき)、明治天皇の葬儀がおこなわれる当日に切腹をして亡くなりました。
「将軍」という呼び名と、作中で「ハラキリ」のワードが登場することから、本作の将軍は乃木希典であるとわかります。
また、実は芥川龍之介の作品にも、同じタイトルの『将軍』があります。
芥川の『将軍』は、以下の4つの章で構成されており、それぞれの章で乃木大将とみられる「N将軍」が描かれている作品です。
- 一 白襷隊
- 二 間牒
- 三 陣中の芝居
- 四 父と子と
▼芥川龍之介の『将軍』は、下記の文庫に収録されています。
太宰は芥川のこの作品に感化されて、乃木大将を題材に『将軍』を書いたものと思われます。
ポイント2. “He is not what he was.”の意味
本作品の最後の言葉、「He is not what he was.」を、日本語に訳すと「彼は昔の彼ならず」です。
太宰は、この「彼は昔の彼ならず」をタイトルにした作品を、8年後の1934年(数え年で26歳のとき)に発表しています。
まとめ
本記事では、『将軍』のあらすじや執筆背景などを紹介しました。
『将軍』という作品に興味がわいてきた方は、ぜひ『地図―初期作品集―』を購入して、読んでみてください。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
目次:
最後の太閤
戯曲 虚勢
角力
犠牲
地図
負けぎらいト敗北ト
私のシゴト
針医の圭樹
瘤
将軍
哄笑に至る
口紅
モナコ小景
怪談
掌劇 名君
股をくぐる
彼等と其のいとしき母
此の夫婦
鈴打
哀蚊
花火
虎徹宵話
*
断崖の錯覚
あさましきもの
律子と貞子
赤心
貨幣
*
洋之助の気焔
なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしました。
- 『評伝 太宰治〈上・下〉』相馬正一.津軽書房,1995
- 『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治.新潮社,1983
- 『太宰治の年譜』山内祥史.大修館書店,2012
- 『太宰治大事典』志村有弘・渡部芳紀.勉誠出版,2005
それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。
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— コカツヨウヘイ|元司書のライター (@librarian__y) September 5, 2023
















