太宰治

埋め合せ|中学生の太宰治が兄と作った小冊子に掲載した作品

『埋め合せ』は、中学生の太宰が兄と一緒に作った「青んぼ」という小冊子で発表された作品です。

本記事では、『埋め合せ』の全文を掲載したうえで、執筆された背景や注目ポイントをお伝えします。

『埋め合せ』の全文

鶏がバタバタ走りだした。
真剣になって居た。そして小屋の棟木に先を争ってとまった。
さてそこで二羽一緒にすまし込んで鳴いた。イヤその時の鶏の馬鹿らしく見えたこと。

×

兄の子は昨日やっと立って歩けるようになった。ゴム靴をはかせて地面に立たせた。立ったままワッと火のつくように泣いてしまったのは無論である。
実に偉大なる仕事を、この子はスバラシクもやってのけたのである。泣き声を聞いて居るうちに私迄、とうとう泣いてしまった。

×

「こんどのは俺の傑作だよ。大傑作だよ。」
私は兄から十万回も、この語を聞かされた。私はしかたく読んだ。友人の一人にも読ませた。
「どうだったい」「アアどうもネ」「どうも……」
そして二人はク笑した。
しかも兄のこの創作、題して「ク笑に終る」とあった。

×

今にして思う。兄のあの創作は単なる紙面に活字として表われたものではなく、モットモット青み、即ち深さがあったのだ。
言い変えれば兄の創作は私達に「大傑作」だと十万回言って置いて最後に、私と友人に口をゆがめさせてク笑をやらせ、そこで「ク笑に終る」と来るのではなかろうか。(兄よ私の見当が違いましたか)
そこで私がいう。「偉大なる創作である」
「偉大なるテクニックである」
又言う。「夢川利一は偉大なる作家である」けだし漫談ならず、皮肉ならず、私の所謂「純情」より出でたるなり。

×

「ネ、そしてしぼったら、アイスクリームのようなウミがチョロチョロ出たヨ」と言った子があった。真夏の理科教室。先生が皆に小さく驚くべき実験をやって見せて居る。暑い日だ。「先生、雨を降らせて下さいナ」と叫んだ児童もある。

『埋め合せ』が執筆された背景

埋め合せ』は、太宰治が中学4年生(数え年で18歳)の夏休みに、兄の圭治と一緒に作った「青んぼ」という小冊子の創刊号に掲載された作品です。

発表した際の署名は、本名の「津島修治」をもじった「辻島衆二」でした。

「青んぼ」の第2号に掲載されている『再び埋め合せ』で太宰は、本作について下記のように書いています。

先月は編集の穴埋めの目的で「埋め合せ」を書いたのである。

事実、「青んぼ」の創刊号では、この『埋め合せ』のほかに『口紅』という作品も発表しており、この2作を読み比べると『口紅』のほうが本命だったように思われます。

『埋め合せ』における注目ポイント

『埋め合せ』に登場する、『ク笑に終る(苦笑に終わる)』は、太宰の兄の圭治が書いた作品です。

▼太宰の兄、津島圭治

津島圭治
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.4

当時の圭治は、東京で「十字街」という同人雑誌に「夢川利一」という筆名で参加しており、『苦笑に終わる』はそこへ掲載した作品だと思われます。

この『苦笑に終わる』は、太宰のほかの作品でも以下のように言及されています。

東京に居る兄の利一からこんな手紙が来た。
「こんど同人雑誌十字街に俺が創作『苦笑に終わる』を書いてやったが、近頃の俺の自信がある作品といってよい。読んで見ろ」
自分はまだ「苦笑に終わる」を読んで見ない。
そして自分も「哄笑に終わる」を書いて見た。

『哄笑に至る』津島修治(太宰治)

そんなとき、二階の西洋間のソファにひとり寝ころんで、遠く兄たち二人の声色を聞き、けッと毒笑しているのが、三男でありました。この兄は美術学校にはいっていたのですが、からだが弱いので、あまり塑像のほうへは精を出さず、小説に夢中になって居りました。文学の友だちもたくさんあって、その友人たちと「十字街」という同人雑誌を発行し、ご自身は、その表紙の絵をかいたり、また、たまには「苦笑に終る」などという淡彩の小説を書いて発表したりしていました。夢川利一という筆名だったので、兄や姉たちは、ひどい名前だといって閉口し、笑っていました。

『兄たち』太宰治

『埋め合せ』を読む方法

『埋め合せ』は、「決定版 太宰治全集」の「1巻 初期作品」に収録されています。

ただし、この本は現在、出版元で品切れ(絶版?)になっており、古本で買おうとしても値段が高めです。

このため、読みたいのであれば、「決定版 太宰治全集」が揃っている図書館へ行って、閲覧することをおすすめします。

図書館で定められるルールに従えば、コピーをとることも可能です。

まとめ

本記事では、『埋め合せ』の全文・執筆背景・注目ポイントをお伝えしました。

なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしています。

それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。

太宰治グッズ、販売中!

SUZURI

オリジナルグッズ販売サイト「SUZIRI」で、太宰治の作品をモチーフにしたTシャツやキーホルダーなどを販売しています。

ご興味のある方は、ぜひ下記のボタンからチェックしてみてください!

太宰治のグッズを見てみる

▼実物はこんな感じです。