太宰治

私のシゴト|中学生の頃の太宰治の死生観が垣間見える作品

『私のシゴト』は、中学3年生の太宰治が「蜃気楼」という同人雑誌で発表した作品です。

本記事では、この作品のあらすじや執筆背景、注目ポイントを紹介します。

なお、『私のシゴト』は、新潮文庫の『地図―初期作品集―』に収録されていますので、気になる方は、下記から購入して読んでみてください。

書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)

『私のシゴト』のあらすじ

『私のシゴト』は、太宰が自身の創作について語った作品で、内容は以下の6つの話に分けられます。

  • 以前書いた戯曲の話
  • 醜男の話
  • 悪人の話
  • 仇討ちの話
  • 秘密の話
  • 武士の話

それぞれの内容について、順番に見ていきましょう。

以前書いた戯曲の話

私は以前、盲目の青年と継母が登場する戯曲を書いたことがある。

その青年は心がねじれていて、継母が見つけてきた医者のおかげで目が見えるようになって、本当は嬉しかったのに、継母には心にもないことを言う。

なぜ、そんなことをしたのかというと、青年は継母の恩を被りたくなかったから。

ひどい言葉をかけられた継母のほうでも、「お前の目が治ったら、なんだか憎らしく思えてきた」なんてことを言い出す。

これはもっともな話で、今までは盲目ということで自分より下に見ていた息子が、急に目が見えるようになって、自分と対等になって毒ついてきたら、憎悪を感じるのも無理はない。

そして、この戯曲は父親が「もとの盲目に戻るのが一番だ」と言って、硫酸を持って青年を追いかけるところで幕が閉じる。

自分としてはあまり自信作でもないが、捨てられないところもあるような気がする。

醜男の話

次に、今考えている作品の概要を紹介する。

物語の主人公は醜男で、彼は自分の顔を他人に見られることを嫌っていた。

彼の鼻は非常に大きく、唇は紫色で分厚く、目は真っ赤でいつも目ヤニが付いており、顔にはニキビがたくさんある。

あるとき、この醜男は弟にイタズラで鼻を摘まれたことに腹を立て、その弟を殺めてしまう。

殺人の罪で裁判を受けることになった彼は、弁護士に「彼はご覧のとおりの醜男だから、鼻を摘まれてカッとなったのには無理もない。同情を乞う」と弁護される。

醜男はこの弁護士の無礼な発言が癪に触ったが、なんと裁判官まで判決の際に「同情する」と言い出す。

これに対して醜男は、「馬鹿にするな!」と叫んだのだった。

悪人の話

続いて紹介するのは、とある悪人の話。

この悪人は、極めて巧妙な手口による悪事を企てたが、それに気付いた刑事によって未然に防がれてしまう。

しかし世間では、その手口の巧妙さに、悪人の頭脳を褒める者までいた。

悪人を捕まえた刑事は、自分が褒めてもらえないことが気に食わず、ついには自分で悪事を働くようになってしまったのだった。

仇討ちの話

次の話の時代設定はいつでも良いのだが、仮に戦国時代とする。

40歳くらいの男が、20歳くらいの男へ仇討ちを試みた。

この40男は負けそうになるのだが、助太刀をしてくれた人がいて、なんとか仇討ちを成功させる。

しかし、その助太刀してくれた人が威張るものだから、40男は彼にも切りかかった。

結局、40男は返り討ちに遭い、周りで見ていた人たちからは「恩知らずだ」と罵られてしまう。

ただ、筆者の私は、その40男に同情している。

秘密の話

次に、こういう話はどうだろう。

登場人物のAは、Bの秘密を握っている。

Bとしては、それを世間にバラされたくないから、いつもAのご機嫌を伺っていた。

そのうちに、Aが亡くなる。

Bとしては、自分の秘密を知る人が死んだのだから、喜びそうなものだが、反対にひどく悲しんでいた。

それはおそらく、Bに良くしてもらっていたAは、Bに好意を持つようになり、いつしか2人は親密な関係になっていたからだろう。

武士の話

最後に、私が夢で見た話をひとつ。

とある武士が切腹をするとき、桜の花がちらちらと舞っていた。

その花びらがドブに落ちて沈んでいくのを見た武士は、何を思ったか、その場から逃げてしまう。

周りの人は、それを「武士にあるまじき行為」と罵った。

数年後、その武士は、国を立派に改革した大老となる。

そして、自分の仕事を全うした彼は、ゆったりと落ち着いた心境で亡くなった。

彼は果たして、武士ではなかったろうか。

こんないい加減なことを言って、物語は終わる。

「とにかく、昔の武士はあまりに生命を軽んじ過ぎたのではないか」と、私は常に思っていたから、こんな夢を見たのだろうか?

『私のシゴト』が執筆された背景

私のシゴト』は、太宰が中学3年生(数え年で18歳)のとき、自ら立ち上げた「蜃気楼」という同人雑誌の2月号で発表された作品です。

▼「蜃気楼」2月号

「蜃気楼」2月号
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.50

発表したときの署名は、本名の「津島修治」でした。

『私のシゴト』における注目ポイント

ポイント1. 登場する「戯曲」の元ネタ

作中に登場する「太宰が以前書いた、盲目の青年が登場する戯曲」は、この4ヵ月ほど前に発表している『虚勢』のことを指します。

『虚勢』という作品については、下記の記事で詳しく紹介しています。

ポイント2. 「醜男」のモデル

子どもの頃の太宰は、自分の鼻が大きいことや、ニキビ肌をとても気にしていました。

そして、母に似て美形だった弟に嫉妬をしていました。

このことから、作中の「醜男」の登場人物のモデルは、太宰本人と彼の弟だと考えられます。

ポイント3. 太宰の死生観

この作品のなかでは、「とにかく昔の武士は余りに生命を軽んじ過ぎたのではないかと自分は常に思って居た」という記述がありました。

一方で、太宰はこの作品を書いた3年後に、初めての自殺未遂を起こすと、それから何度も自殺を試みており、自分の命を軽く扱っている節があります。

この作品を読むと、少なくとも本作品を書いた中学生の太宰は「生命」というものを、重く受け止めていたことがわかります。

まとめ

本記事では、『私のシゴト』のあらすじや注目ポイントをお伝えしました。

この記事で『私のシゴト』に興味がわいた方は、ぜひ下記から『地図―初期作品集―』をお買い求めいただき、実際に読んでみてください。

書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
目次:
最後の太閤
戯曲 虚勢
角力
犠牲
地図
負けぎらいト敗北ト
私のシゴト
針医の圭樹

将軍
哄笑に至る
口紅
モナコ小景
怪談
掌劇 名君
股をくぐる
彼等と其のいとしき母
此の夫婦
鈴打
哀蚊
花火
虎徹宵話
  *
断崖の錯覚
あさましきもの
律子と貞子
赤心
貨幣
  *
洋之助の気焔

なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしました。

それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。

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