今回は、『談志の落語』の4巻を参考に、『死神』というネタのあらすじを紹介します。
それでは、さっそく一緒に見ていきましょう。
あらすじ
柳の木の下で
「あーあ、もう死んじゃおうかな」
熊五郎は、柳の木の下でこんなことを考えていました。
妻からは、稼ぎが少ないだのなんだの文句を言われっぱなし。
二人の子どもも、揃って妻の味方。
「俺なんか、死んじゃったほうがいいんだ。いっそのこと、首でも吊ってやろうかな……」
すると、突然、後ろから声をかけられました。
「手伝ってやろうか?」
驚いた熊五郎が慌てて振り返ると、そこに立っていたのは、鼠色の着物を着た痩せた老人。
「誰だ、お前は?」
「死神だよ」
「死神?気味が悪いから、あっちに行ってくれ」
邪険に扱う熊五郎に構わず、死神は「お前に金儲けをさせてやるよ」と言い出します。
「金儲けって、どうやって?」
「医者になるんだ」
死神は、詳しいやり方を説明し始めました。
「俺が持っている、この杖を手にしている間、お前は死神が見えるようになる」
「だから、医者を名乗って、この杖と一緒に病人のところに行くんだ」
「重い病で床に伏せている人の近くには、必ず死神がいる」
「もしも、死神が病人の枕元に座っていたら、もうその人は寿命だ。何をしても助からない」
「ただ、足元に座っていたなら、まだ寿命は尽きていない。とある呪文を唱えれば、死神はいなくなり、病人の体調はたちどころに回復する」
「その呪文とは、『アジャラカモクレン、テケレッツのパー』」
「その後に、パンパンと2回柏手を打てば、すぐに死神は消えるよ」
初めての患者
死神の話を受け、物は試しと、さっそく家に帰り、医者の看板を掲げた熊五郎。
すると、すぐに依頼人がやってきます。
「失礼します。こちらは、お医者様のお宅でしょうか」
「ああ、そうだよ」
「実は、うちの店の主人が患いまして。どのお医者様に診ていただいても、一向によくなりません。それで、占い師に相談したところ、こちらの方角で看板を出しているお医者に診てもらえと言われたものですから……」
「そうかい。それじゃあ、さっそく診てあげよう」
死神からもらった杖を片手に、病人の家を訪ねた熊五郎。
話に聞いたとおり、寝ている病人の足元に死神が座っています。
そこで熊五郎は、例の呪文を唱えました。
「アジャラカモクレン、テケレッツのパー」パンパン
柏手を打った途端、死神はいなくなり、病人が起き上がりました。
「ありがとうございます。主人の体調はすっかり良くなったようです。こちら、お礼として五十両をお納めください」
「そんなに貰っていいのかい?」
それから、「重病の患者を一瞬で治した名医がいる」という噂があっという間に広がり、熊五郎は引っ張りだこに。
死神が足元にいた病人は、呪文を唱えてすぐに治し、枕元にいた場合には「これはもう助かりません」と言って、帰ってしまう。
それで、家を出るか出ないかのところで、病人が息を引き取るものだから、「あの人は本物だ」と、さらに噂は広がりました。
重病の大富豪
医者として大成功を収め、ちょっとした金持ちになった熊五郎。
憎い奥さんと子どもに金をやって別れて、何人もの愛人を囲って大豪遊を始めます。
そのうち、愛人たちが「京都のほうに旅行に行きたい」と言うものだから、大勢を引き連れて豪勢な旅に出かけました。
しかし、さすがにお金を使いすぎて、家に帰ってくる頃には、ほとんど無一文に。
そこで熊五郎は、また金を稼ぐために、医者の仕事に精を出しました。
ただ、どうしたわけか、今度はどこに行っても死神が病人の枕元に座っています。
病人を治せないと報酬ももらえないので、熊五郎はだんだん焦ってきました。
そんななか、大富豪の商家から「うちの主人の病気を治してほしい」との依頼が入ります。
「今度こそ、足元に座っていてくれよ」と願いながら、病人のもとに駆けつけた熊五郎でしたが、案の定、死神が座っていたのは枕元。
「これは、もう駄目です。寿命です」と言って、すぐに熊五郎は帰ろうとしましたが、依頼人は「待ってください」と食い下がります。
「そこをどうか、お願いします。主人がこのまま亡くなってしまうと、店の財産のことが、まったくわからなくなってしまうんです」
「せめて1日でも、主人を話ができる状態にしていただけたのなら、お礼に千両差し上げても構いません」
「千両ですか!?」
金に目が眩んだ、熊五郎。
ここで、名案を思い付きます。
「店から、若い男を4人連れて来られますか?」
「その4人に布団の四隅に座ってもらって、私が合図をしたら、病人の頭と足の位置が入れ替わるように、ぐるっと布団を回してほしいんです」
作戦を実行するため、さっそく4人の男が布団の四隅に配置されました。
そして、そのまま夜が更けるのを待って、枕元の死神がウトウトしてきたタイミングで、合図を出した熊五郎。
男たちは布団を持ち上げ、病人ごとぐるっと180度回転させました。
一瞬にして、死神が座る位置は、病人の枕元から足元に切り替わります。
そこで、「アジャラカモクレン、テケレッツのパー」パンパン、と早口で呪文を唱えた熊五郎。
ウトウトしていた死神は、驚いた顔をしてスッと消え、それと同時に病人の体調は一気に回復したのでした。
蝋燭の洞窟
大富豪の病気を治し、報酬として千両もらえることになった熊五郎は、意気揚々と家に帰っていきます。
すると後ろから突然、「おい、えらいことをしてくれたな」と、最初に呪文を教えてくれた死神から声をかけられました。
なんと、先ほど大富豪のところにいたのは、この死神だったのです。
「こっちについてこい」と言われ、熊五郎が連れて来られたのは、真っ暗な洞窟。
死神に案内されて、洞窟の中を奥へ奥へと進んでいきます。
やがてたどり着いたのは、見渡す限り蝋燭が置かれている部屋でした。
「この蝋燭は、一体何なんです?」
この熊五郎の問いに、死神は「この蝋燭は、人間の寿命だ」と答えます。
そこで熊五郎は、自分の近くで、長い2本の蝋燭が勢いよく燃えているのを見つけました。
「この2本の蝋燭は、誰の寿命なんですか?」
「それは、お前の子どもたちの寿命だ」
「あいつら、まだまだ元気に生きられるのか。それは良かった。じゃあ、その隣で、よく燃えてる半分くらいの蝋燭は?」
「お前の元妻だな」
「そうか。どこにいるのか知らないが、あいつも、まだまだ生きられるんだね」
と、ここで熊五郎は、今にも消えそうな短い蝋燭を見つけました。
「この蝋燭は、そろそろ消えそうだね。きっと、もうすぐ死んじゃう奴のだ」
「その蝋燭は……、お前のだ」
言葉を失っている熊五郎を尻目に、死神は説明を続けます。
「あっちのほうで勢いよく燃えてる蝋燭があるだろう?前までは、あれがお前の寿命だった。だが、お前は金に目が眩んで、死にそうな病人と寿命を取り替えちまったんだよ」
「そんな……。なんとかならないんですか?」
ここで死神は、新しい蝋燭を取り出します。
「仕方ない。お前にもう一度チャンスをあげよう。この新しい蝋燭に、あの今にも消えそうな蝋燭から火を移せたら、寿命が復活するよ」
死神から蝋燭を受け取り、すぐに火を移そうとし始めた熊五郎。
しかし、手が震えて、なかなか上手くいきません。
それを見て、死神が熊五郎を煽ります。
「そんなに震えてると、火が消えちゃうよ」
「ほら、消えるぞ」
「消えたら、死ぬぞ」
「消えるぞ」
「消える」
「……消えた」
おわりに
今回は、『死神』のあらすじを紹介しました。
この動画で興味を持っていただけたなら、ぜひ実際に『死神』を聴いてみてください。