『犠牲』は、太宰が中学3年生のときに「蜃気楼」という同人雑誌の創刊号で発表した作品です。
本記事では、『犠牲』のあらすじや執筆背景、注目ポイントなどをお伝えします。
なお、『犠牲』は新潮文庫の『地図―初期作品集―』に収録されていますので、気になる方は、ぜひ手に取って読んでみてください。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
『犠牲』のあらすじ
誠二は5、6人の友達と一緒に、信一の家に遊びに来ていた。
そこで「庭に行って、相撲を取ろう」という話になり、最初は誠二と信一が取り組みをすることに。
2人の勝負はなかなか決着がつかず、行司役の勇ちゃんが「引き分け!」と叫んだ。
しかし、誠二と信一は夢中になっていて、その声に気が付かない。
勇ちゃんが止めに入ったところで、2人はほとんど一緒に大きな音を立てて倒れた。
これには、行司の勇ちゃんまで巻き込まれてしまう。
それからすぐに、誠二と勇ちゃんは立ち上がったのだが、信一は起きてこない。
心配になった誠二が声をかけると、信一は顔を押さえており、指の隙間からは血がたらたらと垂れていた。
これを見た誠二は、恐怖で震える。
というのも、信一の父の源太は、村で有名な乱暴者。
息子の怪我を知った源太に、加害者である自分は何をされるかわからない。
手当のため、ほかの友達たちと一緒に家へ引き上げていく信一の姿を、誠二は震えながら見ていた。
少しして、信一の家から誰かが出てきて、誠二のもとに近づいてくる。
誠二はもう諦めたような、怖くなりすぎたような変な気持ちになって、足元のタンポポのつぼみを見つめていた。
そこで誠二に声をかけたのは、源太ではなく、信一のお母さん。
彼女は、誠二を可愛がってくれる、優しい人だった。
誠二は、近寄ってきたお母さんに「信一と相撲を取って、怪我をさせてしまったのは僕です」と白状する。
それを聞いたお母さんは「信一の怪我は軽いから、心配いりません。あなたたちは、まだここで遊んでいらっしゃいよ」と笑顔で言ってくれた。
こうして誠二が安堵しているなか、友達の1人が近づいてきて、こう囁いた。
「君は偉いね。勇ちゃんの犠牲になるなんて」
「犠牲?」
「僕たちは、さっき信一から聞いたんだよ。あれは、勇ちゃんの指が信一の目に入ってしまったらしいじゃないか」
これでやっと、誠二は「犠牲」の言葉の意味を理解した。
そして、こんな犠牲になら何度なっても良いと思った。
『犠牲』が執筆された背景
『犠牲』は、太宰が中学3年生(数え年で17歳)のときに、自分が中心となって創刊した「蜃気楼」という同人雑誌の創刊号で発表された作品です。
▼「蜃気楼」創刊号
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.50
このときの署名は、本名の「津島修治」でした。
なお、「蜃気楼」の創刊号では、『犠牲』のほかに『温泉』という作品も発表しています。
『温泉』について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
『犠牲』の登場人物
- 誠二:今年、中学に入ったばかりの男の子。太宰の本名、津島「修治」をもじって命名したと思われる。
- 信一:誠二と仲の良い友達で、源太の息子。あだ名は「信ちゃん」。
- 源太:村の憎まれ者。
- 勇ちゃん:誠二と信ちゃんが相撲をした際、行司を務めた友達。
『犠牲』における注目ポイント
『犠牲』は、その2週間ほど前に発表した『角力』と登場人物の名前が同じです。
『角力』のほうでも、主人公の名前は「誠二」で、その親友として「信ちゃん」という人物が登場します。
さらに「源太」も、誠二の兄を殴った人物として登場していました。
誠二はこの間兄が村はずれの源太に手ひどくたたかれて泣きはらしたような眼をして紫にはれ上った頬を押えて父母に見つからぬように家の裏口からコッソリ入って来たイヤな光景を思い浮べずには居られなかった。
『角力』辻魔首氏(太宰治)
この『角力』については、下記の記事で詳しくお伝えしています。
まとめ
本記事では、『犠牲』のあらすじや執筆背景などを紹介しました。
記事をご覧になって、本作に興味が出てきた方は、ぜひ新潮文庫の『地図―初期作品集―』を手に取って読んでみてください。
書名:地図―初期作品集―
著者:太宰治
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
目次:
最後の太閤
戯曲 虚勢
角力
犠牲
地図
負けぎらいト敗北ト
私のシゴト
針医の圭樹
瘤
将軍
哄笑に至る
口紅
モナコ小景
怪談
掌劇 名君
股をくぐる
彼等と其のいとしき母
此の夫婦
鈴打
哀蚊
花火
虎徹宵話
*
断崖の錯覚
あさましきもの
律子と貞子
赤心
貨幣
*
洋之助の気焔
なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしました。
- 『評伝 太宰治〈上・下〉』相馬正一.津軽書房,1995
- 『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治.新潮社,1983
- 『太宰治の年譜』山内祥史.大修館書店,2012
- 『太宰治大事典』志村有弘・渡部芳紀.勉誠出版,2005
それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。
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