太宰治

再び埋め合せ|太宰治が兄と作った「青んぼ」の第2号に掲載された作品

『再び埋め合せ』は、太宰治が中学4年生の夏休みに、兄と作った「青んぼ」という小冊子で発表された作品です。

本記事では、『再び埋め合せ』の概要やあらすじなどをお伝えします。

『再び埋め合せ』の概要

再び埋め合せ』は、太宰治が中学4年生(数え年で18歳)の夏休みに、兄の圭治と一緒に作った「青んぼ」という小冊子の第2号に掲載されました。

▼「青んぼ」第2号

「青んぼ」第2号
出典:『図説 太宰治』日本近代文学館,筑摩書房,2000,p.35

発表したときの署名は、本名の「津島修治」をもじった「辻島衆二」です。

『再び埋め合せ』は、「青んぼ」の創刊号に掲載された『埋め合せ』の続編のような作品で、冒頭では下記のように書かれています。

 先月は編集の穴埋めの目的で「埋め合せ」を書いたのである。しかし今度の埋め合せはそれと少しちがう。

 無論今月は創作を書いたのである。余程自信の持てる奴であったが某から悪口を言われてシッカリ気を、くさらしてしまった。某はいつでも遠慮なしにドシドシ言って呉れるから非常に恐ろしい。だが私は某を力強く思って居るのは言う迄もないことである。

 と言うわけで私は創作をやめにして、その埋め合せに再びうめ合せを書いたのである。野暮なシャレだと思う人はそう思って居て下さい。私は一向困らない。チョイと面白いなと思われるに至ってはいよいよ困らない。

そして、この後には7つの小作品が並びます。

『再び埋め合せ』のあらすじ

死刑

宿の女中のことを、一人の客が褒めている。

しかし、その客は最後にこんなことを言った。

「これでお前の口元が閉まっていたら、申し分がないのだが。ワッハッハッ」

その言葉を聞いた女中は笑っていたが、それから彼女は努めて口を閉じていた。

彼女は蓄膿症だったから、口を閉じているのがどんなに辛かったか。

しばらくは鼻呼吸をしていたのだが、やがて苦しくなったようで、また口を開けてしまった。

できることなら、私はあの客を死刑にしてやる。

愛情

自分の子どもを散々怒鳴りつけて、挙げ句の果てに殴った父親がいた。

子どもは、父親の脚にしがみついて、ワアワア泣き叫んでいる。

その様子を見て、私は「嫌なものを見た」と思った。

「なあに、この子は時々、ちょっと馬鹿なことをするものだから。普段は、とても大人しいんですがね」

父親はそう言って、子どもの頭に軽く手を乗せた。

私は以前、こんな話を聞いたことがある。

とある医者が、事情があって愛犬を解剖したとき、その犬はメスで腹を切られながらも尻尾を振って、主人の手をぺろぺろ舐めていたらしい。

嬉しかったこと

中村の兄が亡くなり、彼はそのために学校を辞めなければならないとか、そんな面倒なことが起こった。

その中村が、金室と一緒に2人で私のところに遊びにきたので、みんなで海へ釣りをしに行くことに。

そこで釣りに夢中になっていると、中村の姿が見えなくなった。

思えば、中村は兄が亡くなって、釣りどころではなかったのである。

私は中村を釣りに引っ張ってきたことを後悔した。

それから中村を探したら、彼は岩陰でぐっすりと眠っていた。

私は、これほど嬉しく感じたことはない。

イゴイスト

あるエゴイストがいた。

その人が教師になって、水に溺れた生徒を助けてやったことが新聞に載った。

そこでの彼の言い分が面白い。

「あれを見殺しにしてみろ。こっちの首が危ないよ」

親の恩

私が下宿している家の兄貴に、この間子どもが生まれた。

私は「“子どもが生まれたときに、初めて親からの愛を知る”なんて、本当ですか?」と聞いてみたら、兄貴はこう答えた。

「そうでもないようだな。第一、親父が俺をこんなに可愛がってくれたかい?」

私は、他人から夢の話を聞かされるのが嫌いだ。

だが、他人に自分の見た夢の話をするのは好きだ。

わがままなようだが、好きなんだから仕方がない。

先日私は、こんな夢を見た。

ある女性が私の家に来て、兄が対応をしている。

それを私は、隣の部屋から覗いていた。

2人はお互いに睨み合っている。

すると突然、2人は腕相撲を始めた。

その後、はっきりとは覚えていないが、私もその部屋に入って、一緒に腕相撲をしたらしい。

馬鹿馬鹿しいと言えばそれまでだが、私は面白い夢だと思う。

現代の小説家で、これくらいの物語を書けるものは、一人もいないだろう。

槙島がいつか「俺は蛙の生まれ変わりらしい」と白状したが、実は私もそうらしい。

槙島はその理由を「蛇が嫌いだから」と言っていたが、私は雨になると頭が痛くなる。

従兄弟から聞いた話だと、雨が降りそうなときに蛙がギャアギャア鳴きだすのは、頭が痛くなるからなんだそうだ。

もっとも私は、天気が悪いからといって、泣きだすようなことはしないつもりである。

『再び埋め合せ』に登場する友人たち

『再び埋め合せ』には、中学生だった太宰の文学仲間たちが登場します。

ここでは、その仲間を1人ずつ簡単に紹介します。

  • 中村:本名は「中村貞次郎」。太宰の中学生からの親友で、「蜃気楼」と「青んぼ」の同人だった。太宰後期の作品『津軽』でも、「N君」の名前で登場する。
  • 金室:「金室雅楽」という筆名で、「青んぼ」に参加している太宰の中学の友達。本名は「桜田雅美」で、「蜃気楼」の立ち上げメンバーでもある。
  • 槙島:太宰の兄、圭治の文学仲間。「槙島真三」の筆名で「青んぼ」に参加しており、本名は「高橋堅太郎」。

▼「蜃気楼」創刊1周年を記念して撮った写真

「蜃気楼」創刊1周年記念写真
出典:『新潮日本文学アルバム 19 太宰治』太宰治,新潮社,1983,p.17

後列右から2番目が「太宰」。右から3番目が「中村貞次郎」。
前列1番左が「桜田雅美」。左から3番目(中央)が太宰の弟「津島礼治」。

​​『再び埋め合せ』を読む方法

『再び埋め合せ』は、「決定版 太宰治全集」の「1巻 初期作品」に収録されています。

この全集はバラ売りもされているものの、「1巻 初期作品」は出版元で品切れ(絶版?)になっています。

古本で買おうとしても値段が高いので、『再び埋め合せ』を読みたい場合は、図書館で閲覧することをおすすめします。

ご近所の図書館に「決定版 太宰治全集」が所蔵されていないか、確認してみてください。

もし所蔵がなくても、司書さんに確認すれば、所蔵している近隣の図書館を教えてくれたり、取り寄せてくれたりするはずです。

まとめ

本記事では、『再び埋め合せ』の概要やあらすじをお伝えしました。

なお、記事を執筆するにあたっては、以下の書籍を参考にしています。

それぞれの書籍の概要については下記の記事にまとめていますので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。

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